絶望の始まり
キャラ紹介
崇宮 智香
14歳
156cm
40kg
月夜の親友。月夜とはいつも一緒にいた仲。境遇が似ていた為かすぐに仲良くなった。だが、2年前のヨルムンガンド襲来の時に智香の中にあった闇黒の卵が孵化し、ヴァルキュリアと化してしまった。月夜に最期の言葉を遺し、消えていった。
魔獣紹介
ヨルムンガンド
紅に体を染めた海の大蛇。減衰の咆哮で聞いた者全ての全能力を低下させる。その能力で人々の体力の極限まで下げ、最後には衰弱して死ぬ。減衰の咆哮以外には大した特徴がない為、それを克服すれば倒せる。
俺たちは今船の上にいる。その経緯は、先日のエンケラドス騒動で学園はかなり崩壊して、到底人が生活できる環境ではなくなってしまった。そこで、ここから東の方へ進んだ所にあるSERAFが所有する島、アルバ島へ仮移住をする事となった。
学園があぁなってしまった為、ミルガフィルで開催予定だった双刃祭は中止になってしまった。
イリヤは未だ寝込んでいる状態だ。船にも医務室があるため、今はそこで療養中だ。
「白縫ぃ!」
なんの前触れもなく、突如扉が勢いよく開き、医務室に栞枝が入ってきた。
「はいこれ、アルバ島の地図とパンフレット」
「サンキュー」
「あっ、宿舎のお風呂は一つしかないから白縫、先でいいよ」
「そうか」
「じゃ、またね」
「おう」
まるで風のようだな。要件済ませたら早々に去ってしまった。てか、用終えるのはえーな。
「白縫瞑、入りますわよ」
栞枝が去って束の間、次はリズの声が聞こえたので合図してリズを中に招き入れた。
「イリヤさんの様子はどうですか?」
「少しは安らかになったよ」
「そうですか。……また出直しますね」
「待てよ、何か話に来たんじゃないのか?イリヤの様子を身に来ただけじゃないよな」
俺は来てすぐ帰ろうとするリズを引き止める。
「ただ、イリヤさんの様子が気になっただけなので」
「月夜の事か?」
暫しの沈黙が続く。これは図星と言うことなのだろうか。
「あの子、いつも全部背負っちゃいますの。クラス委員の仕事だからと言って……。全てはあの時からでしたわ――」
―――2年前
『警戒レベルC、警戒レベルC!ミルガフィル南方沖にヨルムンガンドが出現しました。戦闘班以外は直ちに避難を―――!』
「私達もいきますわよ!」
ブリーフィングも終わり、リーズレインの合図で戦闘態勢に入る準備をする。だがしかし、1人だけ真逆の方へ去っていった。
「智香さん、どこ行きますの?」
「…ちょっと、トイレ」
智香は苦しそうな表情でそう答えた。本当に大丈夫なのだろうか、とみんな心配していたが、そこで月夜が申し出た。
「私が行きます」
「ちょっと、月夜さん!?」
リーズレインが引き留めようとしたが、月夜は早々に智香の後を追って行ってしまった。月夜と智香は一番の親友だ。だから月夜も放っておくことはできなかったのだろう。
全く、しょうがないですわね、とリーズレインはため息をつく。
「私達はヨルムンガンドを迎え撃ちましょう」
「でもいいの?月夜一人で」
栞枝が心配そうに呟く。
「えぇ、あの二人は親友です。私たちがいても帰って邪魔でしょう」
「……此処は私達でヨルムンガンドを食い止める方が効率的」
リーズレインの言葉に出來も同意する。栞枝もそれに合わせるかのように頷いた。
「そうだね、僕達は僕達にできることをしよう!」
リーズレインと栞枝と出來はルクシオを展開させ、ヨルムンガンドの迎撃へ向かった。
◆
「ぐぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!」
「くっ!」
リーズレイン、出來、栞枝の三人はヨルムンガンドに向かって各々攻撃を繰り出すが、ヨルムンガンドの減衰の咆哮に歯がたたないでいた。
減衰の咆哮は聞いた者の体力、気力、能力、全てをすり減らす、ヨルムンガンドの力だ。
だが、ヨルムンガンドは突如別の方向へと視線をかえた。リーズレインもそちらを向く。すると、
「あれは……月夜さんと智香さん?」
そこには崖上で何やら話している様子の月夜と智香の姿だった。
◆
月夜はようやく崖のところで智香を追い詰めていた。
