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第46話 バレッタという人物


「連射っ!? 特化燃焼か!?」


 銃声に思わず耳を塞ぎながら、思わず声に出していた。


 銀色の弾丸が周囲を明るく照らした。


 高速で飛行する白金パールレベルのエーテル燃焼体を次々と叩き落とす。


 数十体以上いたはずのエーテル燃焼体が、次々と姿を消していく。


 逃げ遅れたネストとコルドラが夢中でこちらに撤退してくる。


 連射が……途切れない!!


 銃弾へのエーテル付与は難しい。

 銃を扱う人でも、普通は単発への付与が限界で、飛距離の制限があることが常識だ。


 俺が徴用校に入学してから受けた、エーテル付与の授業でも、銃弾に付与ができる教官が手本を見せてくれた。

 その時の教官は、黒硫黄サルファ上位のエネルギーを数発弾丸に付与しただけだが、皆尊敬の眼差しで見つめたものだ。


 だけど、この人は!

 白金パールでこれだけのエネルギーを連射している。

 こんなことが可能なのか!?


 周囲の音が聞こえなくなるほどの射撃音と共に、白金色の光の筋が周囲を飛び交う。


 逃げ遅れたコルドラが足を引きずりながらも、俺たちを通り過ぎて少ししたところで、バレッタさんが連射を止めた。


「ハァッ…クッ…ハァッ……ッ」


 周囲には、血塗れの樹々や地面、銃弾に引き裂かれ転がったエーテル燃焼体が散らばっていた。


 バレッタさんの苦しそうに吐く息だけが、周囲に響いている。


 俺は……バレッタさんに声をかけられなかった。


 息を荒くして、汗だくになり、カチカチと震える指が引き金に当たっている。


 あんなに冷たかったのに、灰塵ダスト達を守った……?

 こんなに必死になって……

 白金パールなのに……なぜ?


 わからない……

 この人のことがわからない。


「ッ……ハァッ……ッ見るな……!」


 俺がバレッタさんを凝視し続けていると、苦しそうに息を吐きながら告げられた。


「えっ……」


 目に入りそうな汗を拭いながら、俺を睨みつけるその視線に、思わず戸惑う。


 俺が戸惑っていると、バレッタさんは舌打ちとと共に、ザッと上着をはだけて熱を逃した。


「……ッ!」


 俺は、慌てて目線を逸らす。


「ッ……ハァッ……ハァッ……クソッ……」


 バレッタさんの息の音だけが、聞こえる。


「何で、斥候役の灰塵ダスト達まで助けたんですか?

 一歩間違えば、バレッタさんも危なかったと思います。早めに離脱すれば……」


「ッ……勘違いするな。

 生贄を、また使えるようにしただけだ」


 俺には目を向けず、淡々と告げる。


「あと、この事は……誰にも言うな」


 バレッタさんが小さい声で吐き捨てる。

 

 ただの冷たい人だと思ってた。

 でも、これは……


「バレッタ!! 

 ありがとう!助かったよ」


 背後から近づいてきたエアハルトさんが声を上げた。


 えっ?この人、バレッタさんを置いて行ったのか?


「背後に拠点を作った。

 怪我人も多い。そこで一旦状況を確認しよう」


 いや……こっちはバレッタさんに任せたのか。

 エアハルトさんが見捨てたのかと思って一瞬驚いた。


「……私は問題ない」


 バレッタさんが素っ気ない返事を返して立ち上がる。


 そして一人、皆が集まっていると思われる方向に歩いて行った。


「生贄をまた使えるようにする」


「……えっ?」


「バレッタはそんなことを言ったんじゃないか?」


 俺がバレッタさんの後ろ姿を見ていると、エアハルトさんが不意に声をかけてきた。


 まさにバレッタさんが言ったことだ。


「はい。そう言ってました。

 でも……」


「本心とは思えないだろ?」


「はい……」


 さすがに俺でも、それが本音でない事はわかった。

 


 だけど……俺がアルと出会う前だったら、特に気にしようとは思わなかったかもしれない。


 だからなのかわからないが、この変化は俺にとっても重要なことである気がした。


 まあ、どういう考えなのかと聞かれるとわからないけど。


「ああいうやつなんだ。

 優秀で、本当は誰よりも優しい」


 優しい?

 そうなのか? 

 確かにほかの人を助けてはいるが……


「でも、バレッタも全ての人を助けられるわけじゃない。

 中には恨みを向けて死んでいった人たちもいる」


「恨み?」


「ああ。エーテル燃焼レベルが低いから、俺たちを見捨てたのか。なんで俺たちを後回しにしたのか。という感じでね」


 何だそれは!

 いや……でも、未踏領域に放り込まれる前の俺なら、同じことを思うかもしれないな。


 ! そういえば、円卓で最初に会ったとき、俺の優先度は低いから、期待するなと言っていた気がする。


「それからだ。バレッタが笑わなくなったのは。

 そして、ひたすら訓練をつづけてあれだけの特化燃焼を手に入れたが、今でも心は閉ざしたまま……」


「……すみません。ただの冷たい人なのかと思ってました」


 そうだよな、という感じで、エアハルトさんは苦笑しながら続けた。


「昔はよく笑ったんだ」


 エアハルトさんが、表情を歪めて呟く。

 

 正直バレッタさんの笑顔なんて想像できない。

 でも、エアハルトさんが言うなら、本当なんだろうな。


「俺が教えたってことは言うなよ?

 バレッタに殺されちゃうから」


 エアハルトさんが少し笑いながら言った。


 そして、皆がいる方向に歩き出す。


「あ……なんで灰塵ダストの俺にそんなことを教えてくれるんですか?」


 思わず、気になって聞いてしまった。


「なんとなく……君が重要な何かを起こすんじゃないかと言う気がするんだ」


 少し寂しそうな表情でエアハルトさんが続ける。


「勘だよ。俺の勘はよく当たるんだ」


 そう言って、そのまま戻っていった。

 相変わらず、俺にも優しいとか人格者すぎるな。


「俺、あの人のこと全然知らなかったんだな……」


『当たりめーだろ。テメェの想像なんてたかが知れてる』


 そういえば、アルはバレッタさんを初めて見たときから、よく見ろと言っていた。


「アルは……最初からバレッタさんが何かを背負ってるってわかっていたのか?」


『あ? わかるわけねーだろ。

 ただテメェより余裕があって、色んな奴を見てきただけだ。

 間違うことも……普通にある』


 アルの言葉に少し納得した。

 今バレッタさんのことを考えられるのはアルに出会って余裕ができたからだと思う。


「俺は灰塵ダストで、伝統に選ばれないことしか考えてなかったから、あまり他の人を見てなかったなかもな」


 いつも馬鹿にされるから、コソコソと逃げ回っていた。

 ムカつくが、昨日の夜エリカに言われた通りだ。


 セドやエリカも、俺が知らない過去や悩んでいることがあるんだろうな。


 何となくだけど、それはこれから知っていく必要があることに思えた。


 そろそろ戻らないと……

 そんなことを考えながら、俺も皆が待機している拠点に引き返した。


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