第十七話 第一回能力者会議 最初からクライマックス
オーエンさんが襲いかかってきた次の日の朝、僕はラウラさんたちと合流して通学路を歩き始めた。
ラウラさんの提案で、登下校はできる限り一緒にしようということになったのだ。防衛的な意味が強いし襲撃は怖いけれど、接点がなくなりかけていたラウラさんとこうして一緒にいられるのは嬉しい。
話すことは昨日の晩ごはんがどうとか、最近起きた面白いことなど、他愛もないものだったが、楽しい。オーエンさんはあまり僕と話そうとしていないけれど、仕方ないか。これから少しずつ仲良くなっていこう。
「おっす実里」
「ああ、明守真。おはよう」
校門に入ると、丁度後ろからやってきた明守真が声をかけてきた。
「ああ。おっと、副会長さんもおはよう」
「ええ、おはよう飛崎君」
「えぇとぉ、貴方は同じクラスの……えーとぉ……」
「おう。昨日は挨拶できなかったからな。改めて、飛埼明守真だ、よろしく」
「リーシェ・オーエンですぅ。こちらこそよろしくお願いしますぅ」
「おおう、やっぱり日本語流暢だよなぁ。意志が通じるようでよかった。俺英語苦手なんだよ」
嘘つけ。この前英検準一級受かったって報告してきただろ。
「まあ、よろしくな! そ、れ、よ、り」
言いながら腕をこちらの肩に回し、耳元でこそこそ聞いてきた。。何だよ、暑いだろ。
「実里、お前いつの間に副会長と仲良くなったんだ?」
「え?」
「あの鉄壁お嬢様が特定の男子と一緒に登校してるなんて聞いたことがないぞ」
「いや、あー……これにはいろいろ訳があって」
「ほう? 訳とは、俺に話せないことなのか?」
あたり前だろ、超能力のおかげで知り合って、紆余曲折あって仲良くなったなんて、誰が信じてくれるというのだ。と叫びたいのを抑えて申し訳なさそうに片手を挙げるだけにしておく。
「ごめん、いずれ話すからさ」
「ふうん? まあいいけどよ」
あっさり納得してくれたようだ。内心胸をなで下ろすが表には絶対に出さないようにする。
「別にお前が話したくなかったら無理に聞こうとは思わねぇし。ただ、俺が知らない間に、あの実里が彼女を作ったのかと思ってよ」
「ぶはっ!」
思わずむせた。気を利かせてくれていたのだろうか、少し離れて歩いていたラウラさんとオーエンさんもびくっと肩を震わせていた。
「な、そんなこと!」
「いや、俺としては嬉しい限りだぜ? しかも相手があの副会長とありゃ、俺も安心できるし。まぁ澄香がどう出るかはわからんが」
「君ねえ……」
「あっはっは! まあ彼女じゃなくてもいいんだが。仲良くなれてるんだ、可能性はなくはないだろ?」
なんてことはない。幼馴染のお節介で、余計だと言えばそれまでだけど、そういうところも嫌いではない。
「しかし、最近元気がないと思ったが……まさか彼女のことを考えていたってことか?」
「あ、いや、そうじゃなくてさ」
本当は能力者の襲撃を恐れていただけだよ。なんて言えない。
「ねえ、二人とも何の話をしているの?」
ラウラさんが小首を傾げるが、明守真は苦笑しながら教えようとはしなかった。
「実里に友達が増えたようで何よりだと思ってな。祝ってたんだよ」
「ふふふ、ありがと」
ごく普通のやりとり。たったそれだけで、今までの出来事が全く夢のように―
『むむむ、『怠惰』が仲間になってる……』
―思えなかった。
校門の向こう側、どこからかは確認していないけれど、念のためにと軽く展開しておいた『読心』に『傲慢』の思考が引っかかったことで若干肩が重たく感じたのだった。
なお、余談なのだが。
明守真と一緒にいると、女子たちから黄色い声が上がる時がある。それについてラウラさんにそれとなく聞いてみたところ、彼女も首を傾げていた。
昼休み、僕、ラウラさん、オーエンさんで、誰もいない屋上へ向かった。昨日するはずだった作戦会議を行うためだ。カフカは先に屋上で待ってくれている。
ドアを開けるが、屋上には誰もいなかった。
「あれ、カフカ?」
「はーい」
昇降口の屋根の上から、薄緑のパーカーを羽織ったカフカが飛び降りてきて、僕たちの前に着地した。普通に降りてきただけなのに、心の中で「十点」と思ってしまうほど、目に映った彼女の姿は幻想的で、綺麗だった。
それはラウラさんとオーエンさんも同じだったらしく、黙ってカフカに見とれていた。
「お待ちしておりました。さあ、ご飯を食べながらお話ししましょう!」
「あ、ああうん。そうだね」
マイペースなカフカの言葉で我に返った僕たちは、そそくさと準備に移る。カフカに持ってきてもらったレジャーシートを屋上の中央に広げると、カフカがその上をひゃっはーと転がり始めた。
「ピクニックみたいで楽しいですねー」
「そうかな? 中庭で食べる方がまだピクニックっぽいと思うけど?」
