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第62話 エリカとの任務


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「失礼します」


 俺は少しだけ立派な装飾が施されているドアを引いた。


 このドアを開けるのも、そろそろ慣れ始めたな。

 普通は開けることなんて、滅多にないはずなんだけど……


「ああ、朝から呼び出してすまない。

 こっちに来てくれ」


 部屋の奥で執務用の机に座っていたオーウェン学長が声を出した。


 少し古いが光沢のある木でできた机は、重厚な存在感がある。


「前回君をここに呼んだのは、鉱脈探索の前だったな」


 手元の書類から顔をあげた学長が、背もたれに寄りかかるようにして告げた。


 たしかあの時はエアハルトさんがいて驚いたな。

 大して前のことではないけど、色々あったから懐かしく感じる。


「さて、二度目の鉱脈探索はどうだった?」


 笑顔もなく淡々と聞かれたけど、やっぱり探られているような感覚を受ける。


「無事に生き残ることができて良かったです。

 灰塵ダストの僕を助けてくれた、バレッタさんやエアハルトさんには感謝してます」


 心から思っていることを答えた。

 特にあの二人は、灰塵ダストだからといって酷い扱いをしてこなかったからな。


 セドのせいで感覚がまひしているけど、そんな人達はほとんどいない。


「感謝……か。彼らも君には感謝していると言っていたよ。役に立つことができた自覚はあるか?」


「そうですね。逃げ足は速いので、危険を察知する意味では役に立てたと思います。

 伝統に選ばれたおかげですね」


『ハッ、嫌味なやつだな』


 アルの言葉で気がつく。

 しまった、余計なことまで言ってしまった。


 一瞬オーウェン学長の顔がこわばったのを感じた。

 試験の結果を告げただけとはいえ、俺に伝統の鉱脈探索を命じたのは学長だ。


 特に意図はなかったけど、嫌味を言ったように取られたかな?


「それは報告書にも書かれていた。

 成果はイドラ草の解析が終わってから発表になる。

 まだしばらく待っていてくれ」


 とりあえずは特に怒られなかったから、大丈夫そうだな。


「今日君を呼んだのは、できれば参加してほしい任務があるからだ」


 オーウェン学長は話を切り替えるように、手元の書類を俺に差し出した。


 これは……


 俺が口を開こうとした瞬間、俺の背後にある学長室のドアが叩かれた。


「ああ、入ってくれ」


「失礼します」


 うげっ…………

 聞き覚えのある声と、髪の蒼い飾りを見て嫌な予感した。


 入って来たのは、昨日もグローリア鉱山で顔を合わせたエリカだった。


 エリカは俺を見て一瞬驚いたようだったが、ほかの感情は見せなかった。

 さすがに学長の前では睨んだりしないか。


「思ったより早かったな。

 こっちに来てくれ」


 学長に促されてエリカは俺の隣に立つ。

 まさか……


「君たち二人には、ある任務を頼みたい」


 やっぱりか……

 鉱脈探索では少しの時間でも気まずかったのに、どうしたらいいんだ!?


『日頃の行いってやつだな』


 クソがっ!

 ニヤニヤしているアルもムカつくけど、学長の前では表情に出せない。


「少し離れているが、アルプ地方に向かってもらいたい」


「アルプ地方ですか?

 たしか北側の地域で、ここから鉄道を乗り継いでも二日はかかる場所ですよね?」


 俺の言葉に学長は頷く。

 ここから少し距離がある。

 大きな街もなく、正直言って田舎のイメージだけど何があったんだ?


「ああ、実はその地域では昔から人が行方不明になることが多くてね。

 最近調査に向かった人員も、連絡が取れなくなってしまった」


 学長に手渡された紙の資料に目を落とすと、地図の上にいくつか青いバツ印と日付が書かれている。


「その紙に書かれているのは、行方不明になった人が最後に目撃された場所だ」


「えっ……こんなにですか?

 今年は特に多いですね」


 思わず声を上げた。今までは数年に一人の割合だったのが、今年はもう三人も消えている。


「今年の3人は、調査に向かったメンバーだ。

 そのうちの一人は黒硫黄サルファ上位だったが、結局帰って来ることはなかった」


 黒硫黄サルファ上位も帰って来ていない?

 だが、ここまでの被害が出ているならもう……


「あの……これは軍の部隊で対応は行わないのでしょうか?」


 エリカが俺も思っていたことを聞く。

 何度も行方不明者が出ているなら、軍の部隊が動くべき事案に思える。


「本来は大規模な部隊で調査に向かうべき事案なのだが、予算や人員の問題で難しいらしい」


 なるほど、ほとんど人も住んでない場所だからな。

 最近は、田舎からシニガミの襲撃に耐性がある都会に人が集中しているらしいし、なんとなく気持ちはわかる。


「伝統を生き残ったヒツギ君なら、何か気がつく事もあるかと思ったのだがどうだろう?

 もちろん無理にとは言わないがね」


 おいおい……なんだか凄く危険な任務な気がするぞ。

 というか、そんな任務に白金パールを向かわせていいのか?


「あの……僕は灰塵ダストだからともかく、白金パールのエリカさんはいいんですか?

 こんな危険な任務に……」


 俺だけで行く方が動きやすいこともあるけど、素直に思ったことを話した。


「これは私が志願したの。

 掲示板に募集が出てたでしょ?」


 エリカが普段?とは違う柔らかい口調で俺に告げた。


 え、掲示板?

 募集型の任務もあるけど、白金パールが応募するような内容はないはずだ。


 白金パール限定の割の良い任務は、俺たちに見えないように知らされるって聞いてたぞ?


「まさか君が応募するとは思っていなかった。

 白金パールならもっと報酬がいい任務もあるが、本当にいいのか?」


「ええ、他の教官にも言われました」


 エリカが苦笑しながら続けた。


「でも、この任務は何度か依頼が出ていたので。

 何人も行方不明になっているのなら、早めに解決をすべきだと思って。

 自分の力が役に立つのなら、協力したいと思いました」


 まじか……

 こいつ、あの性格なのにどれだけ優等生を演じれば気が済むんだよ。


「……そうか。

 正直、この任務で白金パールを失うわけにはいかない。

 たとえ手がかりがなくても、深入りせず帰還してくれ」


 オーウェン学長は、エリカの目を見て言い聞かせるようにゆっくりと告げた。


 そりゃそうだよな。

 白金パールを失ったら、学長の責任問題にもなる。

 まあ、俺は死んでも全く問題ないから指名されたんだろうな。


「ヒツギ君も、無理をせず慎重に進めてくれ」


 と、思ってたら予想外の言葉に戸惑う。


「えっ? あ……はい」


 え、俺も気をつかわれた?

 まさかな……あくまで形式的なものだろう。


「現場付近の泊まることができる街までもかなりの時間がかかる。

 二人とも準備が出来次第、すぐに出発してくれ」


 少し煮えきらない部分はあるが、とりあえずオーウェン学長の言葉に頷いた。


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