第57話 目指すべき色
皆が出ていった静かな食堂。
俺は座って伸びをしながら、アルに視線を向けた。
「さて、どうしようか?
ほんとは石を補給しに行きたいけど、まだ先なんだよな」
鉱脈探索でシニガミに触れられたソルトを見ているので、正直石を補給したい。
だが、支給日はまだ先だ。
ダストの俺はバンクに貯めてある石もほとんどない。
『ハッ、じゃあさっさとエーテル燃焼の練習でもする事だな。
テメェ、次の石の補給日までには真紅になってなかったら消し炭にするぞ』
「え……? そんなすぐ真紅になんて……」
『じゃあいつまでに真紅になるつもりだテメェは?』
「それは……」
『ハッ、これじゃあシニガミを倒す前に、真紅を目指して終わっちまうな』
思わず言葉に詰まる俺に、アルは畳み掛けるように告げた。
「ぐ……」
さっき、トールに言われたことと同じだ。
確かに期限を決めないといけないとは思うけど……
「でも、流石に真紅は……」
俺の言い訳にアルは即座に反応した。
『テメェ、そんなんでシニガミ倒せると思ってんのか?ああ!?
俺の燃焼器官使ってんだから、使えて当たり前だろうが!!』
ちょっ……熱ッ……!
アルが燃焼を開始して、背中が炙られている!
「わかった!わかったから……!」
俺は必死に服をバタバタと動かしながアルに叫ぶ。
『ハッ、ならさっさと練習しろ』
「くっ……」
シュー……という音ともに、背中の温度が下がっていくのを感じる。
うぅ……くそっ、また背中が焼けた。
服だってタダじゃないんだぞ……
アルはバカにしたようにニヤニヤとしている。
こいつ、ある意味トールより酷くないか……?
机に沈むように顔を乗せ、恨むようにアルを見ていると、そんな気がしてきた。
はあ、訓練に行くか……
俺は食べ終わった食器を返そうと、モソモソと起き上がり、準備を始めた。
----
疲れた……
アルとの訓練を終え、俺は足取り重く教育棟の廊下を歩いている。
結局、今日も真紅の力を使う事ができなかった。
アルは何度か俺に真紅の力を見せてそのまま寝てしまった。
流石に世界で三人しかいない真紅をすぐに使いこなすのは難しいと思うけど、進展がないのは気が晴れない。
「おうシュウヤ、ゆっくり休めたか?
……なんか疲れてんな?」
後ろからきたセドが、バシバシと肩を叩いてきた。
ちょうど業務が終わって、みんな戻ってきている時間だからな。
「うーん……まあ色々あって……」
「おいおい。明日は業務復帰だろ?
また同じ鉄道警備か?」
「いや、まだ見てないからわからないな」
「そうか、じゃあ掲示板見ていこうぜ!!
一応俺も鉄道警備は今日までの予定だったからな!」
大抵の情報は、教育棟1階の掲示板で周知される。
鉱脈探索の誘いの時みたいに、個別に呼び出しを受けることもあるが、あれは例外中の例外だ。
「やっぱり、バレッタさんカッコいいよなー。
エリカ様も活躍したのか?」
「うーん。どうだろう……」
歩きながらセドと鉱脈探索のことを話していると、人混みが見えてきた。
いつも掲示板付近は混雑しているけど、今日は一段と混んでいる。
「さてっ、次の配属は女の子が多いところかな?」
セドがウキウキしながら、人混みをかき分けて掲示板を覗き込む。
何人かが俺に気がつき、チラチラと視線を向けているのを感じる。
まあ、鉱脈探索から帰ったばかりだからな。
今度こそ生贄役で死ぬと思ってた人も多いのだろう。
気にせずに、俺もセドと同じく四期生の次期配属一覧を下から眺めていく。
成績上位ほど上から記載されるから、灰燼の俺はいつも一番下を見ればいい。
「明日からの任務は……グローリア鉱山の残党排除?
なんだコレ?」
先に自分の名前を見つけたセドの声が横から聞こえた。
グローリア鉱山の残党といえば、鉱脈探索の時ついでに排除して行ったところだな。
かなりエーテル燃焼体に遭遇して回数が多かったと思ったけど、まだ残っていたみたいだ。
「俺も同じ任務みたいだ。灰燼なのにエーテル燃焼体と戦う任務なんて珍しい気がするけどな」
「確かにそうだな……だけど今回は黒硫黄の下位も何人か参加するみたいだ」
セドが張り出されている参加者の一覧を見ながら首を傾げている。
普通こういうエーテル燃焼体と戦う任務は黒硫黄の中位以上が担当する印象だけど、なんか役割だあるんだろうか?
「げっ集合時間早いぞ……寝坊して石の配給量減らされるのは勘弁だ。
もし寝てたら起こしてくれよ!なあ!?」
「はいはい……わかったから!揺らすなよ!」
明日の早朝訓練はあんまり時間取れなそうだどこでやろうかな?
ガクガクと肩を揺らすセドを押し除けながら、俺は考える。
まあ、今考えてもしょうがないか。
セドが言うように明日も早いし、早く飯を食べようかな。
結局この日は、またセドに未踏領域でのバレッタさんやエリカの活躍を尋ねられながら、食堂で夕飯を取ることになった。