「いえいえ、こうやってお日様の下で実里さんと食べる、まさにピクニックですよ」
いや、それってどちらかというとデートとかの類じゃないかな。少し恥ずかしい気もするけど、カフカみたいな子と一緒にご飯というのも悪くないかもしれない。
「香乃君、鼻の下伸びてるよ」
「え?」
ラウラさんが若干険しい目つきになって僕を見ていた。どうしてだろうか、いたたまれない気分になった。
「ささ、食べましょう!」
車座になって、それぞれ持ってきた弁当箱を開ける。
「リーシェの家は、おば様とお手伝いさんが作ってくれるの」
「重箱って、すごいね」
「ママの趣味ですぅ。いろいろな国の料理を作れるんですよぅ」
恐るべし、オーエンさんのお母さん。日本食を作って重箱に入れるとは。そして、お手伝いさんがいるということは、やっぱりオーエンさんもお嬢様なんだなぁ。
「ラウラのご飯はsandwichですねぇ。」
「あとはミートボールとミニサラダかな。香乃君のお弁当は?」
「これだよ」
僕の弁当は夕食の残りを詰めたもので、ピーマンと鶏胸肉の炒め物を薄焼き卵で包んだ簡易オムレツをメインにしたオムレツ弁当。他にもプチトマトと唐揚、パセリを入れて、気分はファミレスの洋風定食。
ぐぎゅるるる。
弱々しい音の発生源へ目を向ける。カフカが目を輝かせて弁当箱を見つめている。視線の先にはオムレツが。
「少し食べる?」
「いいんですか?」
「食べたいんでしょ?」
「で、ですが……」
カフカにも今日は弁当を作ってあるけれど、男の僕よりも食べるので、弁当箱一人分では足りないのだろう。
「……ありがとうございます」
オムレツを受け取り、口に運ぶと顔が喜色に染まるカフカを見て、苦笑が浮かんでくる。ああ、何か温かい気分になった。
「香乃君……」
「香乃さん、カフカ様に甘いですねぇ」
なぜか女の子二人からは呆れたような、生暖かい目で見られ、気恥ずかしくなって顔を少し逸らしたのは言うまでもない。
「香乃君のお弁当も、お母様が作っているの?」
「ううん、これは自分で。昨日の晩ごはんの残りで、だけど」
「そうなんだ。香乃君、料理できるんだ」
「ほんの少しだけどね」
「でも、そのオムレツ、中身も手作りなんでしょ?」
「実里さんは色々と料理ができるんです。その中でも、卵料理は最高です」
カフカが自分のことのように自慢し始めた。彼女は卵料理が大好きなようで、朝食か夕食に卵料理を一品つけると表情が眩しいくらいに輝く。
「まぁ母さんの手伝いをしていた、その延長線上かな。おかげで一人暮らしでも困らなくていいけど」
「え? 香乃君、今一人暮らしなの?」
「一人暮らしっていうか、まぁカフカと一緒に住んでるから二人暮らしだけどね。両親が揃って仕事行ってて、本当だったらしばらくは一人のはずだったんだ」
そこへカフカがやってきて、彼女と一緒に暮らすことになった。最初はいろいろと思うところはあったけれど、何とかそれほど意識せずに暮らせるくらいには、彼女に慣れた自分がいる。
まぁ、一人で暮らすよりは、いい、かもしれない。
「そうなんだ……」
「カフカ様と二人きりなんて……大丈夫なんですかぁ?」
複雑な表情をするラウラさんに対して、オーエンさんからは訝しんだ視線を向けられている。
「大丈夫です。実里さんは優しい方ですから。私の嫌がることはしないんですよ?」
「むぅ~、カフカ様がそういうならぁ……」
「ところでリーシェ、カフカさんの呼び方なんだけど、どうして様付けなの?」
『だってラウラ、天使ですよぅ天使!』
「一応、皆さんの知っている天使ではないとは説明したんですけどね~」
興奮するあまり、英語に戻ったオーエンさんにカフカが苦笑する。『angel』と二回くらい聞こえたので、内容はある程度想像できた。
『例え私たちの知る天使じゃなくても、想像を超えた場所にいるすごい方ですぅ!』
『リーシェ、落ち着いて。カフカさんがすごいのは私たちも知っているから』
どうやらオーエンさんはカフカのことをえらく気に入ったみたいだ。ラウラさんにどぅどぅとなだめられている姿は微笑ましいはずなのに、目がキラキラ輝いていて気迫がすごい。
何とか落ち着いてもらったところで、本題に入る。
「では、第一回能力者会議を始めたいと思います。司会進行および解説は私、カフカが務めさせていただいきます。さて、まずは皆さまに謝らないといけないことが一つあります」
「はい?」
僕たちが目を点にしている間に、カフカは言葉を続ける。
「七大罪の能力ですが、実は半年以内に集めないと世界が滅びます。黙っていてすみませんでした」
開幕から、内容がクライマックスだった。
十月になりました。今年も残すところ三ヶ月。アニメなら1クール。
アニメといえば、気になるあの作品やこの作品がなったらどうなるかな、とか妄想します。




