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第73話 応援と脱出

 コルトレイスから集落までの道を、乗り合い車両が急ぐように進んでいた。


 車両の動力である、黄色いエネルギー光が忙しなく光っている。


 最大8人乗ることができる車両だが、乗っているのは二人、徴用校の制服を身につけたセドとアザカだけだった。


「すごい場所だな。

 周りはほとんど山じゃないか」


 セドが外に流れる景色を見ながら呟く。


「たぶん、わたしは役に立たないよ……」


「大丈夫だ!

 俺がカッコよく助けるからな!」


「……はぁ、なんでこんな事になっちゃったんだろう」


 明るい声で意気込むセドに、アザカは小さな声でため息をついた。


 セドがオーウェン学長から呼び出しを受けたのは、シュウヤが出発した三日後の夜だった。


 いつもの通り、鉄道の警備業務に就いている時に部隊の隊長から呼び出しを受けた。


 配置の変更か何かだと思っていたが、隊長に告げられた言葉に驚愕する。

 急ぎ学長室に行くよう指示されたのだ。


 シュウヤは度々呼び出されているため感覚が麻痺しているが、学長室に呼び出されることなど通常ありえない。


 何で俺が……?

 さすがのセドも、手に汗を感じながら学長室の扉を引くこととなった。


 そして、オーウェンからエリカ行方不明の報告を受け、さらに驚愕した。


 セドが告げられた指示は、急ぎ現場の集落に向かい、シュウヤから詳しい情報を聞き出すこと。


 そして、別の応援が向かうまで山に入らず、安全を確保することだった。


 オーウェンから同行する人員の選定を任された時、真っ先に頭に浮かんだのはアザカの顔だった。


 以前の鉱山での任務で、アザカとエリカは何らかの深い繋がりがあると感じていたからだ。


 アザカは黒硫黄サルファ下位のため戦闘能力はない。だが、今回の任務に戦闘は不要だ。


「なあ、もしよければ何だけど、エリカさんとの関係を教えてくれないか?」


 ここに来るまで、ずっとアザカは呆然としていたため、セドは声をかけるべきか迷っていた。


 だが、任務に同行してくれるのならば、アザカのことをもっとよく知る必要があると判断して声をかけたのだ。


「……あなたの予想通り、私の燃焼レベルが上がらなかっただけよ」


 アザカは沈んだ声で呟く。


「昔は仲良かったのか?」


「そうなんだけどね……

 やっぱり、ここまでレベルが違っちゃうとね……」


「まあ、そうだよな……」


 よくある話だ。徴用校に入った頃は、黒硫黄サルファレベルに到達していない人も多い。


 だが、そこから次第にエーテル燃焼レベルの成長は差が開いてくる。


 最初に仲良かったグループでも、三年目にはチラホラとメンバーが変わるのも普通のことだ。


「はぁ、私ダサすぎ。

 自分から拒絶しておきながら、何で未練がましくここまで来たんだろ……」


 少し俯いて話すアザカを見て、セドは明るいトーンで口を開く。


「まあ、自分でもわからないことって、意外とあるよな。

 しかも、なんかそれが自分の嫌なところだって感じてたりするし……

 今回はそれに向き合ってるってことだろ? 逃げてるだけよりずっといいじゃないか」


「ははっ……多分、もう手遅れって思ってるからよ。

 あのエリカが死ぬなんてまだ想像できないけど……その場所で行方不明になってから、見つかった人はいないんでしょ?」


「……まだ決まったわけじゃないさ。シュウヤが探してる」


灰塵ダストの彼に何ができるのよ……」



 無言で車両が揺れる音だけが続いた。


----



 エリカが蜘蛛のような姿をしたエーテル燃焼体を倒したので、後はこの空間から脱出するだけだ。


 だが、陽の光が見える出口は遥か上、壁を登らなくてはたどり着けない。


「ちょっ、ちょっと! 触ったら殺すわよ!!」


 俺は左手を負傷したエリカを背負いながら、なぜか罵倒されていた。


「は、はぁ!? なら自分で登れよ!!」


「バカじゃないの!? 無理に決まってるでしょ!!」


 左手を負傷し、エーテル燃焼能力も限界まで使ったエリカは、もう壁を登ることはとてもできそうになかった。


 仕方なく俺が背負って登ることになったが、理不尽に罵倒されている。


 というか、こんなに女と密着したことは今までなかった。


 背中の感触とかに気を取られる……

 いや、落ち着け!

