滅びの兆し
キャラ紹介
高梨栞枝
16歳
157cm
47kg
武器…ストライカー(拳)
ボーイッシュな女の子。髪を緑のリボンで小さく縛ってある。誰とでも話せるコミュニケーション力を持っている。人にちょっかいを出すのが好きなしょうがないじゃんなようだ。空手6段。
美秘侑依
16歳
166cm
50kg
武器…デスサイズ(大鎌)
一見大人しそうな美少女だが、戦闘になるとまるで変わって別人のような変貌をする。簡単に言うと武器を持つとドSになる。彼女の武器、デスサイズは二重人格の彼女にぴったりの逸品だろう。
「まずは、白縫瞑達のいる海辺へ押し出します。皆さん、行きますわよ!」
リーズレインが合図するとそれぞれ武器を出現させ、戦闘態勢に入る。
「グングニル!」
「巨神の刄!」
「かえり咲く夢幻の嵐!」
「嵐武!」
「アンデッド・ストリーム!」
リーズレインはゲイボルグの先で竜巻を作り、エンケラドスに向かってそれを放つ。藍璃は巨大化させたニョルニルをドリルのように回転させながら伸ばしてエンケラドスの刃の如く腹を抉る。
出來はグリモワールを開いて術式を展開し、強大な嵐を呼び起こす。その嵐はエンケラドスに向けて吹き荒れる。栞枝はストライカーを身に付けた拳で強力パンチを出し、それをエンケラドスとの距離30cmくらいのところで寸止めする。すると、その拳の先に強力な拳で切った風が一気に集結し、風圧が発生する。それはエンケラドスを容赦なく襲う。
侑依はデスサイズを振りかざし、エンケラドスに向かって伸びる黒い竜巻が巻き起こす。全ての攻撃が一つになり、エンケラドスの腹部に命中。さすがのエンケラドスも力に押され徐々に木々を巻き込みながら海辺へ押し出される。
「来たか。後は海に放り出して被害を最小限に抑えなくちゃな。残りは俺達の仕事か、いくぞイリヤ!」
「うん!」
俺は左手にレーヴァテインを出現させる。若干の痺れはあるがなんとか大丈夫そうだ。
「わたしがエンケラドスを海に飛ばすよ」
「!?大丈夫なのか?大分体力削られてるみたいだけど…」
「大丈夫。自分の事は自分がよくわかってるってよく言うでしょ♪」
「そうか」
全然大丈夫そうには見えない。息は上がっているし、かなりやつれた感じになっている。汗も額に浮かべている。ウンディーネで体を支えてるのを見る限り、立つのもやっとなのだろう。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
だが、そんな心配が嘘のように苦しそうな顔をしながらも力を振り絞ってエンケラドスの目の前で巨大な気を爆破させる。
「あんなでっかいのなんか作ったらお前……!」
「大丈夫…だよ。いざとなったら、瞑がいるし」
完全にヴァルキュリアへと化してしまう、と言おうとしたらイリヤが辛そうな笑顔で明らかに無理しているとわかるような微笑みを浮かべてきた。もうウンディーネの支えがあっても立てなくなったのか地面に膝をついた。
「ほら、エンケラドスが海に出たよ。後は…瞑の番だね」
「あぁ、そうだな。お前はここで休んでろ」
イリヤの事は心配だったが今はこいつをどうにかしないと……!ミルガフィルごと俺たちはやられるだろう。俺は構えたレーヴァテインの力を使い黒き翼で天高く飛翔する。そして、巨大化させたレーヴァテインを大上段に振りかぶる。
「待って!」
すると、突然エンケラドスの前にリリアが立ちはだかった。
「リリア、無事だったのか?」
「そんなことはどうでもいい!もう二度とあなたに私の大切なものを奪わさせない。妹は――アリサは私が守る!!」
「妹?どういう事だ?ちゃんと説明しろ!!」
「このエンケラドスは………私の妹なの!」
ということはリリアの妹は闇黒魔化したって事か?………いや、違う。よく見るとエンケラドスの心臓部に人らしき物が突き出てるのがわかった。あの子は……。過去の忘れられない忌々しい記憶の中にその少女はいた。そうだ、俺はあの子を殺したんだ。
何故、こういう記憶というのは忘れられないのだろうか。忘れてはいけないことだと言うのは分かっている。だが、思い出す度に胸が苦しくなる。これは悪い事をした罰なのか?それとも、神が与えた試練なのか?
