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堕ちた羽
《堕ちた羽》
眠る意思を揺り起こす
遥かな陽射しの 片言の伝え手
格子越しに見える火は
其処だけが鮮烈な色の御使い
くすんだ壁の捕えた羽が
残骸と化し 横たわる迄
信心深い声の木霊が
見えない何処かで反響する
黒い羽と白い羽
それぞれ束ねた心で 満たす世界
謀る言葉を紡ぐ脣より
零れ落ちる醜い輝石
罪無き木漏れ日の子等に
そっと差し出す白き偽り
招く手 逆さの笑顔に堕ちて
振り向く覚悟を待っている
先見の鏡の悲劇が生んだ
歌うだけの名を持つ羽
飛び立つ小さき選択者は
安住の鳥籠を捨て去り
牙を隠す世界へと
束の間の自由を謳歌する
伏せる色の彩り映し
深い闇が光を真似る
静寂の降る瓦礫の古城
祈れば偽りの声が聴こえる
気高き命を護る剣に
星の数だけ落ちた光
流された血は報われずとも
その魂は深く記憶する
堕ちた羽は何処迄も
捕われの自由を歌う
軈て永き眠りに就く迄
その血を土に還す時迄
手招く陽射しも尽きる頃
小さき羽も歌を止め
眠る魂を静かに抱き
黒き御使いは音も無く消え去る
揺らぐ蝋燭の火を借りて
黄泉への路を照らしながら