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第十八話 第一回能力者会議 本日のまとめ

前回のあらすじ


 ラウラの提案により、チームを結成した実里たち。

 翌日の昼休み、弁当に舌鼓を打ったところで、カフカから能力者会議開始の宣言と共に、衝撃の一言が……


カフカ「七大罪の能力ですが、実は半年以内に集めないと世界が滅びます」

「……え、いきなり何?」

「…半年以内って、どういうことなの、カフカさん」

「冗談じゃ……ないんですよねぇ?」

「はい。紛れもない事実です」


 カフカはポーチからいつものようにメモ帳を取り出し、付箋が貼ってある箇所を開いた。


「『災厄の力』という存在があります。『七大罪の力』は、天が管理している『箱』に封じられた『災厄の力』の一種です。私たち天の住人はこれらの力に対抗し、封印する術を持っていますが、他の世界では手に余る代物で、魔術、法力、超能力などが発達している世界でも同じです」

「魔術…? いえ、それより、私たちの力を半年以内に全て集めないと、どうして世界が滅ぶの?」

「はい。『七大罪の力』の場合、現世でそのままにしておくと、本当に少しずつですが人々の感情が歪んでいきます。例えば、温厚な人が普段なら怒りもしないような些細なことで気を荒立てたり、明るかった人が何の理由もなく突然落ち込んで引きこもってしまうなど、こう言っては何ですが、世間から見れば気にも留めないような微々たるものから始まっていくんです」

「全然世界が滅びそうな気配がないですけどぉ……」

「つまり、それからまだ発展していくということなの?」

「発展なんてレベルじゃないですよ? 皆さんにわかりやすいよう、端的に説明するならば、気が付いたら右も左もわからず、家族さえも信じられないような状態で、国は治安が乱れて混乱、とどめとばかりに世界規模の核戦争が勃発して地球人類史が終わっていました、ということになりかねません」


 冗談のような内容だが、それを聞いた瞬間、ゾッとした。カフカの言葉が真実味がおびていたからだ。本能が、彼女の言葉が嘘ではないと言っている気がした。それとも、僕に宿った『色欲』が、カフカの言葉を肯定しているのだろうか。

 オーエンさんも顔を青くしているが、ラウラさんは考えを整理しているのか、数秒黙った後で、カフカに続きを促した。


「今のは例えですが、どういう過程があるにせよ、間違いなく地球人類は終焉を迎えるでしょう。これを『ハルマゲドン現象』と私たちは呼称しています」

「世界の終焉(ハルマゲドン)……か。天使が言うと全く笑えないかな。あの『声』が言っていた世界の危機って、そういうことだったわけだね」


 ラウラさんがくっと顔を歪める。僕とオーエンさんも同じ顔になっている。


「ですが、半年以内に七つの力を全て集めてこの世界から持ち出せば、何が起きかけていても、歪みは正され、すべて綺麗に収まります」

「荒唐無稽でご都合主義な話だけど、本当なのね?」

「お約束します」

「わかった。まぁ、荒唐無稽というなら、私たちの力もかなり滅茶苦茶だけどね」


 ラウラさんが若干表情を和らげて苦笑したことで、張りつめていた空気が一気に緩んだ気がした。いつの間にか力んでいたらしく、肩が下がったのがわかった。


「ところで実里君は今の話、初めて聞いたのかな?」

「え? うん、初めてだよ」

「香乃君にも話してなかったの? どうして?」

「実里さん、ひいては皆さんがパニックを起こすと考えたからです」

「ねぇ、カフカの中で僕たちはどれだけ落ち着きがないと思われているのかな」

「よく考えてください実里さん。超能力を手に入れて、すべて集めてくださいと声がかかったとたんに争奪バトルを始めるような人たちが、世界滅亡と聞いて何を起こすのかを」

「え、そりゃあ……」


 不確定な情報だけを与えられたラウラさんやオーエンさんたちの行動が、さらに激化……殺してでも奪い取る、という光景が思考を掠める。それを読んだかのようにカフカは頷く。


