第68話 エリカの行方
気配が消えたエリカを追わなくてはならない。
俺は白金の力を纏って走り続けている。
別に何か景色が変わっているわけではない。
緩やかな山の斜面を登っているだけだ。
焦れるような気持ちと共に、エリカの気配が消えたあたりにたどり着いた。
だが、エリカの姿は見当たらなかった。
くそっ、細かい樹々が多くて、視界が遮られるな……
急にエーテル燃焼を止めただけならいいけど、この距離で察知できないのはやっぱり嫌な予感がする。
「消えたのはこの辺りのはずだけど……正確な場所はわからないな。
アルも察知できないのか?」
『少なくともこの近くでは見つからねえ。
明らかに不自然な消え方をしやがったな』
「……クソッこの辺りを探してみるしかないか。
おい!! 近くにいないのか!?
返事をしてくれ!!」
焦りながら声を出して、エリカを探す。
普通はエーテル燃焼を止めても、完全に燃焼の気配が消えるわけじゃない。
進んだ方向くらいはわかるはずだが、今回はそれすらわからなかった。
まるで本当にここで消えてしまったような……
周囲に動いて探ってみるが、エーテル燃焼の気配はない。
ただですら草木が生い茂っているから視界が悪いのに、暗くなってきている。
「こんな事あるか?
この辺りはエーテル燃焼体の気配も感じなかったぞ!?」
『いつまで動揺してやがる。
こうなる可能性も考えてただろうが』
「そりゃそうだけど……
本当にこんな事になるとは……」
アルに言われて思い出した。
エリカと逸れた時のために、キステリの徴用校への連絡手段を確認しだはずだ。
だけど、なかなか連絡する気になれない。
やっぱり少し躊躇してしまう。
クソッ日が暮れ始めている。
これじゃあ見つけるのも難しいか……
慣れていない場所だから、あまり無闇に動くのも危険だ。
「……一旦、村に戻ってエリカが帰ってないか確認しようか。
もし帰ってなければ、キステリの徴用校に連絡を頼もう」
やばい……
エリカに何かあれば灰塵の俺は評価が失墜する。
そうなれば、石の確保が難しくなるから……
最悪はアルの力を見せるか、他国に亡命するか……
いや、今そんな事考えてもしょうがない。
まだ冷静ではない気がするが、俺は白金のエネルギーを纏って村へ引き返した。
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村に戻った頃には、完全に日が暮れてしまっていた。
村には灯りはほとんどなくて暗さに戸惑う。
これではシニガミの発見も難しい。
夜はうかつに出歩けないだろうな。
焦っているけどそんな事を考えながら、村に着いた時に案内された役場の建物へ向かう。
この建物は中に灯りが灯っていたから、なんとか見つけることができた。
木でできた軽い扉をを開けると、俺たちを案内してくれた初老の男性が立ち上がった。
「おお、戻りましたか!
遅かったんで…………
あの……白金の方はどちらへ?」
っ聴きたくなかった言葉だ。
これでエリカが帰っていないことが確定した。
「その様子だと、戻っていないみたいですね……」
「ま、まさか!
なんで……あんた、生贄じゃなかったんか!?」
「彼女は、暗くなり始めてからも一人で調査を進めるって言って俺から離れていった。
俺も追ったけど、突然消えたから嫌な予感がしていたんだ」
「そんなっ……白金の方が死んでしまったら、もう終わりだ……!」
目に涙を浮かべて取り乱している男性を見ながら、クソッ、泣きたいのは俺だぞ……と言う気持ちが沸いてきた。
「急いでキステリの徴用校に連絡をして!!
コルトレイスの宿で回線が借りられるから、そこから連絡を!!」
こんな村には回線が届いていない。
コルトレイスで確認した宿まで行かないといけないが……
「だ、だけど明日は街への定期便はないから、明後日にならないと……」
顔を真っ青にして言う男性の言葉で、俺も絶望する。
クソッ……そうだった……
だから今日は無理せず戻りたかったんだ。
今更エリカに対して心の中で悪態をつく。
「なんでもいいから一番早い方法で、これをキステリのオーウェン学長に伝えて!!」
俺は地図を広げて、エリカの気配が消えた場所に印を書き、消えた時間や俺がいた位置、エーテル燃焼の気配がなくなったことをメモした。
俺の気配察知がかなりの距離で可能なことはバレてしまうが、そんなこと言っている場合じゃない。
「頼みますよ!! キステリのオーウェン学長あてに!!」
時間はかかるかもしれないけど、とりあえずこれで応援は呼べるだろう。
あとは……やっぱり俺が探すしかないか。
暗闇のなか動き回るのは危ないけど、仕方ない。
「あ、あんたどこへ……!」
役場から出て行こうとしたが、呼び止められた。
「灰塵がこのまま帰れるわけないだろ!?
俺はエリカを探すから……」
「だけどっ!あんたじゃ……」
「俺はいいから、とにかく連絡を!!」
男性の言葉を遮って、俺は来た道を走って引き返した。
一刻も早くエリカを見つける必要がある。
もう死んでいるのではないかという考えが頭をよぎる。
だが、俺はもう出来ることをするしかなかった。




