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第94話 会談の中止と責任


 鋼王コウオウの墜落。

 その想定外の事態に、俺たちの動揺はおさまらなかった。


 周囲は騒然として、時折怒鳴り声も聞こえてくる。

 ホテルの従業員も、どうしたらいいのか右往左往していた。


「貴様らぁ!! 戦争を起こすつもりか!?

 あれをどう責任取るつもりだ!!」


 俺たちアリナゼルの代表団の一人が、ラッドメイドの代表の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけていた。


「わ、わたしたちは知らない。まだあの方がやったととは決まっていないでしょう?」


「あの光を見てよくそんな事が言えるな!!

 ハイジを連れてきたのはこのためか!?」


「言いがかりだ!! 私たちは何も……」


 もはや話し合いができる雰囲気ではない。


 というか、俺はどうしたらいいんだ!?

 エアハルトさんを探すが、この状態では見つけることもできないぞ。


 アル、どうしよう?

 俺が頭を抱えていると、急激に真紅ルビーの気配が跳ね上がった。


 ハイジ!? いや……近すぎる。

 視線の先では、クリスフォードさんが真紅ルビーの力を身に纏い、周囲に光を放っていた。


「…………静まれ」


 皆が注目するなかで発せられたその言葉は、不思議と声が通った。


 さっきまでの騒ぎが嘘のように静まり返る。


「会談は中止だ。私は急ぎ鋼王コウオウの墜落場所へ向かう。後のことは、エアハルト。君に任せる」


 クリスフォードさんはそう言うと、いつの間にか近くに来ていたエアハルトさんに声をかけた。


「……わかりました」


 エアハルトさんは神妙な顔で頷いた。


「し、しかし、ハイジを止められるのは、あなたしか……」


 代表団の一人が焦ったように声を上げた。


 確かにその通りだ。

 ハイジがこの街にいる以上、さらに被害が広がる可能性がある。

 止めるには同じ真紅ルビーの力が必要だ。


「今アリナゼルに、鋼王コウオウを止める事ができる人間は数人しかいない。

 被害が広がる前に私が戻る必要がある」


「で、ですが! ハイジがまた暴れたら……」


「託すしかない。この街を守る警備担当に……ここにいる護衛団に。そのためにいるのだろう?」


 クリスフォードさんは周りを見渡しながら告げた。

 確かに護衛の役割は、代表団や周囲の人間を守る事だ。

 だが、実際エーテル燃焼レベルの差はどうにもならない。これはかなり無茶な要望だ。


 皆その言葉に何も言えなかった。


 そんな中、口を開いたのはキルシュさんだ。


「皆様。愚弟が大変な……大変な事態を招いてしまい申し訳ありません。

 今から私が探しに行きます。

 ……エアハルトさん。捜索に付き合っていただけないでしょうか」


 一歩前に出て頭を下げるキルシュさんに、誰も何も言えなかった。

 この人が苦労しているのは皆わかっているからだ。あんな奴、家族でも止められるわけがない。


「……承知いたしました。

 ボル! 鋼王コウオウの落下地点を通信機で確認しろ。ホテルから各街に連絡が取れるはずだ!」


「おう! まかせろ!!」


 エアハルトさんの声に、遠くからボル先輩が拳を突き上げて答える。


「あとは……」


 エアハルトさんは迷ったように視線を惑わせていたが、凛とした女性の声が響いた。


「エア、街からの移動は私が駅で取り付けるわ。

 何人かこの街に詳しい人たちを連れていくから」


 ずっとクリスフォードさんの近くに控えていた白金パールの女性が答えた。


 そう言えば、初めて俺がクリスフォードさんに会った食堂でも近くにいた気がする。


「ヒメコ、少人数ですまないが頼む。

 他の護衛担当はこの後集まってくれ」


 エアハルトさんの言葉で、皆が慌ただしく動き出した。


「大変なことになったな……俺たちはどうすればいいんだ?」


 俺は騒音の中で、アルに呟いた。


『あの粘着ウェーブをなんとかするのが役目だろう。

 同じミスを二度を犯しやがって』


「そうだよな。ほんと、なんで2回もハイジを見失ってるんだよ」


『……あ? テメェはなんでアイツの気配を追い続けなかった』


「……え?」


『近くにいれば真紅ルビーの気配を追い続けられただろう。鋼王コウオウが現れるタイミングが手薄になることなんてわかってただろうが』


「そ、それはそうだけど……アルだって何も言わなかったじゃないか!!」


 アルに指摘され、俺は焦って言い返す。


『ハッ、自己責任上等とか抜かしてやがるテメェが、泣いて呆れるな。

 シニガミを倒すための手順を、手とり足とり教えなかった……そんなことを言った日にはブチ殺すぞ』


 アルの言葉に何も言い返せなかった。

 心のどこかで、図星だとわかっていたからだ。


 俺は完全にハイジを放置していた。

 あれはその責任を認めたくなくて、行方を見失った警備達の責任だと言い聞かせるために発した言葉だった。

 アルには一瞬で弱さを見透かされたようだ。


「……わかってるよ」


 俺は小さくそう返すのが精一杯だった。


「ヒツギ君! もっとこっちに来てくれ!」


 エアハルトさんに呼ばれてハッとする。

 俺以外の護衛担当は、すでにエアハルトさんの近くに集まっていた。


「す、すみません!」


 俺は慌てて皆が集まっている場所に近づいた。


「よし、ボル以外は全員集まったな。

 僕はキルシュさんと一緒に、先にハイジの捜索に向かう。

 皆は代表団の護衛として街を出るまで付き添ってくれ。急いで中央、セントノードへ戻るはずだ」


 そうだよな。会談が中止となった今、代表団は中央へ戻る必要がある。

 こんな状況だが、俺たちは予定通り護衛の任務を果たさなくてはならない。


「街を出てからの護衛メンバーは、予定通りだ。その他のメンバーはハイジの捜索に加わってもらうかもしれないから、そのつもりでいてくれ」


 エアハルトさんの言葉に皆おずおずと頷く。キルシュさんが捜索をするとは言え、アレに遭遇してしまった時のことを考えると、素直に受け入れられないのだろう。


 どちらにせよ、俺やエリカ、フエゴはエアハルトさんと同じく街の外での護衛には割り当てられていない。


 代表団を駅に送ったあとは、ハイジを探さなければならない可能性もあるということだ。


 チラッとエリカやフエゴに視線を向けると、皆顔を歪ませて俯いていた。


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