第ニ夜 元魔王、勇者の味方を得る
「ど、どこだここは」
「おう起きたか」
ここはさっきいた辺境の地から、西へ500キロ魔王領内にある山の一つである破壊山と呼ばれる場所だ。
千年前の魔王軍内でも知っている者はごく僅かで、今現在は誰も寄りつかない。
色々都合が良いと思い、俺はここを隠れ家にしている。
「起きたかって、お前さっきの魔族だな、今すぐ殺してやる」
勇者くんはそう言うと腰の付近にある剣を引き抜いた。
「やめとけ、それじゃあ俺は殺せないぞ」
「なんだと、てか一体ここはどこでお前は誰なんだ」
まったく何回も言わせるな、魔王だって言ってるだろ。
てかこいつまた震えてるな。
仕方ないアレを使うか。
「本当は使いたくなかったんだがな……服従魔法発動」
服従魔法は難度Sクラスの魔法である。
使用にはいくつか条件があるが、クリアすれば対象を自分の意のままに操る事が可能となる魔法である。
条件は、レベル差が100以上あること、そして相手が自分に勝てないと思っている事。
以上の二つが必要になる。
勇者くんと俺はレベル差が830あり、それに勇者くんは震えているので条件は満たしている。
「あ、あうぅ」
よし、しっかり効いてるな。
この魔法はかかると"あうぅ"と言ってしまうので、効いてるのがすぐわかるという特徴がある。
「さてと勇者くん、まずはこの世界の勇者について教えてくれないか?」
「はい魔王様、勇者とは勇者学校を卒業し勇者協会から認定を受けた者の事を総称したものとなっております」
「その勇者協会ってのはなんだ?」
「勇者協会とは約800年ほど前にできた組織で、勇者の管理や育成、そして色んな地域への派遣とかを行っています」
なるほどな。
今の世界で勇者は傭兵のような役割を担っているのか。
俺のいた千年前は勇者は傭兵ってよりは国内で選ばれた数少ない強者って感じだったが、今は違うのだな。
「わかった色々ありがとう、君名前はなんと言うんだ?」
「大変失礼致しました、私の名はヤマト、勇者ヤマトと申します」
そう言うと勇者ヤマトは深々と頭を下げた。
「ああ別に大丈夫だよ」
この服従の魔法はとても便利だが、俺はあまりこの魔法が好きではない。
魔法や力での支配などが、信頼や敬意から生まれる本当の主従関係と比べると薄っぺらに感じてしまうからだ。
今回は情報収集のため使ったが、やはり真の意味でも部下には程遠い。
だがしかし、勇者の味方はこの先も便利だろうし、ヤマトにはこのまま俺の配下に加わってもらおう。
「して魔王様、私はこの後どうすれば?」
「ああそうだな、とりあえずヤマト、お前弱すぎるからちょっと強くなってくれ」
「え?」
そう言うと俺はヤマトの頭を掴んだ。
スキル、レベルアップ。
掴んだ対象のレベルを無条件で200ほど引き上げる能力。
同じ対象への使用はできず一回だけだが、ヤマトの自力での成長は正直見込めないので、ささっと使ってしまう事にした。
「これは俺からの礼だ、受け取れスキル"レベルアップ"発動」
「う、うわぁなんだこれ!!」
そしてヤマトはレベル230となった。
強制的にステータスを解放したので、見た目に変化はそれほど現れていないが、さっきよりは身長も20センチほど伸び、筋肉量も上がったのか腕や足が3倍ほど太くなっている。
にしてもここまでして身長が俺の半分程度か、人族は地が弱いな。
「どうだヤマト、強くなった気分は」
「ええ最高です魔王様、世界が変わりました」
ヤマトは自身の手をグーパーグーパーしながらそう言った。
まぁレベル200以上あれば、そこら辺のドラゴンよりは強いだろうし、少し役に立つだろう。
そうだあとこれを渡しておこう。
「ヤマトよあとこれ受け取れ」
そう言って俺はヤマトに白い指輪を渡した。
「こ、これは?」
「それは簡単な連絡装置だ、それを使って今後の連絡をとるぞ」
「は!了解いたしました」
ヤマトは跪き、指輪を受け取った。
あ、そうだ一応スキル"上に立つ者の眼"を使って、ヤマトを見ておくか。
スキル"上に立つ者の眼"とは、その眼で見た者の強さと自分への服従度、そして今後の成長曲線、得意な業務などがわかるものである。
服従の魔法をつかっているため、服従度は強制的に最上値の100になっている。
さてさて他の値は、強さがさっきの弱き者から上級の者、成長曲線がさっきの限界レベル50から限界レベル300、得意業務が暗殺と扇動か。
これはいいな。
「よしヤマト、これからお前をさっきいた村へと戻す、戻ったらすぐに勇者協会とやらに戻り潜伏しろ、何かあればこちらから連絡する」
「了解でございます」
そうして俺とヤマトはさっきまでいた村へと戻った。