E p i s o d e . 2
暫くすると鐘がなる。
皆が一斉に自分の席へと急ぐ。
僕はもちろん、話す人はいないので座って本を読んでいた。すると、バタバタと走る音が聞こえる。
ガラッ
「あっぶなーい!!!初日から遅刻ギリ!!!」
ぜえぜえと息を切らして、間に合った感を出しながら入ってきた。
僕はこの人を知っている。随分と有名だ。
明るくて、正義感が強い。なにかやらかしてもヘラヘラとしている。とにかく僕とは正反対の人間だ。
仁志麗子、だったか。どうやら僕の隣の席だった様で、大きなため息を付いてはガタンと音を立てて座る。
「君はじめましてだ!私麗子!よろしくね!!」
よく知ってる。この学校じゃとても有名人だ。
とても整った容姿で、男子からの人気も高いだろう。
こう話しかけられると僕に注目が浴びせられる。
目立ったり目をつけられたら僕の生活は終わる。なるべく関わりたくはなかった。が、挨拶されては返すしかない。
「うん。僕は宮野光輝です。」
「なんで敬語!!?隣なんだしもっと仲良くしよーよ!光輝くん!!」
一瞬、彼女が自分を呼んだことに気づかなかった。心拍数が上がる感覚がする。なんとも言えない感情が込み上げてくる。名前で呼ばれる聞き慣れなさと気持ち悪さ、少しの嬉しさ、それと高揚感。
僕は返す言葉を失っていた。ただひたすらに名前を呼ばれたことに喜んでいたんだろう。
「あれ、光輝くん無視っ!?酷いなあ」
「あ、いや、そんなつもりじゃなくて…」
「実は私の事きらいなんだ!?」
大袈裟にえーん!っと泣き演技をする。
「ち、違いますから…!!」
ガラッ
丁度教室のドアが開く。
「おらお前ら〜、ホームルーム始めんぞ〜。」
と、新しい担任が入ってくる。
生徒たちは口々に、「またセンセーかよー」「女の先生がよかったー」と、欲望を口にしていた。僕はまだ高揚感を抑えきれずにいた。
光輝、僕は光輝なんだ、と、ただ名前を呼ばれる、その当たり前とも言えるような行動が、とてつもなく嬉しかった。認められた気がした。
彼女は後ろの女子と楽しそうに話していた。
僕はまだ、君の横顔を眺めていた。




