93/100
黄昏の風
《黄昏の風》
生まれ来た全てを風は包み
大樹の刻む年月を讃える
地平に沈む陽を見送れば
小さな家にも射す月明かり
尾を振り駆ける仔猫にも
罪無き血を流した兵士にも
帰る事を 許された
懐かしい季節の待つ場所
生き死ににて繋ぐ命の旅に
無惨な歴史は影と為り添う
降る雨に打たれ嘆く嵐の宵に
崩れた古塔にも点る護りの火
斃れし者に注ぐ記憶の海に
微笑む人が居る幸福を祈り
時の鎖を離れ 行方は知れずとも
大地の褥は命の名残を確かに懐く
善良なる者も
影帯びし者も
その存在を許されて
生きて去るは 命溢れる星
生まれ来た全てを風は包み
消え行く白煙を空へと還す
地平を射貫く太陽が輝けば
小さな躰も温もりに触れる
今日も――