死者の使者
魔獣紹介
エンケラドス
ギガンテスと呼ばれる巨人の一種。名前には「大音響を鳴らすもの」と言う意味がある。強靭な肉体と強烈な破壊力を秘めた紫色の大巨人。いわば、矛盾そのものの象徴とも言える。
キャラ紹介
姫榁藍璃
16歳
143cm
38kg
武器…ニョルニル(鎚)
鮮やかな桃色の髪が特徴。いつもパソコンを弄っていてコンピュータに詳しい。一度見れば覚えられる記憶能力も持っている。若干人見知りの所があり瞑とはまだ話せていない。栞枝にはひどく懐いているようだ。
学舎の方へ向かう途中、辺りを見回すと先ほどの地響きの正体がわかった。学舎の本館よりもでかい紫色の巨人が学舎に近い丘に佇んでいた。
「あれは!?」
エンケラドス――鋼鉄の肉体を持ち、世の中のものを破壊し尽くすパワーを持つ大巨人だ。だが、何故そんな奴がここに!?それよりどこから出現しやがったんだ!?
「どうやら、予感は当たったようですね。とりあえず、皆さんと合流しましょう」
「あぁ」
さっき月夜が言っていた嫌な予感ってこれのことなのか?できれば、当たらないで欲しかったかな。とにかく今は皆と合流することが先決だ。俺と月夜は皆が向かったであろう寮へと急いだ。
◆
「警戒システム、闇黒魔防護フィルター、共に異常ありません!」
「バカな!一体何がどうなっているんだ!?」
司令室も同じく困惑していた。どうやって、ミルガフィルの敷地内に出現したのか不明のままだ。ミルガフィルには闇黒魔の出現を妨げるフィルターが張られている。だから、敷地内にいきなり出現するなど本来ありえない事なのだ。
「エンケラドスの動きは!?」
「依然止まったままです」
「狙いは一体何なんだ?」
四ノ宮凪早も前例にないことで頭を抱えていた。それもその筈、敷地内に突然出現した挙句、動く素振りは微塵も見せない。
「とりあえず、非戦闘員をシェルターに誘導!」
凪早は司令室の面々に指示を出し、その指示を聞いた司令室の面々が全校への放送をかける。そして凪早は絶対双刃教室への通信に切り替えた。
「エンケラドスは強力な防御力と攻撃を兼ね備えている。前例でも完全に消し去ることは出来なかった。今回の最優先目標は撃退だ。呉々も注意して戦闘に当たってくれ」
――学園長室
「何事じゃ!」
「敷地内に突如、エンケラドスが出現した模様です。警戒システムは万全で何故かは分かりませんが、動く様子は今のところありません」
レスキアが怒りまじりの驚きの声をあげると秘書が現状を説明する。
「いつかはこうなると思っていたが、こうも早いとは…。だが、前触れもなく出現したのが気になるな。今すぐ、周辺に調べを回せ!」
「畏まりました」
レスキアが秘書に命じると忍びの如くスピードでその場から去った。
「すでにあれが始まっているのか?」
◆
「何かおかしいと思いませんか。敷地内に出現するなんて通常ありえない。まるでここに誘導されたかのような」
皆のもとへ向かう途中、月夜がそんなことを言ってきた。
「誘導?じゃあ、誰かが意図的に呼び寄せているって事か?」
「まだ断定は出来ませんが、その可能性は高いと思います」
「だが、何のために?」
「わかりません、ですが考えられるのはイリヤさんが狙いなのではということです」
誰がどんな方法使ってエンケラドスを呼び寄せたかは知らないが、イリヤに手は出させない。
寮の玄関口に着くと皆もそこにいた。
「皆、無事だったか」
「えぇ、当然ですわ!」
良かった、みんな無事で……。みんな?あれ、足りなくないか?よく見回すとリリアの姿が見当たらなかった。
「リリアは一緒じゃないのか?」
「先程、エンケラドスの方を見ていたかと思うと何か思い詰めたような顔で走っていきましたわ」
何だって!?一体、リリアに何があったんだ?だが、このままじゃリリアが危険だ!