「智香、どうしたの?何だか、苦しそうな表情してたけど……」
「月夜、私と話すのはこれで最期――」
智香が振り返りながら悲しげな表情で遺言のように答えた。
「最期って、どういうこと?」
月夜には智香の言っている意味が分からなかった。完全に分からないわけではない。ただ、どうしてなのかとか諸々の事が気にかかってのことだろう。
「ほら、見て……私の聖霊刻印。もう90%は闇に犯されてる。……自我を、保ってるのがやっとの状態」
「何言ってるかわかんないよ!」
「そう、だよね。でも、もう1分もしない内に、私は我を失う。その前に私を殺して」
「そんな事……!」
「月夜になら殺されても、構わないから」
その時、ヨルムンガンドの侵攻も進んでいて、ヨルムンガンドが近づくことにより智香の残り時間も僅かになっていく。
『ハヤク、ワタシヲ、コロシテ』
月夜は泣きながらルクシオを展開してアルテミスを顕現させる。そして、矢を引こうとした瞬間、ヨルムンガンドの咆哮が轟き、智香は見る見る闇の力に呑まれて行く。
「ち……か……?」
『ぐるるるぅ』
完全に闇に呑まれてしまったようだ。智香は我を忘れて、周りの破壊活動を始めた。ヨルムンガンドもヴァルキュリアと化した智香によって倒された。月夜はこれ以上無いほどに泣き喚いた。
――また私は、見てるしか出来ないの?
(月夜なら出来るよ。私は月夜を信じてる、だから月夜も私を信じて)
ふと、脳裏に智香の声が響いた。優しく月夜の心に投げかけるように。
――分かったよ、智香。智香はずっと私の中にいるんだよね。
月夜は再びアルテミスを構え、思いっきり矢を引いて放った。月夜の放った矢は強大なエネルギーと化し、智香の体を貫いた。
「あれは、半粒子物質!?」
リーズレインは月夜の放った矢に驚いた。半粒子物質――闇を一瞬で葬り去る威力を持ったエネルギー。それを発生できるのはほんの人握りしかいない。
「私はこの世界を守る。その為なら………」
バタン。
「月夜さん!?」
◆
「そんなことがあったんだな」
リズの話を聞き終え、やっと月夜があんなに責任を負う理由が分かった気がした。
「えぇ、だから月夜さんを助けてやって下さい。闇の底から月夜さんを救えるのはあなただけですから」
「おい、それってどういう――」
「さぁ、この話はここまでにしましょう。もうじき着く頃なので降りる準備をしましょうか」
リズの言ったことが気になり、聞き返そうとしたが話を逸らされてしまった。
――月夜を助けられるのが俺だけってどういう事だろう。
気にはなったがとりあえず、イリヤに挨拶をして医務室を後にする。
部屋に戻る最中、ホールを通ると出來と藍璃がソファーに倒れ込んでいた。
「どうしたんだ?」
「ちょっと、船酔いした、だけ」
出來が力を振り絞ったように声を出す。二人とも船酔いか。その原因はすぐさま気づいた。出來は手の中に小説、藍璃はノートパソコンを抱きかかえている。
「船の中までそういうのしてるから酔うんだろ。もうすぐ着くからそれまで横になっとけ。それまでそれらは預かっとく」
二人ともあからさまに嫌そうな顔をする。構わず、小説とノートパソコンを取り上げようとすると、二人とも握った手に力を入れて話してくれない。
「分かったよ。小説もノートパソコンも取り上げねぇからゆっくり休んでるんだぞ」
「……わかった」「……」
二人とも納得したところで俺は部屋へと戻った。たくっ、あいつらどんだけ好きなんだよ。
『後数分で着くから準備しろ』
船内放送で四ノ宮の声が聞こえた。最近は襲撃続きで疲れてるし、温泉で疲れを流すかな。
――月夜もイリヤも必ず救って見せる!
◆
「ん?何だ?」
司令室にいた四ノ宮凪早はマップ上のおかしな点に気づいた。
「これは、闇黒魔と……もう一つは一体――」
マップ上には闇黒魔を表す大きな赤い〇とそうではないもう一つの点がアルバ島の北西560km先にあるミレアス火山地帯のところで点滅していた。
「動きはないな。そうすぐには到達出来ないとはいえ、用心は必要だな。闇黒魔以外の奇妙な点も気になる。なるべく早く伝えた方がいいかな」
凪早は事態の深刻さを思い、マップ上に表示されている2つの点の監視を続けた。