「考える間でもありませんよね?」


 カフカの視線を受け、ラウラさんが苦虫を潰したとしか表現できないほど顔をしかめ、オーエンさんに至っては明後日の方角へ視線を向けて口笛を吹いていた。


「……とまぁ、元から回収=能力争奪戦と考えてしまう人々がいると困るので、期を見て話そうと思っていたんですよ」

「カフカの秘密主義は、なんという正論なんだけど、毒が入るよね」

「使い方によって毒は薬にもなります。今までの出来事と私の言葉が薬となって皆さんがこれ以上争わないことを願います」


 天使の笑顔は素敵なんだけど、言葉は苦い。


「さて、それでは『七大罪の力』の各能力について説明していきます」

「って言っても、僕たちの力はもう大方判明しているんじゃないかな」

「何をおっしゃる実里さん。皆さんはまだご自分の力の全てを知っているわけではありませんよ!」


 カフカがメモ帳を見ながら説明してくれた内容をまとめると、僕たちの能力は次のようになるらしい。




○香乃実里:『色欲』―生体反応や精神を操作できる。主に、読心、体温・触覚・生理現象操作、催眠、魅了などを扱える。


○円迎寺ラウラ:『強欲』―物質、非物質など関わりなく手に入れる力。使い方次第では、遠方の目標を瞬時に取り寄せるなどができるらしい。ただし、この力をもってしても『七大罪の力』の取り出しはできない。


○リーシェ・オーエン:『怠惰』―相手の精神に干渉し、気怠さや疲労を起こす。効果は絶大で、どれほど強い精神力や心の持ち主でもかかってしまう。応用として、能力者自身の存在やの共鳴反応を感知されないようにすることもできる。




「……ある程度は予想していたけれど、皆、中々えげつないかな……」


 ラウラさんが感心半分、呆れ半分という表情でしみじみとつぶやいた。


「私も多少なら実験をしたけれど、自分の力がここまですごいなんて知らなかった」

「いうなれば、『強欲』は『大罪の力』以外であれば、力量次第で何でも手に入れられるんです」

「問題はその、『大罪の力』を手に入れることができないってところね」

「でも能力取られたら大切な何かが消えちゃうし、別にいいんじゃないかな」

「それもそうね。……リーシェの能力は、想像していたよりも強力なんだね」

「そうですねぇ、私もまさかここまでとは思いませんでしたぁ」

「使いようによっては、世界を征服できたりして」

「ありえるかもしれない……」


 昨日のあれは、人生の中で一番キツい気怠さと気分悪さだったよ。もし多数の目標に使えるなら、世界征服もまた夢じゃないかもしれない。


「世界征服は面倒臭いのでやりません。それよりもぉ、ルーブル(Louvre)美術館(Museum)大英(British)図書館(library)の倉庫に入ってみたいですぅ。そして保管されている貴重な絵画や資料を見放題したいですぅ!」

「それをしてバレたら滅茶苦茶怒られるだろうからやめようね?」


 世界征服に比べればまだまだかわいい願いだ。ラウラさん、オーエンさんの手綱は任せたよ。


「香乃君の能力は……思った通りだね」

「うわぁ、香乃さんは女の敵ですねぇ」

「僕だって好きでこの力を宿しているわけじゃないし、僕は読心と体温触覚操作しか知らなかったからね? 力だって必要な時以外は使ってないよ!」


 やはりというか、色欲なんていうものだからある程度は覚悟していたさ。でもさ、魅了と催眠はダメだろ。生理現象操作って何するのさ。全部組み合わせたら最悪のエロ魔人の誕生だよ!


「実里さん落ち着いてください。実里さんは心優しい人って私は知っています」

「カフカ……」

「だから、エロ魔人だとしても、私は気にしません」

「人の心を読まないでくれるかな」

「天使ですから。…うーん、さっきから話がちょくちょく脱線しますね。昼休みももうすぐ終わりますし、本日のまとめを行いましょう」




○本日の会議のまとめ


・半年以内に能力を集めないと世界が滅亡。早く集めた方がいいけれど、バトルロワイヤルはダメ。


・各自の能力を知ることで、能力の制御に役立てよう。一歩間違えたら世界がヤバい。




「こんなところでしょうか。……さて、残りの能力者は、主に実里さんと円迎寺さんの共鳴反応を受けて集まるでしょう」

「問題は、能力を奪おうとする人たちへの対処ね」

「それについてなんですけどぉ…、香乃さんとカフカ様だけでは不安かもしれないですぅ。カフカ様はすごい力をお持ちだとは思いますが、能力者の力は強大ですぅ。もしカフカ様が狙われたら……」