『奴はいわば最強の矛と最強の盾を兼ね備えた矛盾そのものみたいな物だ。現場の判断はお前に任せる。呉々も注意してくれ』
「はい、わかりました」
四ノ宮先生からの通達を受け月夜がそう返事をした。四ノ宮先生の言った通り、エンケラドスはまさに最強の矛と最強の盾を併せ持つような奴だ。だが、倒せないわけじゃない。俺のレーヴァテインなら……!
『使いようによっては世界を滅ぼしかねない。十分気をつけろよ』
ふと、この間の学園長のセリフを思い出す。――大丈夫だ、あの頃の俺とは違う。もう誰も傷つけやしない。世界を終わらせたりなんかしてたまるか!!
だが、まずはリリアを探さないとな。1人じゃ危険だ。
「俺はリリアを探してくる」
「いえ、白縫さんにはやることがあります。リリアさんは私が探します。指揮はリズさん、お願いできますか?」
「えぇ、大丈夫ですが……」
リズは腑に落ちない感じに渋々承諾をしていた。
「心配しないでも私、クラス委員ですから」
月夜は、安心させようとしているような、ヒュドラの時みたいに背負い込もうとして強がっているような笑顔をこちらに向けた。また、何もかも責任を被ろうとしているのか?
「では、後はお願いします」
「あ………!」
行ってしまった。月夜のことは心配だが、今は信じよう。
「白縫瞑、あの力は使って平気なのですか?」
「あぁ、それにあいつをやれるとしたらこの力だけだしな」
「そうですか、それならよいのですが……。では、白縫瞑はイリヤさんと一緒に海の方で待機。私と栞枝さんは寮の屋上、出來さんと侑以さんは西塔で待機をしていてください。では、解散!」
リズの指揮を聞き、皆各々の持ち場に向かう。
「俺たちも行くか」
「うん」
イリヤと2人で持ち場に向かう。月夜とリリアのことは心配だが、今はあいつをどうにかしなくちゃいけない。2人とも、無事でいてくれることを祈るしかない。
◆
「アリ……サ、アリサ、なの?」
月夜が本館の屋上にたどり着くとそこにリリアがいた。なにやら、エンケラドスに向かって話しかけている。
「アリサ、私だよ。お姉ちゃんだよ」
どういうことだろう?月夜は疑問に思い、もう一度エンケラドスを見てみる。すると、エンケラドスの心臓部あたりに人間の女の子らしき物が埋まっているのが見えた。
「あれは、一体!?」
驚愕のあまり思わず声が出てしまった。リリアはその声に気づき、月夜の方を見る。話を聞く限り、あの少女はリリアの妹らしいがどういうことなのだろうか。
「あれは、10年前に死んだ私の妹よ」
「死んだとはどういうことですか?」
「10年前、ある村がフェンリルに襲われ大惨事を起こしたの。その犠牲者の中に私の妹もいたのよ。そして、私の妹を殺したのは、白縫瞑」
10年前のフェンリル事件はとても有名な出来事だ。知らぬ者がいないくらい有名だろう。でも何故リリアの妹を瞑が殺さなければならなかったのか。
「私はずっと恨んで来た。でも今私の目の前にいるのは紛れもないアリサよ」
アリサという少女がエンケラドスのエネルギー源となっているのだろう。だが、死者をエネルギーにするなんて有り得るのだろうか。
いや、現に起きているのだから有り得るのだろう。だが、その目的は何なのか。
「アリサ、お姉ちゃんはここにいるわ」
「無駄ですよ。それはただの屍、いくら呼びかけようとも聞こえていません♪」
リリアが必死に呼びかけているとその目の前に1人の少女が現れた。黒のマントを羽織っていて、完全に闇に紛れている。
「貴女は……樟葉、さんなのですか?」
月夜はまるでその少女の事を知っているかの口ぶりで言った。それにまるで幽霊でも見ているかの様な眼差しだ。リリアは月夜の不可思議な反応が気になり、聞いてみた。
「あの子のこと、知ってるの?」
月夜は暫し言いよどんだが、やがて口を開き答える。
「はい、あの少女は白縫さんの妹であり私の友人です」
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