考えても仕方のないことだ。それよりも今は目の前の状況を解決しねぇと……。
「でも、もうそいつはお前の知ってる妹じゃない。学園をあそこまで破壊したんだぞ。あれはただの魔物だ!」
「わかってる!でも、私の妹に変わりはない!」
そうこうしているうちにエンケラドスは立ち上がり再び上陸し、攻撃を仕掛けてこようとする。
「もう時間がねぇ!早くしねぇとこの島ごと消滅するぞ!」
「そんなことわかってる!でも……」
「じゃあ、お前がやれ。身内の事はきっちりケリを付けないとな」
偉そうな事言っても俺自身もまだ片付いてないんだよな。俺が言っても全く説得力がないよな。リリアはエンケラドスと向き合う。
「アリサ、ごめんね。守ってあげられなくて」
「オネ……エ……チャン?」
「!?アリサ?」
どうやら、不安定ではあるがアリサちゃんの意識が目覚めたようだ。これも姉妹愛ってやつかな。
「ナカナイデ、オネエチャンハナニモワルクナイヨ。コノマモノヲトメテオケルノモイマノウチ、ダカラ……。オネエチャン、ワタシヲコロシテ。オネエチャンノコト……ズット……スキダッタヨ。サヨウナラ……………オネエチャン」
「っっ!!」
少しばかりだが、意識が戻った妹の言葉を聞き、リリアは目に涙を浮かべ躊躇いながらもフライクーゲルを展開させる。
「ハヤク!」
再びエンケラドスが動き始めた。このままじゃまずいな。だが、リリアがフライクーゲルを出現させようとした瞬間、一本の黒い筋がアリサちゃんごとエンケラドスを貫いた。
「っ!?」
リリアは涙ながらもその筋が飛んできた方向を睨む。俺もまた、そちらに目を向ける。そこには空中を漂う月夜の姿があった。
「月夜?もう大丈夫なの!?なんで射ったの!?」
「……」
返答はない。
「もう用済みだからですよ」
月夜の代わりに答えたのは樟葉だった。消えたふりして高みの見物とかどんだけ上から目線だよ。それより、さっき樟葉が口にした言葉が気になっていた。
「用済みってどういうことだよ?」
「今回の目的は果たしましたし、もういらなくなったんです」
「目的ってなんだよ?」
「それは秘密です♪では、強力な人材も確保できましたし、私達はこれで退散しますね♪先程かけた呪いの効力もそろそろ出てくる頃でしょう。それではまた」
「待て!!」
樟葉達が去るのを制止しようとしたが月夜が足元に矢を放ってきた。どうやら後は追わせてもらえないようだ。月夜と樟葉はそのまま闇の中へと消えていった。何故月夜が樟葉といっしょに?全く抵抗している様子はなかったし、どういうことだ?
「あっ!月夜の不可解な様子は恐らく死の呪いが原因だと思う」
リリアが咄嗟に思い出したように発言した。
「死の呪い?」
「えぇ。樟葉ちゃんが月夜の額に手を当てた時はなんともなかったけど…その後、あの子が『死の呪いをかけてあげたのですよ。そのうち効果が出てくると思うから楽しみにしていてくださいね♪』って言ってたから」
あいつ、なんでこんなになっちまったんだ。死者が世界を滅ぼすとかなんなんだよ。全て俺のせいなのか?それともう一つ気になることを言っていた。効力?なんのことだ?