「心配は無用です、オーエンさん。宿ってから一週間程度の能力者の攻撃を受けるほど、私は脆くありませんよ?」


 カフカの壮絶な笑顔に、僕は息が詰まった感覚に陥った。胸のあたりがひやりとし、汗がぶわっと噴き出す。


「あ、実里さん大丈夫ですか?」

「天使のオーラをいきなり出さないでくれるかな……心臓に悪いよ」

「天使のオーラ……厨二病っぽいですね!」

「明らかに厨二病で済むレベルじゃないからね?」


 っていうか厨二病を知っているのか。


「ごごご、ごめんなさいですカフカ様ぁ……!」


 オーエンさんが顔を真っ青にしてガタガタ震えているのをラウラさんが介抱していた。ラウラさんは、僕と一緒にカフカの怒気をたくさん受けて耐性でもついてきているのか、冷や汗を流す程度で具合を悪くした様子はない。


「謝ることはないですよオーエンさん。心配してくださるのはいいんですが、それよりも、今は円迎寺さんとご自身の安全確保を優先してください。お二人にもしものことがあれば、実里さんが悲しみますし、私もいい気分ではありません」

「わ、わかりましたぁ……」


 カフカから微笑を向けられ、オーエンさんは落ち着きを取り戻したようだ。

 それからちゃちゃっと戻る準備をして、さぁ戻ろうかとしたところで、ふと気になったことを聞いてみた。


「ところでさ、『傲慢』の力って、どんな感じなのかな?」

「実里さんとオーエンさんはすでに体感したのではないかと」

「ほら、でも知らない力があるかもしれないじゃないか」

「そうですね。円迎寺さんもいますし、まぁ簡単に言うとですね」




○名称アンノウン:『傲慢』―自分と相手の精神に干渉できる力。

・自分への効果→自己の精神や、応用で肉体を強化したり、能力を高めることができる。

・標的への効果→相手の精神へ干渉し、油断や慢心の感情を操作することができ、力を暴走させることが可能。応用で自分の姿や気配、共鳴反応を打ち消すことなどができる。

 相手が慢心しているほど能力がかかりやすく、ほんの少しでも心に隙があれば力をねじ込める。

 さらに、強力な不可視の(バリア)を作り出す、威圧を放つなど、多彩な力を持つ。

 だが幸いなことに、『傲慢』の能力者は、どれだけ人格が優れていたとしても能力に影響を受けて慢心している部分があるので、そこを突いて勝つことが可能かもしれない。




「概ねこんな感じです。実里さんたちの力も含めて、まだ話していない部分もありますが」

「いや、まぁそれはいいけれどさ……あの時、勝てたのは本当の本当に運がよかったんだね、僕」

「私も、もしかしたら昨日のうちにねじ伏せられていた可能性も…あるってことですよねぇ……」

「こんな人が本当に敵に回ったら、恐ろしいって話しじゃないよ?」


 僕とオーエンさんが遠い目になっている横で、ラウラさんも頭を押さえながら突っ込んでいた。

 能力は僕らのなかでも断トツにえげつなく強い『傲慢』が、完全な敵でなくて本当によかったと、僕たちの心の声が重なったと思う。




「くちゅんっ!」


 ビジネスホテルの一室で、『傲慢』が小さく肩を震わせる。


『風邪かしら? それとも誰かが噂でもしているのかしらね?』


 昨日の『怠惰』か、まだ見知らぬ能力者たちか、それともあの……


『って、あいつな訳ないでしょう!』


 脳裏に浮かんだ少年の姿を振り払うようにブンブンと頭を振る。すると余計に鮮明に浮かんでくる。

 体温と触覚操作で、「悔しい、でも感じちゃう…!(ビクンビクンッ)」を、まさかの! リアルで! 無理やり体験させられたのに。(※体温四十度、全身の感覚を暴走させられただけで、特に何かがあった訳ではない)

 思い出しただけで悔しさと恥ずかしさがこみ上げ、ベッドの上で右へ左へローリング。けれどもあの少年の顔と声が頭から離れてくれない。


『これもきっと『色欲』の力ね! 私を狙ってるんだわ!』


 実里とカフカがこの場にいれば、「狙ってないよ!」と突っ込まれ、天使のオーラがぶつけられていただろう。


『もぉ! もぉ! 何なのよこれー! や、っぱり……やっぱりあの子は危険だわ!』


 顔を真っ赤にして呻く『傲慢』は、結局枕に向かって「オラオラアラァッ!」と全力で殴り(ラッシュし)続けた。そして十分もしないうちに程よい疲れを感じ、そのまま眠りについた。


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