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第89話 最悪の真紅

 俺とエリカが集合場所の部屋に戻ると、既にフエゴやボル先輩、エアハルトさんは揃っていた。


「ギリギリになってしまいすみません!」


 それを見たエリカがバッと、頭を下げる。

 俺もそれに合わせて、一応頭を下げた。


「これで全員そろったかな。

 二人とも、ハイジさんが消えたことは知っているか?」


「はい。ここに来る途中で、その話を耳にしました」


「やっぱり、もう他の人にも広まっているみたいだね」


 そう言うと、エアハルトさんは疲れたように息を吐いた。


「今日はこれから3カ国の会談が始まる。だか、ハイジさんがどこかへ消えたのも事実だ。

 クリスさんは会談に参加するから、ここにいるメンバーだけで、ハイジさんを探す必要がある」


「おう。見つけ出して、引きずってきてやるぜ!」


 ボル先輩が、相変わらずの声の大きさで気合を入れているが、正直不安だ。

 真紅ルビーを止めるのに、白金パールのメンバーだけでは厳しい。


「相手は真紅ルビーだ。全員でかかっても、勝つことはできない。あくまで取引で解決するんだ」


 エアハルトさんが、俺たちを見渡して念を押す。

 エリカは頷いているが、フエゴは無表情だった。

 本当に大丈夫だろうか?


「おい、マジで余計なことすんなよ?」


 さっきまで意気込んでいたボル先輩が、俺に声をかけてきた。


「ボル先輩に言われたくないですね」


「お前はバレッタをおかしくした前科があるからな……」


「何もしてないですよ!」


 俺がそう言うが、ボル先輩とエリカは俺を信用していないような目つきで見ていた。

 理不尽すぎる。


「エリアを区切って対応するが、絶対に一人では対応するな。

 見つけても、声をかける必要はない。

 安全な位置まで離れてから、信号弾で知らせてくれ」


 そう言いながら、街全体の大きな地図を机に広げた。

 そして、円描くように、各自の担当エリアを区切り、名前を書き込んでいく。

 俺の隣のエリアはエリカが担当で、その横はフエゴ、ボル先輩と90度づつ区切られている。


 中央のこの場所は、エアハルトさんが待機するようだ。


「もう一度言うが、絶対に戦ってはいけない。

 わかったね?」


 その言葉に、皆神妙に頷く。

 本当に説得できるのか、皆不安に思っているのだろうか。


 俺もどうしたらいいか分からないが、とりあえずエアハルトさんに頼るしかなさそうだ。

 俺たちは指示に従って、急いで街に向かっていった。


----


 高台のホテルから街に降りると、相変わらずの警備体制か敷かれていた。


「こんなに警備がいるなら、大丈夫じゃないか?

 何かあれば、すぐに騒ぎになるはずだろ?」


『騒ぎになっても、テメェらがなんとかできるかは別だがな』


「まあそうだけど……真紅ルビーの力を使わずに、ハイジって人を止められる気がしないんだよな」


 エアハルトさんを呼んでくるって言っても、そんな余裕あるのか?

 今回は俺も嫌な予感がするぞ……


 俺はアルと話しながら、街をうろつく。

 街は相変わらずお祭りムードだ。

 出店が広がり、晴れた青空を見上げると建物同士を繋いでいる飾りも目立つ。


「それにしても、これだけ広かったら見つけることもできないだろ。

 今のところ真紅ルビーの気配も感じられないし」


 しばらく探したが、見つかりそうな気配はない。

 まだ朝だから、そこまで人が賑わっていないけど、それでも見つけるのは大変そうだ。


 本当に問題が起こるんだろうか?

 ハイジって人も、もう街を離れて帰ったんじゃないか?


 そんなことを考えていたら、女性の叫ぶような声が、遠くから聞こえてきた。


「なんだ? よくわからなかったけど、悲鳴か?」


『さあな。さっさと行け』


 アルの言葉に頷き、急いで声がした方へ向かう。

 エリカが担当していたエリアに近い。


「捕まえて! ひったくりよ!!」


 女性の叫ぶような声が、今度ははっきりと聞こえた。


 少し遠くに、走っている男が見える。

 あれがひったくりか。


 黒と黄色い燃焼光が見える。


「どう見ても真紅ルビーじゃないよな」


 げんなりしながら、俺はアルに話しかけた。


『おい、注意しろ』


「えっ?」


 アルの言葉に俺は一瞬驚く。どういうことだ?


 人を避けながら走り続けるその男を見ると、

 正面に立つ、フードを被った人にぶつかったところだった。


「クソッ……! どけっ!!」


 その男を突き飛ばし、走り続けようとするが、突然犯人の服が紅く燃え出した。


「なっ……なんだ!?」


 慌てて服を脱ごうとするが、その紅い光は炎のように、服から体に移っていく。


 あっという間に紅い光は全身に広がり、一瞬で男を包み込んだ。


「ギャッ……ガッ……」


 犯人の男は地面をのたうち周りながら、悶えるように苦しみ……灰になった。


 カタン……と、音を立ててチャージリングが転がる。


 それを見ていた周囲は、騒然となった。


「おまえ!! 何をやった!!」


 駆けつけてきた数人の警備部隊が剣を抜き、斬りかかろうとする。


 あっ……、まて!

 俺は心の中でそう叫ぶのが精一杯だった。


 切り掛かった剣は、フードの男に触れた瞬間、切り裂くことができず、体の表面で受け止められた。


 そして、一瞬で紅い光が包み込む。


「ぐっ、グァァァァ!?」


 切り掛かった警備部隊の男は、地面をのたうち回る。

 だが、それだけでは終わらなかった。


 近くにいた周囲の二人の警備部隊の仲間にも、地面を伝ってその光が一瞬で広がる。


「グガァァァァァ……?」


 大柄の男が三人、地面を転がりながら、心が裂けるような悲鳴をあげる。


 そして、三人の片腕が灰になり、消滅したところで、紅い光は消え去った……


「おい、手だけで助けてやったんだ?礼は?」


 ハイジが、聞くだけで凍えるような声で告げた。

 同時に、倒れている一人の背中を足で踏み潰す。


「ゆ、許してください……」


 大の大人が、泣きながら言葉を搾り出した。


「おい。お前も、助けてやったんだから、礼はどうした?」


 ゾッとする笑みで、被害者の女を見るフードの男。

 ヒッ、と女性は引き攣るような悲鳴をあげた。


 やばいな、これは……


 俺はフードを被った小柄の男にじっと目を向ける。


 幸いこちらはどちらかと言えば背中側で、少し距離がある。


 周囲を見渡すと、多くの人は逃げていったようだ。

 まあ、当然か。


 だが、集まってきた警備部隊の人間など、一部の人は残っていた。


 その中に、エリカやフエゴたちの姿もある。

 悲鳴を聞いて、駆けつけたのか。


 二人とも視線を下げて動かない。

 微かに震えているのがわかる。


 周囲に集まってきた、警備部隊人も皆同じだ。


 紅く輝くエネルギー。

 首のチャージリングは紅……

 そして、こんなことをするのはあの悪名高いハイジのみだと、皆知っている。


 ハイジ・ハグリー

 最悪の真紅ルビーが、俺たちの前に現れたのだ。


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