表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣乱舞のヴァルキュリア  作者: 双葉カレン
過去の縁と現在(いま)の縁
5/20

悲願の追憶

魔獣紹介


フェンリル


黒い体毛で覆われている巨狼。遠吠えだけでその辺一体を壊滅させられる。巨大な爪には毒があり、それでやられた場合、即死ということもありえる。世界各地にある巨大な穴などはこいつがやったものである。街1つ消し去る力をもつ魔獣。

『魔導滅却!』



強大な力を手にした事でアイツ(フェンリル)は倒すことが出来た。一件落着と思い、妹の元へ戻ろうとした矢先、何かが俺の体を飲み込もうとしている感覚が突如沸き上がってきた。



『お兄ちゃん、やったの?』


『あ、あぁ』



何だったんだ今の感覚は…。


ドクン、ドクン


次第に先程の感覚は大きくなっていく。そして、ついにそれは俺の表層意識を覆いつくそうといてきた。



『うぅ……』



胸が締め付けられるようだ…。その何かは瞬く間に俺の体を侵食していく。何かが、体の中に!頭が、かち割れる!



『お兄ちゃん?』



妹は心配そうにこちらに向かってくる。ダメだ!!



『く……ず……は……、俺に…ちか……づく……な!』


『…お兄ちゃん』



楠葉はこちらに手を差し出そうとしている。



『近づくな!!』


『……!!』



すごい剣幕で怒鳴ると楠葉はビックリして硬直した。それはやがて俺の身体を全て飲み込み俺の意識はそのまま闇の底へと落ちていった。



『お兄ちゃん、大丈夫?』



楠葉は瞑に何度も問いかけるが、反応は何一つしない。瞑は楠葉をぎっと睨む。いつもの顔とは似ても似つかない悪魔のような形相で左手に握られた漆黒の剣を振り上げ、楠葉目掛けて振り下ろした。



『あぁぁぁぁ!!』



楠葉は悲痛の叫びをあげた。楠葉の右腕はあっさり切り落とされ、右腕は地面に転がっていた。楠葉は切られた方を抑えながらその場にうずくまる。



『お兄、ちゃん……どうし……ちゃった……の?』



楠葉は痛みを噛み締め、見上げる感じで瞑に問いかける。だが、やはり瞑からの返答は帰ってこない。


瞑は楠葉の右腕を切り落としたあと、再び剣を構える。



『何……する……気?そこに……は、ま…だ……住民が……』



楠葉の言葉には見向きもせず、横向きに360度方向に斬撃を飛ばす。生存者は極わずかにいたはずだが、全ての家は崩壊している。


瓦礫の下敷きになっている人もいる。この状態で生き抜くのはもう絶望的だろう。


楠葉も先程の衝撃で吹っ飛ばされ、崩れた瓦礫に

激突し、意識を失っていた。



『っ!!』



運良く生き残ったのか年端もいかない少女がふいに出てきた。瞑はそちらに向かってゆっくりと歩いていく。



『こないで、来ないでよ!』



少女は酷く怯えその辺に落ちている石ころを投げ続ける。だが、瞑はその少女に近づいていき剣を振りかぶる。そして、首根っこをやすやすと切り落とした。




俺は意識を取り戻し、辺りを見回すと世界の滅亡を目の当たりにしたような感覚が襲う。


――ここって、俺達の町…だよな。なんでこんな惨状に…


そして、見回している途中、瓦礫と一緒に横たわる楠葉を発見する。



『楠……葉?おい、楠葉ぁ!』


『お兄、ちゃん?よかっ……た。元に……戻ったん…だね。お兄ちゃんの……せい……じゃ……ないから……自分を……責め……ないで』



近寄って楠葉を抱きかかえようとした時、ある事に気づく。そう、楠葉の右腕がなかったのである。だが、まだ生きている。助かる可能性はあるんだ!


だが、元に戻ったとはどういうことだ?……おかしい、フェンリルを倒してからの記憶がない。



『……っ!!』



感慨にふけっているとふと、記憶が蘇ってきた。浮かんで来た記憶は俺が漆黒の剣で辺りを破壊しているという風景だった。



『俺が……やった……のか?』



これは全て、俺がやった事なのか?じゃあ、楠葉も…。楠葉の方に目をやると手足がぶらんと垂れ下がり、血の気がなくなり、肌は冷たくなりつつあった。脈をはかってみるも楠葉の鼓動を感じることは出来なかった。


俺は、たった一人の家族を殺めてしまったのか…。



『うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』



――妹一人守れないで何がアニキだよ!!


