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風の謡
《風の謡》
強い風が吹いた
地表の全てを攫う風
打ち拉ぐ野の花よ
気高く散り種を落とせ
(証を遺せ)
震える手に白き剣
緋色に染める誇りもあろう
傾ぐ月の消える夜に
櫂は水面を穿ち船が発つ
(死出の航路か 誉れ待つ魁か)
命へと呼び掛ける
大地に立った その時より
宇宙と人体を繋ぎ廻る間
水より生まれ 旅した
(此の日 此の地迄)
時無しの風に
吹かれ 流され 背き 抱かれ
神よと呟く心境 様々なれど
生きて 此処へ 手向ける謡よ
緋色滲む 身一つ立ちて
流れ 流され 踏み締める大地よ
陽の射す門出に 吹く風 浴びて
散る花を背に 身一つ発ちて
強い風が吹いた
命と共に 流れる謡(風音)よ
天仰ぐ者の身上 様々なれど
在りて 此処で 共に聴く謡よ――