第47話 イドラ草の採取
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休憩地点で怪我人の手当てをした後、俺たちは再び歩き出した。
「おら、テメェらその程度の怪我で苦しそうにしてんじゃねえ。さっさと進め」
メス先輩が、包帯を肩や足に包帯を巻いたネストを足蹴にして急かしている。
「そ、そんなこと言っても、足が痛くて……」
「あ? テメェら生贄も手当てしてやったんだ。文句ねえだろ」
この人、ほんと酷いな……
俺はこの人のことほとんど知らないが、さすがにこの人は、ただの嫌な奴な気がする。
コルドラは、メス先輩を信用していないのか無言で目も合わせようとしない。
だけど、コルドラの傷の処置もメス先輩が一応行ったようだ。
隣にいるバレッタさんは、変わらず無表情で淡々と進んでいた。
あれからバレッタさんと会話をしていない。
どこかで話をしたい気持ちもあるけど、この雰囲気だと無理だ……
「何だろう? この音は?」
ネストがふと口に出した。
「これは、たぶん水の音だ」
しかも、かなり大規模な。
俺も何度も聞いたからわかる。
「水? 川があるのかな?」
ネストは大きな荷物を背負い、息を荒くしながら答えた。
「これは……ちょうどいい。
ここを調査しよう」
立ち止まったエアハルトさんの言葉が、前方から聞こえてきた。
皆立ち止まって、前を見ている。
少し傾斜のついた斜面を進み、俺もエアハルトさん達の近くに進む。
『確かに調査するならここだろうな』
アルの言葉通り、ここはイドラ鉱石の鉱脈を調べるのに値しそうだ。
目の前には急な斜面。
降りることはできるが、ほとんど崖に近い。
その下には早い流れの川が見える。
巨大な渓谷だ。
対岸も深い岩肌の上に樹々が広がる密林が広がっているが、距離があるため緑の絨毯のように見える。
少なくとも、生身でここを渡るのは難しそうだ。
ゴツゴツした岩肌の地面が、急激な角度で底に流れる川へと続く。
これは……落ちないように気をつけないとな。
俺の本来の燃焼レベルだと、落ちたら致命的だ。
「鉱石が蓄積しやすい地形だ。
採取の準備しろ!」
エアハルトさんの声で、皆荷物を下ろして準備を始めた。
確かイドラ草とか呼ばれてる草を採取するんだったな。
赤い筋が入った草を、この岩肌の地面で探せばいいのか。
「周囲の警戒を行うチームと、採取を進めるチームで分ける。
僕とバレッタ、メスは周囲を警備。
あと……ヒツギ君も、出来るだけバレッタの近くで採取をしてくれ」
「おら、お前ら!! このために来たんだ。
俺より数が少なかったやつは絞め殺すぞ!!
まあ、全員無理だろうがな。グハハ!!」
ボル先輩が、豪快に笑いながら皆を焚き付けた。
というか、この人はなんでそんなことに自信があるんだ……
皆で岩肌の斜面を降りながら、足元を探る。
岩の継ぎ目をよく見ると、意外にたくさんの草が生えているな。
イドラ草は何処にでも生えているが、そんなに大量に生えているわけでもない。
これは時間がかかりそうだ。
「おら、生贄共!!
もしイドラ草から鉱脈が発見されたら、一生石に困ることがないぞ!!
気合い入れろゴラアアア!!」
ボル先輩が拳を突き上げながら一人声をあげた。
声でかいな……
『なかなか有能じゃねえか。あの筋肉』
アルが楽しそうにボル先輩を見ている。
最近わかってきたけど、コイツは馬鹿っぽい人が好きなのか?
セドのことも気に入っていたし……
「……クソッ、あの人声デカすぎだろ。
エーテル燃焼体に見つかったらどうすんだよ」
コルドラが足元を探しながらボソリと呟いた。
「でも事実だ。僕たちは一発逆転をするためにここへ来たんだ」
ネストも答えながら、黙々と草を探している。
確かに皆のやる気を出す意味では、あの人意外に有能?なのかもしれない。
皆で足元を探しながら、斜面を下り続ける。
俺のすぐ後ろにはバレッタさんがついてきている。
相変わらず、無言がなんとなく気まずいな……
気がつくと、俺たちは川の近くまで来ていた。
足元は土と石が混じっており、所々に植物が生えている。
危険なエーテル燃焼体がいる可能性があるから、川には近づきたくないけど仕方がない。
「お、おい……あれっ!!」
少し前方にいたコルドラが、遥か上空を指差す。
かなり距離があるが、上空をエーテル燃焼体か滑空している。
白金色の光が尾を引いて飛ぶ姿は綺麗だけど、おそらく白金Ⅴは超えている。
とても小さく見えるけど、たぶんかなりの大きさだな。
あれほどの大きさなら、こっちは眼中にない可能性が高いが、襲われたら壊滅する危険もある。
「お前らビビってんじゃねえ!!
まだ距離がある。早めに草を回収して、撤退するぞ!!」
ボル先輩がコルドラの頭を叩きながら、声を上げた。
皆焦ったように、イドラ草を探す。
……あった!
俺も足元に見つけた、イドラ草を根本から抜き、土がついたまま袋に入れる。
ふう……これで最低限の役割は果たしたかな。
皆もほとんどが回収できたようだ。
「皆、回収はできたか?
問題なければ一旦上にあがるぞ」
エアハルトさんが声を出し、状況を確認する。
「あいつ、いなくなったみたいだ。助かった……」
コルドラが上空を見渡しながら呟く。
『おめでたい奴だ。
天敵が消えたら、別の奴が来るぞ』
アルが呆れたように吐き捨てた。
「……確かにここは見通しが良すぎるから急がないと」
アルに答えながら俺も撤退の準備を進める。
バレッタさんやボル先輩も理解しているのか、急いでいる。
っ!!
渓谷の下流側から、白金を含むエーテル燃焼の気配を感じた。
これは……速い!!
「下流から、エーテル燃焼体の群れが来ます!!」
思わず俺は声を張り上げた。




