第71話 脱出の手がかり
シュウヤが情報を託した翌日の夜。
キステリの徴用校へ、エリカ行方不明の一報が届いた。
これはシュウヤの予想よりも半日ほど早かったことになる。
村の代表がほとんど使ってなかった唯一の車両をなんとか動かし、定期便を待たずにコルトレイスの街までたどり着くことができたのだ。
だが、貴重な白金が行方不明になったという報告は、学長のオーウェンを動揺させるのには十分な内容だった。
「……甘く見たか」
オーウェンは自身の対応を後悔した。
思えば今までが上手くいきすぎていたのだ。
ヒツギ・シュウヤが数百年の伝統からはじめて帰還し、その後の鉱脈探索は歴代最小の被害で終えることができた。
今回の任務も危険ではあるが、未踏領域よりはるかに安全だろうという思いが判断を鈍らせた。
確かにヒツギ自身は生き残ってきたが、他のメンバーまで無事とは限らない。
実際に鉱脈探索では、ソルトがシニガミに触れられて命を落としている。
二人だけで向かわせるべきではなかった……
自身の判断で、若い白金を失ってしまったかもしれない。
国の貴重な戦力を失った責任は、オーウェン自身に降りかかるだろう。
なによりも、これから白金の特権を得て、不自由なく生きていくことができたであろう彼女の人生を奪ったのだ。
沈む気持ちに引きずられながらも、なんとか今後の対応を考える。
報告によると、ヒツギ・シュウヤはそのままエリカの捜索に向かったと記載されている。
普通の灰塵に今回の問題を解決できるとはとても思えない。
だが……伝統から生き残った彼は、他の灰塵とは違う。
それはオーウェン自身もほぼ確信していた。
しかし、彼まで行方不明になってしまえば、詳しい情報を聞くことができず、また被害は拡大する。
急ぎ救援を送るべきだが、この任務に向かってくれる人はいるだろうか?
白金が消えたとなれば、それば一大事件だ。
強力な危険体が存在する可能性がある。
たとえ高額な報酬であっても、忌避感を持つのは理解できた。
「確か、仲がいい黒硫黄がいたな……」
オーウェンの脳裏に、黒硫黄だがシュウヤのことを差別せず、共に過ごしていた仲間の存在が浮かんだ。
あくまで報告として聞いているだけなので、どこまで協力してくれるかは分からない。
だが、事態は一刻を争う。
オーウェンは救援の体制が整うまで、彼に協力を依頼することを心に決めた。
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エリカが落ち着いてきたので、俺はこの地下空間の情報を確認していた。
「出口は、あの落ちてきた空間だけしかないのか?」
「ええ、数日歩き回ったけど、他に出られそうな場所はなかったわ。
迷路のような道が続くだけで、広い空間はあの場所しかないみたい」
「白金の危険体に見つからずに脱出できないかな?」
「無理ね。試してみたけど、壁を登り始めると何故か察知されるから、最悪の体制で戦うことになるわよ」
「倒すとして……硬い装甲は正面だけか?
どこか攻撃が通りそうな場所は?」
「それがあったら、苦労しないわ。
身体中に盾みたいな塊がついてるし、その隙間ですら攻撃が弾かれたわ」
エリカと脱出方法を相談し始めてしばらく経つが、いまだに有効な攻略方法が見つからなかった。
危険体の強さはおそらく白金Ⅲ程度。
多分俺でも倒せるし、アルの力を使えば全く問題ない。
でも、出来るだけ不自然がないようにしないと……
後で詳細な報告を求められるはずだから、アルの力を隠したい。
「攻撃が通らないんじゃ、倒しようがないな……」
「だがら言ったでしょ、どうしようもないって」
エリカがため息をついて、諦めの言葉を吐いた。
「俺が引きつけているうちに、上から脱出できないか? そうすれば……」
「左腕を怪我して、上手く動かないの。
とても一人で登り切る自信はないわ。
それにっ! あなた何でそんな事言えるのよ!
一人でアレと残されても、死ぬのわかってるでしょ!?」
「いや、普通の灰塵の使い方だと思うけどな……」
そう言った瞬間エリカに睨まれたから、思わず両手をあげて降参する。
「睨むなって!
でも、他にどうしたら……」
俺は困って、アルの方に視線を向けた。
『ああ? テメェなに諦めてんだコラ。
あんなカッコつけておいて諦めんじゃねぇ』
……案の定、優しさのかけらもない言葉が飛んできた。
あてにはしてなかったけど、しょうがないか。
『ハッ、まあテメェレベルの燃焼じゃ、アイツは貫けねえかもな。
俺は寝るから。あとはテメェで何とかしろ』
「えっ、ちょっ!!」
思わず出た俺の声に、エリカが怪訝な表情を見せる。
クソッ、こんな状況で寝やがった!
確かにここに落ちた直後、真紅の力で落下の衝撃を防いでくれたけど、そんなに使ってないだろ……
それに、あのエーテル燃焼体ならさっき一体貫いたじゃないか!
黒硫黄レベルだったけど。
……ん?
アルに心の中で言い返していたが、ふと違和感に気がつく。
俺はここに落ちて来て、黒硫黄レベルの蜘蛛のようなエーテル燃焼体を一体倒している。
エリカの言っていた白金の個体と同じく、盾のような装甲で覆われていたから最初はその隙間を攻撃した。
だが、手応えがイマイチだったので、結局エーテル燃焼のレベル差を信じて、盾のような装甲部分に無理やり力を打ち込んだのだ。
だけど予想と異なり、装甲の隙間を攻撃した時よりもずっと楽にエネルギーを打ち込む事ができた。
……あの盾のようなものは、装甲ではないのか?
「なあ、例の危険体には攻撃したんだよな?
盾みたいな装甲にも攻撃したか?」
「……多分何度か剣が当たったはずだけど、それが何?」
「俺はここに来る前に黒硫黄レベルのやつに遭遇したけど、あいつ、盾みたいな装甲の方が手応えよかったぞ」
「はぁ? なんで灰塵のあなたがそんな事知ってるのよ。
というより何で戦ってるの!
自殺行為でしょ!」
「いや、落ちたときに見つかったからダメ元で攻撃して……それで逃げ切れたんだ」
アルの燃焼器官を使ったとは言えないので、適当にごまかした。
これで俺の気のせいだったら、エリカに殺されるかもしれない。
「アレは盾じゃないって事?
確かに思いっきり攻撃はしてないけど……
でも……やっぱり無理よ……」
エリカは力なく首を振った。
やっぱり、自信を失ってるみたいだな……
「じゃあ俺がやるよ」
俺の言葉に、力なく俯いていたエリカがはっと視線を上げた。
「このまま待っていても死ぬだけだし、試してみるしかないだろ」
「っ! 待って……」
そう言って立ちあがろうとした俺を、エリカは服を掴んで止めた。
その手はかすかに震えている。
「……いいわ。一緒にやりましょう」
エリカは大きく息を吐いて、覚悟を決めたように頷いた。




