強襲のヒュドラ
キャラ紹介
リーズレイン・エルキュール
16歳
160cm
40kg
武器…ゲイ・ボルグ(槍)
絶対双刃教室の生徒の一人。金髪碧眼という英国お嬢様。戦闘のセンスも結構ある。世界で唯一の男のミラである瞑を最初は認める雰囲気など一切なかった。だが、色々と関わっていくうちに瞑のことを認め始める。
魔獣紹介
ヒュドラ
9つの首を持つ紫色の水蛇。全てを捻じ曲げるゼログラビティを扱う。通り過ぎるだけで大型戦艦をも撃墜させてしまう。これまでも甚大な被害を数多く出してきた。大海を移動し、大災害を巻き起こす魔獣。
翌日、俺達絶対双刃教室の生徒はミーティングルームに集められていた。
『昨夜、ミルガフィル海域500km付近にヒュドラが出現した。今日の夜にはここに上陸するだろう』
今夜か、それまでに闇黒の卵の宿主をみつけださなくちゃな……。
スクリーンには9つの頭を持ち紫色の鱗を生やした蛇竜が映し出されていた。ヒュドラは移動するだけで大型戦艦をも沈没させる。
ミルガフィルへの闇黒魔侵攻。昨日届いた謎のメールに書いてあった闇黒の卵。何か関係があるのか?
ふと、辺りを見渡してみるとイリヤの姿がいなかった。
昨日も様子が変だったし、大丈夫かな?闇黒魔は闇黒の卵が狙いらしいからな。ここミルガフィルに闇黒の卵の宿主となっているやつがいるのだとしたら一人にさせとくのは危険だ。
……いや、待てよ。イリヤが苦しみ出したのはヒュドラが出現してからだ。闇黒の卵を狙ってくるのなら恐らくその宿主にも何らかの影響があるはず。
「!!」
そこまで考えてある事に気づいた。
――まさか、イリヤが!?
あのメールを読んでるときから薄々思ってはいたが、信じたくなかった。
でも、そうすればあの時の無理しているような表情も今、ここにいない事実も全て辻褄が合う。くそっ、なんでよりによってイリヤなんだ。また、俺は大事な者を失うのか?
・・・いや、まだそうと決まった訳じゃない。あのメールでいっていたのは闇黒の卵の処分。宿主の処分とは言っていない。
なら、闇黒の卵さえどうにかすれば…イリヤを、助けられるかもしれない。
――俺はもう誰も傷つけさせない!あの時の惨事のようなことを2度と繰り返してはならない。
『第一防衛ラインに差し掛かったところで作戦を開始する。それまで、十分に休息をとっておけ、以上』
そんな思案をしているといつの間にかミーティングは終わりみんな解散し始めていた。
「白縫さん」
俺もイリヤを探しに行こうとし、ミーティングルームを去ろうとした矢先、背後から月夜に呼び止められた。
「何か、隠していることがあるのではないですか?」
「…別に、何もないよ」
「闇黒の卵の宿主――」
「!?」
「イリヤさんなんですね」
俺は自分の思考をそのまんま見破られ、驚きを隠せない。どうやら、全てお見通しらしいな。でもどうして、月夜がそのことを?
