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魔王討伐から始まる、勇者オークション

作者: よみなぎ
掲載日:2026/10/03

 魔王を倒した。


 三年かかった。


 召喚された初日に渡された剣は二度折れた。仲間とは何度も死にかけた。魔王城へ入ってからは三日まともに眠れなかった。


 それでも、倒した。


 だから王都へ帰還した俺は、ようやく自由になれると思っていた。


「それではこれより、勇者殿の所属先を決定する」


「……はい?」


 王城の大広間。玉座には国王。その左右には王族、大貴族、大神官。そして中央には俺。


 魔王討伐の祝賀会だと聞いて来たのだが、どうも様子がおかしい。


「陛下。所属先とは?」


「勇者殿が今後、どこに身を置くかという話だ」


「それ、俺が決める話ですよね?」


 大広間が静まり返った。


 なぜだ。俺、何かおかしなことを言ったか?


 国王が咳払いした。


「勇者殿ほどの力を持つ者を、何の後ろ盾もなく放置するわけにはいかぬ」


「放置してください」


「そこで各家から条件を提示してもらい、最もふさわしい場所を――」


「放置してください」


「まずは王家からだ」


 無視された。


 嫌な予感がした。魔王城の最深部で、扉の向こうから魔王の魔力を感じたとき以来の嫌な予感だった。


 国王が立ち上がる。


「勇者殿を王家に迎えたい。第一王女との婚姻を認めよう」


「いりません」


「加えて伯爵位と領地を与える」


「いりません」


「年金も出す」


「それはちょっと気になります」


 いかん。三年間ほぼ無給だったせいで反応してしまった。


「陛下、お待ちください!」


 今度は公爵が立ち上がった。


「勇者殿にはぜひ我が家へ。我が娘との婚姻に加え、侯爵位への推挙、領地二つをお約束いたします!」


「だから俺の話を――」


「我が家なら娘を二人!」


 別の貴族が叫んだ。


「人数を増やすな」


「では三人!」


「そういう意味じゃない!」


 おかしい。話し合いだったはずなのに、競りが始まっている。


「金貨五万枚!」


「領地三つ!」


「王都の屋敷も付けよう!」


「我が領内の温泉街を一つ!」


「温泉街!?」


 思わず反応した。


「勇者殿が食いついたぞ!」


「卑怯だぞ! 温泉を持ち出すとは!」


「ならば我が家は海辺の別荘を!」


「うちは山荘だ!」


「俺を旅行に行かせろ!」


 三年間ずっと野宿とダンジョンと魔王軍の砦だったんだぞ。普通に温泉くらい行きたい。


「ならば飛竜を一頭!」


「ちょっと欲しい!」


 しまった。また反応した。


「飛竜だ! 飛竜が効いたぞ!」


「我が領には古竜がいる!」


「それ野生だろ!」


「捕まえれば同じです!」


「違うわ!」


 大広間の熱気がどんどん上がっていく。


 もはや誰も俺を見ていない。いや、見てはいる。


 競売台の商品を見る目で。


「静粛に!」


 大神官の声が響いた。


 大広間が静まり返る。


 さすが教会。この狂乱を止めてくれるらしい。


 大神官はゆっくり立ち上がった。


「勇者様。我らが教会へお越しください」


 お前もか。


「聖女様との婚姻をお約束いたします」


「だから結婚する気は――」


「そして週休三日」


「…………週休三日?」


 俺は大神官を見た。大神官は微笑んだ。


「はい。週休三日です」


「卑怯だぞ教会!」


 公爵が机を叩いた。


「待遇面を持ち出すとは!」


「我が家は週休四日!」


「有給休暇二十日!」


「専属料理人!」


「昼寝自由!」


「健康診断年二回!」


「最後のは普通にありがたいな!」


「王家は週休四日だ!」


「王様まで乗るな!」


「王宮の温泉も自由に使ってよい!」


「王宮に温泉あるの!?」


 三年間、一度も教えてくれなかったぞ。


「さらに飛竜二頭!」


「増やせばいいと思うな!」


「第一王女と第二王女、どちらを選んでもよい!」


「嫁まで選択式にするな!」


「両方でもよい!」


「増やせばいいと思うなって言ってるだろ!」


 俺は頭を抱えた。


 何なんだ、これは。


 魔王を倒したんだぞ。世界を救ったんだぞ。


 なぜその翌日に、嫁と飛竜と福利厚生で取り合いされているんだ。


「どうだ、勇者よ!」


 国王が勝ち誇っている。周囲の貴族たちも、まだ条件を積み上げる気満々だ。


 俺は深く息を吐いた。


「……分かりました」


 ぴたりと声が止まった。


「一番いい条件を出したところに決めます」


 全員が身を乗り出した。


 国王が拳を握る。公爵が娘の人数を数え始める。侯爵が紙に何やら書き足す。


 大神官だけが余裕の笑みを浮かべていた。


「条件は一つです」


 俺は言った。


「俺を放っておいてくれるところ」


 静寂。


 誰も手を挙げない。


「…………いないんですか?」


 誰も動かない。


「週休四日は?」


「残り三日は働いてもらう」


「有給二十日は?」


「それ以外は働いてもらう」


「昼寝自由は?」


「仕事中に限る」


「仕事はあるんですね」


「当然だ」


「じゃあ俺が落札します」


「なに?」


「俺が俺を引き取ります」


 国王が目を丸くした。


 俺は腰の剣を外した。魔王を斬った剣だ。


 それを床へ置く。


 ガチャン、と音が響いた。


「落札代金は魔王一体で」


「…………」


「もう払ったでしょう?」


 誰も何も言わなかった。


「俺、三年間働きました。魔王も倒しました。もう十分でしょう」


 国王を見る。


「自由にしてください」


 長い沈黙のあと、国王が息を吐いた。


「……分かった」


 そして、三年ぶりに俺を名前で呼んだ。


「そなたは自由だ」


「はい」


◇


 翌朝。


 俺は王都を出た。


 爵位なし。領地なし。王女なし。飛竜なし。


「……飛竜はちょっと惜しかったな」


 街道の分かれ道。


 右、港町。


 左、温泉街。


「温泉だな」


 三秒で決めた。


 今日から俺は勇者ではない。


 とりあえず週休七日から始めよう。

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― 新着の感想 ―
オチが・・・。(汗)
三年間ほぼ無給だったせいで反応してしまった。 いや・・・。 あんた正気? 今まで何してたの? ボランティアなの? 魔王退治は?
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