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第98話 真紅同士の戦い


 攻撃をしながら、キルシュは手応えを感じていた。


 ヒツギ・シュウヤ。アリナゼル共和国で百年以上続く伝統を生き残った、唯一の灰塵ダスト


 今回の会談で護衛として参加すると聞いて、キルシュはヒツギに興味を持っていた。


 実際に会ってみると、確かに普通の灰塵ダストとは、何かが違う気がした。

 その違いがなんなのかは明確にはわからなかったが、強いて言えば……余裕がある気がしたのだ。


 キルシュが知っている灰塵ダストは、目立たないよう息を殺して生きているような存在だった。


 だが、彼は周囲から受ける軽蔑の眼差しを気にしていないように見えた。

 しかも彼は世界有数の実力者であるエアハルトと頻繁に会話し、会場内を自由に歩き回っているようだった。

 アリナゼルの護衛は皆受け入れていたようだが、これは明らかに普通ではない。


 そして、極め付けは街でハイジと相対していた場面。

 あの時、その場にいた他の護衛メンバーは、例外なく怯えた表情を隠しきれていなかった。

 エアハルトですら緊張していたはずだが、彼だけは反応が違っていた。

 しかも、ハイジに手を掴まれていたにも関わらず、どちらかと言えばハイジの方が焦っているように見えたのだ。


 ヒツギ・シュウヤは普通の灰塵ダストではない。

 そのことについて覚悟はしていたが、真紅ルビーの力を使えたことは、さすがに予想外だった。


 キルシュにとっては初めて、自分と同じ燃焼レベルを持つものとの戦い。

 負ける可能性も頭にちらついたが、先手をとって押し込む事ができた。


「……いける!」


 キルシュは一気にトドメをさすように、全方向から攻撃を加える。

 周囲に土煙が立ち上り、ヒツギの姿が見えなくなった。

 真紅ルビーのエネルギーを付与した破片だ。

 ここまでの攻撃を加えれば、たとえ真紅ルビーでも生きているはずがない。


「……ごめんなさい」


 キルシュは震えながら、小さな声で呟いた。


 だが、踵を返そうとして、今までにない悪寒を感じた。


「っ!!」


 キルシュは反射的に振り返る。


 --そこには、ヒツギが何事もなかったかのように立っていた。


----



 土煙が晴れる。

 キルシュさんが俺を見て、驚愕の表情を浮かべていた。


「っ! どうやって……!?

 あの状況から防ぐことは出来ないはず……!」


 キルシュさんは姿勢を落とし、俺を警戒するように後ずさった。


 ああ、キルシュさんの言うとおりだ。

 あの状況から生き残れるのはアルくらいだろう。


 あの瞬間、右胸の燃焼器官を引き継いだアルが、全ての攻撃をあっさりと叩き落とした。

 俺には理解ができないほどの精密な放出と速度だった。


「クッ……!!」


 キルシュさんが距離をとりながら、再び腕を薙ぐように振るった。

 周囲に真紅ルビーの花びらが舞い、目にも止まらない速さで俺に殺到した。


 だが、全てアルの制御した真紅ルビーの放出エネルギーに迎撃される。


「!? なんて速度っ……!」


 息を呑むようにキルシュさん吐き捨てた。


 キルシュさんの目つきが変わる。

 俺も空気が変わったことを感じた。


 これは……


『ハッ、特化燃焼を見せてくれるらしい』


 アルが楽しそうに言った。

 なんでそんな余裕なんだよ……


 キルシュさんの足元から紅いエーテル燃焼エネルギーが周囲に広がり、一帯の木々を染めていった。


 ズアァァッと風の擦れるような音と共に、周囲の景色が一変する。


 視界が全て、薄い紅色に染まる。

 ……綺麗だな。

 場違いではあるが、思わずそう感じてしまうような光景だ。


 そして、木々が音を立てて揺れたかと思うと、赤い花びらとなって散り、周囲一帯を覆い尽くした。


「全ての葉にエーテル燃焼を付与してるのか!?

 嘘だろ!?」


 徴用校の授業では、人間が同時にエネルギーを付与できる物体の数は50程度が限界と聞いていた。

 バレッタさんですら、その限界からは外れていなかった。


 でもこれは……


「明らかに数百を超えてる!!

 ありえないだろ!!」


『ただの現実だ。

 テメェの常識で限界を決めつけてんじゃねえ』


 明らかな常識外の能力に俺は動揺した。

 だが、逃げ場なんてあるわけない。


「【ブラード……ヴァント・ブラッドレーン】」


 キルシュさんが血を吐くようにして呟いた言葉と共に、全ての花びらに意思が宿った。


 周囲の木々の葉が全て俺を殺すための銃弾となる。

 舞い散る花びらは、全方位から俺に降り注ぐ光の筋となった。


 俺があっ……と思った時には、すでに右胸の燃焼器官が強烈な熱を帯びていた。

 アルの零秒点火が迎撃を開始する。


 光の筋は俺の体に届く手前で全て叩き落とされていった。


「こ、このっ! バケモノ!!」


 キルシュさんが唇を噛み、こちらを睨み続けながら攻撃を続ける。


 絶え間なく降り注ぐ真紅の花びらは、何かが爆発したような衝突音を立てながら、俺の周囲で光となって弾けていた。


「アアアァァ!!!」


 キルシュさんが力を振り絞るように声を出し、さらに降り注ぐ光の数が増した。


 だが……アルは全ての光の筋を迎撃していく。

 俺の真後ろから来る攻撃すらも、全て放出した真紅ルビーの光で叩き落としていた。


「くっ……はぁ、はぁっ……!」


 どれほどの時間、攻撃が続いただろうか?

 ついにキルシュさんが荒い息を吐きながら膝をついた。


 す、すげえ……

 まじで全部防ぎ切りやがった。


 アルは涼しい表情でキルシュさんに視線を向けていた。


「ま、まだっ…………」


 キルシュさんがふらふらと立ち上がり、再び腕を振るおうとしたところで、俺の右胸の燃焼温度が一気に上がった。


 アルの零秒点火で、キルシュさんの喉元まで真紅のエネルギーが伸びる。

 

「っ……!!」


 全く反応ができなかったキルシュさんは固まり、膝から崩れ落ちた。

 ……これはおそらく、人間には反応できない速度だ。



 こ、ここまで強かったのか。

 いや、確かにいままで色々と見てきたけど、真紅ルビー同士の対人戦は初めてだった。


 同じ真紅ルビーでもここまで差があるとは、歴代最強というのも頷ける。


 まるで槍の矛先のような真紅の光が、キルシュさんが崩れると同時に四散した。


『おい。早くこれを止めるんだろうが』


 アルが遠くの斜面を流れる真紅の光をあごで示す。


「そっ、そうだった」


 この現象を引き起こしている張本人、ハイジを止めに行かなければならない。


 俺は急いで真紅の光が流れてくる場所へ向かう。


「まっ、待って……」


 俺は膝をつき、手を伸ばして俺を止めようとしているキルシュさんをチラッと見た。

 どうするか一瞬悩んだが、このまま置いていくことにした。

 あれだけのエネルギーを放った後だ。しばらくは動けないだろう。


 真紅ルビーの力を見られてしまったのはまずいが、まずはハイジをなんとかしなければならない。


 俺は真紅ルビーの力を見に纏い、急いでハイジの居るであろう方向へと向かうことにした。


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