バタッ
すると、突然イリヤが地面に倒れこんだ。かなりうなされている感じだ。手に持っていたウンディーネも解除されている。
「イリヤ!!どうした!?……って、あつっ!」
近寄って抱きかかえてみると肌が火傷するくらい熱があった。しかも聖霊刻印の邪悪な気が消えてない?それどころかどんどん増していってる…。さっきからずっと様子がおかしかったから心配だ。
「とりあえず、医務室に行くぞ!」
俺はイリヤを抱え、みんなと一緒に医務室へ急いだ。邪悪なままの聖霊刻印。もう滅びの刻が近いという事なのだろうか。
◆
イリヤの体はもう7割近くがヴァルキュリア化しているらしい。樟葉はあの時侵食速度を急激に上昇させたのだ。医療員の治療でなんとか苦しみなどは和らげてあるようだ。今はぐっすりと眠っている
だが、ヴァルキュリア化が止まったわけではない。早くどうにかしねぇと本当にヴァルキュリアになっちまう。そんな時、リリアに呼び出された。
「リリア、今はそんな場合じゃないだろ」
「ううん、言わないと伝わらない気持ちもある。これは今じゃなければダメなの」
暫く沈黙が続く。俺に伝えないといけないことってなんだ?今更、伝えたいことなんてあるのだろうか?
「ごめんなさい!私、あなたが唯一の生き残りだからって口実をつけて、あなたを恨むことしかできなかった。何もできないで事実を知らされるだけの自分が……許せなかった」
リリアの口から出たのは予想外の言葉だった。さっきまで俺を殺すとか言ってたやつのセリフには思えない。リリアはなおも話し続ける。
「でも、辛くて、悲しくて、苦しんで。あなたも同じだったんだ。いや、もしかしたらあなたが一番苦しんで来たのかもしれない。だって、あれは魔剣取り憑かれてやったこと。それで自分の妹まで殺してしまって」
「魔剣に取り憑かれていた事は確かだ。でも、俺がやったのは事実だ」
「そうかもしれないけど……もう知っちゃったから。あなたがそんな人間ではない事を」
過去の事実は変えられない。だけど、リリアの言葉は単純に嬉しかった。人間として禁忌を犯したこと。それを許してくれる人がいるだけでこんなにも晴れやかになるもんなんだな。
ここなら俺は赦される。だが、過去の過ちを決して忘れてはいけない。忘れたらもう二度と戻れなくなるから……。みんなそれぞれ秘密があり、それを抱え込んでるんだ。
「だから、ごめんね。これからは仲良くしましょう」
リリアは転入してきてから初めてとも言える満面の笑みを見せた。こんな心の底からの笑顔、転入してきた時から一度も見なかったから驚きだ。こんな顔もできるんだな……いや、違うな。これが本当のリリア・シルフィなんだ。これでもう悲しい顔なんてしないよな。
「いいたかったのはそれだけだから、じゃあまた」
リリアは俺の後方へ向かって去っていく。と思ったらまたこちらに戻ってきた。まだ何かあるのか?
「ひとつだけ忘れてたわ。さっきはありがとね……チュッ」
「っ!?」
不意に頬に柔らかい感触が触れた。突然過ぎて固まるほかなかった。俺は頬にキスされたのか?状況の把握に苦しむ。
「今度こそじゃあね」
リリアは学舎へと去っていく。まぁ、なにはともあれリリアの件は一件落着だな!だが、イリヤはあの状態だし、月夜は敵方に操られているしでまだまだ問題は山積みだ。
またそう遠くないうちにまた攻めてくるだろう。次は恐らく月夜との戦いも避けられない状況になる。なんとしても月夜を取り返すんだ!
若干最終回間近な展開になっていますがまだまだ続くのでどうぞ御贔屓に。