目から涙が溢れ出てくる。俺はこの罪を一生背負って生活するだろう。例え何があっても絶対に忘れてはいけない。俺はそう心に誓った。


――ごめんな、楠葉




「またこの夢か…」



目が覚めるとそこはミルガフィル内の寮の自室だった。起き上がろうとすると左手が悲鳴をあげる。余程、あれが堪えたのか。



『随分、変わられましたね兄さん。兄さんの力はこんなものではない筈ですよ。何れお会いする時を楽しみにしています』



俺は意識を失う前に微かに聞こえた声を思い出す。あの声は楠葉?…いや、そんなはずは!意識が朦朧もうろうとしていたからはっきりとは聞こえてないがあれは確かに楠葉の声だった。


何れ会う時――楠葉は俺を恨んでないだろうか。だが、何故あの時あそこにいたんだ?姿は見なかったが確かにあの場にいたはずだ。


これはあまり考えたくない事だが、もしかして闇黒魔ダークネスと関わりがあるのか?……いや、考え過ぎか。


まだ気になることはあったがとりあえず時刻を確認しようとパソコンを開く。



「15:20か」



パソコンの画面の右下に表示されている時刻を見る。約、半日ちょいというとこか。ふと、メールボックスを開いてみると前と同じ差出人不明のメールが届いていた。とりあえず、それを開いてみる。



『先のヒュドラ戦はお見事といいたいところだが何故宿主を殺さなかった』



あの時、どこかで見てたのか!?一体どこで?



『どこで見ていたのかという顔をしていると思うが、後々わかることだ。本題に戻るが、宿主を殺さない限り闇黒の卵(カオスコクーン)は消えない。こうしている間も成長を続けるだろう』



それは自分でも分かっていた。闇黒の卵の宿主は闇に選ばれ、ずっと聖霊刻印で闇黒の卵を育ててしまうことになる。だから、宿主を殺さない限り終わらない。


でも、その他にも方法はあるはずだ。闇黒の卵だけを浄化させる方法が…。



『そうなれば何れ世界を破滅に追い込むだろう。もう孵化まで時間はないだろう。その時こそはしっかり頼んだぞ』



残された時間はかなり少ないか。もし、孵化してしまった場合は俺が命を賭けてでも闇から引きずり出す。



『付け加えてお主のあの力は、使う者によって希望にも絶望にも変わる。もう二度と闇には飲まれるな。次はあの時くらいではすまないぞ』



そこでメールは終わっていた。こいつは何故あの力について知ってるんだ?過去のことも知っている口ぶりだ。


色々疑問は浮かんだがとりあえずパソコンを閉じ、机を見渡す。すると、端っこに一通の手紙が置いてあった。



――16:00に寮の屋上で待ってます ――

イリヤ



手紙を開いて読んでみるとそう書いてあった。16:00か、今から行けばちょうどいいくらいだな。俺はイリヤの待つ屋上へ向かった。




屋上に着くとあの時と同じ場所にイリヤが立っていた。



「瞑、来てくれたんだね」



イリヤの笑顔は何か不安そうな感じの笑顔だった。



「あぁ、ちょうど俺も話したいことあったからな」


「そっか。……じゃあ、瞑から先にどうぞ!」


「俺の話はそんな大したことじゃないから後回しでいいよ」


「そ、そっか。え~と……その~……」



イリヤは何か口にするのをためらってるような感じだ。そんなに言いにくいことなのか?



「私と」



イリヤは暫し溜め込み、やがて口を開いた。



「私と、パートナーになってください!」



パートナーって双刃祭デュオに参加するパートナーの事だろう。そう言えば来週からだっけな。



「私は全然ルクシオの力も使いこなせないし、ダメダメかもだけど、どうしても瞑と――!」


「いいよ。てか、最初からそのつもりだったし」


「……え?」


「技術とかは関係なく、俺はお前とパートナーになりたいって」


「……瞑」



まぁ、瞑から申し出があるとは思わなかったけどな。とりあえず、双刃祭の参加パートナーは決まったな。



「一緒に頑張ろうな」


「うん!♪」



パートナーになればより近くでイリヤを守れるだろうしな。恐らくイリヤが上手くルクシオを使えないのは全て闇黒の卵の栄養となっているからだろう。


そして、闇黒の卵は闇も栄養となる。だから、闇黒の卵はもう孵化寸前と言っていいのかもしれない。それでも俺はイリヤを殺さないし、誰にもイリヤを殺させはしない。



「それと、これはお礼なんだけど……ちょっと目を瞑っててくれる?」



イリヤが俯き加減にもじもじし始めた。



「いいけど、お礼ってなんのだ?」


「助けてくれたお礼、かな。いいから、早く目瞑って!」



俺は言われるがまま目を閉じた。一体何をされるのだろうか



「ありがとね、瞑♪」



そんなことを考えていると不意に温かく柔らかな感触が唇に伝わってきた。気になって目を開けるとイリヤの唇とが俺の唇に重なっていた。



「い、イリヤ!?」


「闇黒の卵の孵化はもう時間次第なんでしょ?でも、瞑は私を守るっていってくれた。こうしていられるのも全部瞑のおかげ。だから、ありがと♪」


「…イリヤ」



俺は無意識にイリヤを抱きしめていた。イリヤは自分の事をよくわかっている。ずっと苦しんできたんだ。俺も闇に囚われた過去があるからわかる。だからこそ、イリヤは俺の手で守らなければならないんだ。


夜の薄闇の中、2人のシルエットだけが浮かび上がっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