 登ることに意識を集中するんだ。


「ふっ、ふう……」


 黙々と手足を動かし、光沢のある黒い壁を登る。手足をかけられる場所を探しながら少しずつ昇って行くが、さすがに疲れる。


 エーテル燃焼が灰塵ダストレベルまでしか見せられないのが辛いな。


「クソッ、重い……」


「はっ、はぁ!? 私そんな重くないでしょ!?」


 バシバシと、後ろから頭を叩かれる。


「あんたがひ弱なのよ……っ!!」


「あっ、ちょっ、引っ張るな……!」


 ビリッという嫌な音と共に、肩から背中にかけて服が破けた。


 あーあ……ただでさえ背中はアルの燃焼で穴が空いてたりするのに、また買い替えないと。


「……灰塵ダストの報酬だとキツいんだぞ」


「ご、ごめん……」


 エリカが謝った!?

 珍しいな……


「背中、ボロボロじゃない……」


「え? ああ、まあ伝統で未到領域に放り込まれた時、何度も喰われかけたし」


 アルの厳しい訓練のせいで、逃げ回ってたからな。

 後ろから何度も攻撃されたし……


「ま、まあそうよね。

 一人であの場所にいたら、そうなるか」


 一人じゃなかったけどな。


「……痛い?」


 エリカが恐る恐ると言った感じで聞いてくる。


「いや、痛くない。単純に重い」


「だからっ!わたしは軽いって言ってるでしょ!!」


 痛えっ!! また頭を叩かれた。


 早く登り切らないと、ボロボロになるぞ……


 だけど、もう少しだ。

 外の景色が近づいてきた。


 一時はどうなるかと思ったけど、ほんと何とかなって良かった。


 そう思った瞬間、背筋が凍るほどの気配を察知した。


「っ……!!」


 白金パールⅤ以上……


 何で気配察知できなかった!?

 完全に寝ていたのか!?


 しかも未到領域でもないこんな場所で……


 いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない!


「どうしたの……っ!!」


 エリカが俺が動揺したのを感じて声をかけてきたが、すぐに異変に気がついたようだ。


 捕まっている壁が激しく揺れだし、地響きが鳴り響く。


「な、なに!?」


 俺の首が締まるほど、エリカがキツくしがみつく。

 くっ……痛いし色々気になるけど、それどころじゃない。


 下を見ると、壁だと思っていたところの一部が崩れ落ちている。


 そして、さっき倒した個体が子供に見えるほど巨大な、白金色に輝くエーテル燃焼体が現れた。



「な、なによあいつ……」


 エリカが下を見て絶句している。


 あれはヤバい……

 アルの真紅ルビーの力を使わないと勝てないかもしれない。

 だが、今は寝てるから逃げるしかない。


 クソッ、間に合うか……?


 上を見上げ、あと少しで届きそうな出口まで急いで登ろうとした。


 だが、再び壁がが激しく揺れだす。

 下を見ると、エーテル燃焼体が壁ごと壊そうと巨大な脚を叩きつけていた。


 ……っ!

 グラッと、俺の体勢が崩れた。


 今まで登ってきた壁が崩れ落ち始めている!


「っ……!」


 俺は咄嗟に、エリカの体を右腕で抱えて、左手一本で壁に捕まる。


「えっ、な、なに!?」


 混乱するエリカを無視して、俺は右胸で白金パールの燃焼を始めて、エネルギーを右手に纏った。


 下から粒子が舞ってきているこの状況なら、多分俺の燃焼には気が付かれないと思うし、そんなこと言っていられる状況じゃないので、急いでエネルギーを纏う。


「俺は必ず生き残るから、状況を徴用校に伝えてくれ!!」


「まって、何を……!」


 俺はエリカの言葉を無視して、思いっきりエリカを上に放り投げる。


「ちょっ、きゃぁぁぁ!!」


 エリカがこの空間の外に飛び出た瞬間、俺の周囲の壁も崩れ出した。


 これは死ぬかもしれない……


 俺は精一杯のエネルギーを体に纏い、崩れ落ちる壁と共に下に落下した。

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