「そして、白縫さんはイリヤさんの処分を任せられている」
「…」
「どうやら、図星のようですね。ですが、イリヤさんはわたしが殺ります」
完全に心を読まれた俺は何も言葉にできずにいると月夜はなんの迷いもなくそう口にした。
「そのような汚れ仕事はクラス委員の役目ですから。それに…私の手はすでに汚れていますし」
月夜は苦笑いを浮かべながらそれが自分の役目なのだと言うように主張した。
俺には月夜の言った意味がいまいち理解できていなかった。まるで、前にも同じようなことがあったかのような…。
「2年前、闇黒の卵は孵化し、宿主の体を乗っ取り、ヴァルキュリアと化しました」
「2年前にそんなことがあったのか」
「はい。しかし、『大事な仲間を殺すことはできない』と皆、口々に言いました」
月夜は記憶を蘇らせるように次々と過去の出来事を語り始めた。まさか過去にも同じようなことがあったとはな。俺はさっき月夜が言っていた「…私の手はすでに汚れていますし」の意味を要約理解した。
「ですが、誰かやらなければこの世界は滅んでしまう。誰かが絶対に殺らなければならなかったのです。そして、名乗り出たのが――」
「お前…なんだな」
「はい、ですからこういうのは私の役目なんです」
月夜は顔を伏せ、全ての責任は自分が取るというような感じだ。
「…違う。お前は今でもその時のことを後悔している。大事な友達だったんだろ?違うか?」
ずっと沈黙で通すのかと思ったが、暫くして月夜は口を開いた。
「確かにそうです。…ですが、それでも時には誰かを犠牲にする事も世界を救う上では必要なんです!!それが・・・友達であろうと―」
月夜は今までどんな思いで生きてきたのだろう。当時のことを悔いて、自分をせめて、一番苦しかったのは月夜のはずだ。
このままでいいわけが無い。月夜にこれ以上苦しみを与えてしまってはそれこそ人間の道を外れかねない。
「そんなことはない。世界も大事かもしれない、でもだからといって友達を犠牲にする理由にはならない」
「宿主を殺す他に方法は・・・ないんですよ」
それが確実且つ絶対な方法である事は確かだ。それ以外の方法はまだ見つかっていない。
「なら、いざとなったら俺が殺る」
「そんな!!そんなことをすれば白縫さんは――!」
「イリヤもまた大事な友達だろ?お前に2度も傷ついて欲しくないんだ」
「ですが―!」
月夜はなおも反対していたが暫くすると表情には冷静さが戻っていた。
「…………………………わかりました。ですが、方法が見つからなかった場合、私がイリヤを殺ります」
そう言って月夜はミーティングルームを去っていった。時間は限られている。早いところイリヤを見つけ出さないとな。
そして俺はミーティングルームを後にした。
イリヤの正確な居場所がわからないため手当たり次第探すことにした。まずは教室から見てみることにした。
教室に行くとリズと栞枝と出來が中心あたりに集まり話をしていた。見渡してもイリヤの姿はない。どうやら、ここにはいないようだな。
「そんな血相を変えてどうしましたの?」
リズが当然ともいえる疑問を投げかけてきた。
「いや、大したことじゃないんだがイリヤをみなかったか?」
「イリヤさん?いえ見ていませんがイリヤさんがどうかしましたの?」
「ちょっと急用があってな」
我ながら自分の嘘の下手さに落胆するよな。
リズ達は意味がわからないというような表情を浮かべていた。まぁ、内容を省きすぎたししょうがないとは思うが。だが、このことは最低限隠しておいた方がいいと思う。
その後もあちこち探し回ったが見つからなかった。
『目標、第一防衛ラインの破壊開始』
日も暮れて来たし、残された時間は僅かだ。海の沖方で幾千にも飛び散る光が見えたがおそらく、月夜達が戦っているのだろう。
「まだ探していない場所があるはずだ」
そう思いながら昨夜イリヤと別れた所を歩きながらふと、上方を見上げてみると寮の屋上にイリヤが立っていた。
「あいつ、まさか!?」
俺はよからぬ考えが脳裏に浮かび急いで屋上へと向かう。
