第77話 徴用校への帰還
集落に帰ってからは、役場の2階でゆっくり休むことができた。
体の傷は痛むが、まあいつものことだ。
慣れって怖いな。
エリカとアザカからは、沢山の質問を受けることになった。
どうやってあの状況から生き残ったのか、信じられなかったみたいだ。
流石に俺が真紅の力で倒しました、とは言えない。
仕方がないから、俺は瓦礫の隙間でかろうじて生き残り、あの白金のエーテル燃焼体は体が潰されて死んでいたということにした。
あれがそんなことで死ぬかしら?
と、エリカが首を傾げていたが、なんとか押し切った。
言い訳が苦しいのはわかっているが、これはしょうがない。
「うおー!! やっぱりお前は生き残ると信じてたぜ!」
翌日、報告を終えて村に戻ってきたセドが、前にも聞いた言葉を言いながら、俺の背中をバシバシと叩いてきた。
「……ずっと真っ青な顔だったけど?」
「はあ!? そ、そんなわけないだろ!
俺はちゃんと信じてたぜ!」
アザカに突っ込まれ、セドが狼狽えている。
こいつは相変わらずだな。
そんなこんなで、集落で追加で一日過ごした後、徴用校が派遣した調査部隊が到着した。
「君が行方不明になるのは2回目だからね。僕も生きているとは思っていたんだ」
そう言いながら、数人の黒硫黄の部隊を率いていたのはエアハルトさんだった。
相変わらず、爽やかな笑顔だ。
「え、エアハルトさんがこんなところまで……?」
予想外の大物に、アザカとセドは緊張で固まってしまった。
そんな二人は集落に残して、俺とエリカでエーテル燃焼体の死体がある場所まで案内し、現場を確認してもらうことになった。
「こんな穴、空いてなかったけど……」
エリカは俺が脱出してきた穴を見ながら、首を傾げる。
確かに……
たぶん、俺の真紅のエネルギーを放出した時にできたものだろうな。
「あのエーテル燃焼体、体が潰れてたけどしばらく暴れ回ってたから、その時にできたんだと思います」
とりあえず、それっぽい言い訳をエアハルトさんに伝える。
体の半分は消しとばしてしまったが、潰された後に暴れ回ったということにしておけば、ごまかせるかもしれない。
エアハルトさんは、下で倒れているエーテル燃焼体を見ながら、じっと考えていた。
我ながらいい言い訳だと思うが、エアハルトさんは鋭いからな……
問い詰められたらボロが出そうだ。
「……無事に任務を完了したみたいだね。お疲れ様」
何か言われるかと思ったが、とりあえず大丈夫みたいだ。
エアハルトさんはいつもの笑顔でそう言うと、俺達にはキステリの徴用校に帰還するように指示を出した。
俺はほっとした様子で頷く。
今回もなんとかなったな。
アルに頼らなくても真紅を使えるようになったし、エリカを助けたから多少の石は確保できるかもしれない。
集落の代表は、エリカに何度も頭を下げていたが、エリカは「私じゃなくて彼のおかげです」と俺を示していた。
だが、そんな謙遜せずに……と、信じていない様子だ。
まあ、この反応は普通だろう。
皆に感謝されたエリカは微妙な表情だったが、俺たちは4人でキステリへ戻ることになった。
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「なんだかんだ、ここに着くと家に帰ってきたって気分になるよな!」
徴用校だけがある、小さな駅。
こじんまりとしたホームに降り立ったセドが、明るい声を出す。
「早くこんな田舎から出たいんじゃなかったのか?」
「いや、そうだけどさ! そう言う気分になるだろ?」
まあ確かにセドが言うこともわかる。
ここには嫌な思い出しかない俺でも、帰ってくると少しほっとするからな。
「ちょっと静かにしてよ。
くだらない話ばっかりして、列車でも周りの目が痛かったでしょ?」
アザカが呆れた様子で俺たちを見ていた。
グローリア鉱山で見た時より、元気になったようでよかった。
詳しいことは聞けていないけど、俺がいない間にエリカと仲直りしたのだろうか?
皆で帰って来るのは、思いのほか楽しかった。
こんなこと、徴用校に入った頃以来だ。
大抵の場合は一人だったからな。
少し浮ついた気持ちのまま教育棟へ入る。
人が多い。皆業務が終わって帰ってきた時間みたいだ。
げっ、トール達と目が合った。
「ちっ、あいつ生きてるよ」
トールの取り巻きが嫌そうな顔をして告げる。
「どうせエリカさんに助けてもらったんだろ。
こんな役に立たないやつを助けるなんて、ほんと優しいよな」
嫌味なセリフをわざと聞こえるように告げられた。
周りに恵まれてたけど、これが普通だもんな。
浮ついていた気持ちが、急激に落ち着いてきたのを感じる。
「ちょっと……!」
エリカが少し険しい顔をして前に出ようとしたので、俺は急いでそれを止める。
「確かにあんたは優しくないけど、そんなに怒ることないだろ……って痛っ!」
エリカは即座に俺の腰を抓り、「後で殺す」と笑顔のまま小さな声でつぶやいた。
「ほんと、あなた達仲良くなったわね。嫉妬するわ」
アザカがくだらないものを見るような目で、俺たちを見ていた。
「ちょ、ちょっと、そんなんじゃなくて……」
「はいはい、早く一次報告してきなよ」
エリカが言い訳しようとするが、アザカが適当にいなして背中を押す。
何にせよ、俺たち誰も欠けることがなく、無事に任務を終えることができたようだ。




