第61話 石の価値
グローリア鉱山から戻った翌日、
アルと早朝訓練をするのはいつも通りだ。
最初の頃は眠かったけど、さすがにもう慣れてきたな。
「クッ……ハァッ!!」
右胸の燃焼器官でエーテル燃焼を開始する。
最大まで出力を上げているが、キラキラとした白金色の光が増すばかりで色が変わることはない。
真紅の力を自分で使えるようになるために訓練を続けているが、まだ成果はなかった。
今日も何度も試したけど、効果が見えないのは辛いな。
『相変わらずだなテメェは』
アルがエーテル燃焼を開始し、俺の右胸の熱が跳ね上がる。
そして真紅のエーテル燃焼光が俺の体からあふれ出した。
アルは、なんで出来ないんだ?と、いった感じで軽々とやってのける。
「クソッ!そんなに簡単にできるわけないだろ」
俺は頭の後ろで手を組んで寝転がっているアルを、恨みがましく睨んだ。
ちくしょう。
やっぱり、真紅は特別なのか?
同じ燃焼器官を使ってるからできるようなものではなくて、なんか別の要素も必要なんじゃないか?
なんでうまくいかないのかを考えてみるが、手掛かりがない状況だ。
やばい。そろそろ戻らないと。
今日は朝からオーウェン学長に呼び出しを受けているんだった。
昨日はグローリア鉱山でエーテル燃焼体の残党排除が任務だったが、その後の任務は掲示板に示されてなかった。
セドは別の鉄道警備に戻るように指示があったが、俺は個別で学長室に来るよう記載があったからだ。
さすがに皆、誰がどの任務についているか全てを把握してはいないけど、気がついた数人からは「またお前か」というような視線を感じることになった。
セドも驚いていたように、学長に呼び出されるのは普通じゃないからな。
そんなわけで、少し早足で教育棟の方へ戻る。
いつもの樹々が切り倒されているエリアを超えたあたりで、鐘の音が聞こえ出した。
シニガミの出現を告げる鐘だ!
「クソッ、シニガミか」
『ハッ、別に珍しくはねぇだろ』
アルの言う通り、別に珍しいわけじゃない。
酷い時には数日に一度は聞くことがある。
鐘の音が聞こえ始めていれば、場所を把握できているのでまだ安全だ。
「だけど宿舎棟の方向から聞こえるぞ。
まだ寝てる人もいるはずだから、被害が出てるかもしれないな」
鐘の音は教育棟ではなく、宿舎棟の方から聞こえている。
つまり、寝ているところに襲撃を受けた可能性があるということだ。
周りは監視できても、地面の下や空から現れた場合は防ぎ切れないからな。
教育棟が見えてくる。
何人かの生徒が青い顔をしていた。
やっぱり、被害があったのか……
「シュウヤ!!無事だったか!」
セドが少し安堵した表情で近寄ってきた。
「ああ、セドも大丈夫だったのか?」
「俺はちょっと早めに目が覚めたから、運が良かったぜ。だけど……」
セドが向けた視線の方向に目を向けると、顔に黒い布を被されられた体が、何体か運ばれて来た。
少し見えた手の甲の部分は、老人のような皺だらけだ。
「まだ暗い時間に、地面の下から現れたみたいだ。
一階の監視が警報を鳴らすとほぼ同時に、宿舎が襲われ出したらしい」
時々押し殺したような泣き声が聞こえてくる。
何人も死者が出ているようだ。
周りを見渡すと、アザカが真っ青な顔で立っているのが見えた。
何人かから声をかけられている。
アザカは首のチャージリングに手を当て、倒れそうな顔で俯いている。
チャージリングの石が灰塵の俺よりも少ない。
昨日は六割以上残っていたはずだが、三割程度まで減っていた。
シニガミに触れられたのか……
「アザ……」
セドが声をかけようとして止まった。
たぶん、近くにエリカがいることに気がついたからだ。
エリカが意を決したように、アザカに歩み寄る。
「触れられたの?
石は……まだある?」
俯いていたアザカは、少しだけ視線を上げたが、エリカに目は合わせなかった。
「…………石が無くてもどうしようもないでしょ。
もうすぐ支給だから。
それまで気をつけるしかないから」
絞り出すように声を出して、そのままエリカから離れていった。
エリカは拳を握りしめて俯いている。
出来ることは…………ない。
石は金よりも大切な命を守るものだ。
たとえ友人でも、渡していいものではない。
暗い表情をして、皆それぞれの任務に向かう。
これはシニガミがいる限り避けられない日常だ。
皆それをわかっていた。