屋上に着くとイリヤは海の方をずっと見ていた。方向的にヒュドラがいる辺だ。
「こんなとこにいたんだな」
「瞑?」
話しかけるとゆっくりこちらに振り向いた。
「いきなりで悪いが聖霊刻印を見せろ」
「瞑は変態さんだね」
イリヤはハニカミながら恥ずかしいようなどこか悲しそうな表情を浮かべた。
「いいから、見せろ!!」
「…」
イリヤは観念したのか、シャツのボタンを上から外し胸元にある聖霊刻印をみせる。が、その聖霊刻印は黒く染まり邪悪なオーラが出ていた。
「やっぱ、お前だったのか」
「アハハ……私、嘘下手だね。……このまま、誰にも気付かれずに逝こうと思ったのにな」
やっぱり、死ぬつもりだったのか。
「誰にも気づかれないなんて無理だよ。お前は絶対双刃教室の大切な仲間だ」
「でも、私のせいで皆が――!」
「誰もお前を責めたりはしない。ほら、見てみろよ」
俺はヒュドラとの戦闘が繰り広げられている方を指さす。
「ヒュドラは空間を捻じ曲げる名も無き領域を使います。まずはそちらの方どうにかしましょう」
「了解ですわ、スコーピオン!」
「聖拳突き!」
「月明かりの神器!」
「デス・グラビティ!」
「三の矢、竜槍緋弾!」
「雷神の鉄槌!」
皆が一斉に攻撃を開始した。リーズレインはゲイ・ボルグからはビームを出し、栞枝は金色に輝かせたストライカーで名も無き領域へ。
出來は周囲に無数の聖なる剣を展開し、一斉突撃。侑依は水面に半球上の黒い塊を作り出し、名も無き領域にぶつける。
月夜は矢を3本同時に発射する。その矢の威力は凄まじく、一本の槍のようになっている。龍の槍を思わせるそれは目標に向かって一直線。
藍璃は雷を纏ったニョルニールでゼログラビティを叩く。
だが、それら全てを浴びてもヒュドラには傷一つつかなかった。ヒュドラはなおも進行を進める。
「皆さん、怯まず攻撃を続けて下さい。何れ隙ができるはずです」
「「「「了解!」」」」
月夜の指示で休まず攻撃を与える。すると、突如ヒュドラの動きが止まった。そして、体内に何かを集めている。ヒュドラの体はどんどん大きくなり、ある程度の大きさで止まった。
そして、9つの口から邪悪な球体が出現した。
「皆さん、よけてください!!」
月夜は何か察したのか皆に指示を出す。すると、ヒュドラのそれぞれの口から出た球体は一つに集まり巨大な球体へと変化した。
次の瞬間、それを打ち出してきた。
「四重の壁!」
出來が四重にもなる壁を出現させ、それを受け止めようとする。だが、巨大な球体は勢いをとどめずそのまま壁を破った。
その衝撃で皆吹っ飛ばされた。辛うじて軌道は変えられたようだ。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「ええ」
とりあえず、皆無事のようだ。
『第二防衛ライン突破されました。残るは第三防衛ラインだけです』
ヒュドラの進行は未だにとどまることを知らない。
(やはり、イリヤさんを殺らないとダメなのですか)
俺は視線をイリヤに戻す。
「誰もお前のせいだなんて思ってないよ。思ってればあんな必死に戦わず、手っ取り早く宿主であるイリヤを狙ってくるはずだろ。でも、最後まで戦おうとしている。イリヤ、お前のことが皆大切なんだよ」
「でもこのままじゃ、私・・・!」
「俺がなんとかする。だから、心配すんな」
策がないではないがこれは最終手段だ。ヒュドラの進行を食い止められず第三防衛ラインを突破された時の最後の手段だ。
それ以外の手段でなんとか頑張んないとな。残された時間はごく僅かだ。イリヤを狙いに来るのも時間の問題だろうな。
「とりあえず、移動するぞ」
「移動ってどこに?」
「ヒュドラの真正面に当たる本館の屋上だ」
「でも、外には怖い人が・・・いっぱいいるよ?」
確かにイリヤを外に出さないよう配置されているだろう武装した人達があちこちに見える。外に出た瞬間撃たれるだろうな。
「大丈夫、俺に任せろ」
俺達は寮の屋上を出て目的地へと向かった。
感想お待ちしてます