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第43話 バレた能力

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「よし、ここで少し休憩する」


 ネストを斥候に使ってからしばらく歩き続けた後、エアハルトさんが声を上げた。


 皆安堵の表情で荷物を置き、座り込む。


 たけど俺は少し不安になった。


 ここは見通しが良くない。


 起伏のある地形と太い樹々で、周囲の見渡しができない場所だ。


 ここでエーテル燃焼生物に奇襲を受けたら、対応が遅れる可能性がある。


 いつもはもっと見通しのいい場所で休むのに、皆の体力を優先させたのか?


 さっそく、正面からエーテル燃焼体が数体向かってきているけど……


 ボルボ先輩をチラッと見てみると、まだ気がついていないのか、刀剣を下ろして血を拭っていた。


 エアハルトさんとバレッタさんは……後ろの方で話し合っている。


 これはやばい……


 エーテル燃焼体が加速するのを感じた。

 よりによって、高速で襲撃してくるタイプだ。


 助ける義理はないけど……

 アルの力を明かすつもりはないが、死なせてしまったら罪悪感があると思う。


 俺は足早にボルボ先輩に近づく。

 っダメか、間に合わない……!


「ボル!正面!!」


 思わず、俺は叫んだ。


 叫んだ直後、ボルボ先輩は振り返りながら刀剣を振るう。


 突っ込んできた黒硫黄サルファレベルのエーテル燃焼体が、切り裂かれて血飛沫を上げながら倒れ込む。


 続けてバレッタさんが残りを白金色の粒子を纏った弾丸で駆除した。


 ……あれ?

 対応早くないか……?


 さっきまでエアハルトさんと話していたと思ったが、もう銃を構えて対応するなんて……


 ボルボ先輩は、ニヤリとした笑みを浮かべて俺に近づいてきた。


「お前、ただのダストじゃねえだろ?」


 そして、馴れ馴れしく俺に肩を回しながらぼそっと告げた。


「それに、俺のことをボルと呼びやがったな」


 ボルボ先輩は、そのまま俺の首を絞めてくる。


 ちょっく、苦しい……


「っ!いや、間に合わないと思ったから……」


 俺が必死に太い腕を剥がそうとしている様子を見て、エアハルトさんが苦笑しながら近づいてきた。


「まあいいじゃないか、ちゃんと教えてくれたんだから」


「仕方ねえ。ボル先輩となら呼ばせてやる!」


 そう言って、笑いながらバシバシと俺の頭を叩くボル先輩。


 普通に痛いんだが……


「さて……」


 エアハルトさんが俺に向き直る。


「離れていても、エーテル燃焼の気配を察知できるんだな?」


 この位置からは、光が見えたとは言えない。


 バレッタさんも、腕を組んでこちらを見ている。

 この人、多分察知してたな……


 これは図られたみたいだ。


「今までも、もっと早く察知できていただろう。

 なぜ言わない?」


 エアハルトさんが続けて俺に尋ねる。


「…………えーと」


 何て答えるべきか、迷う。


 遠距離の気配察知ができることは、隠さなくて良いはずだ。

 

 だけどなぜ今まで言わなかったのかと問い詰められると苦しい……


 俺が答えに困っていると、ふっとエアハルトさんが笑った。


「でも、ボルや他の隊員を見捨てなかった。

 何か理由があるんだろう」


 エアハルトさんはそう言って、俺の肩に手を置いた。


「可能なら、バレッタと一緒に後方で索敵の支援をしてほしい。どうだろうか?」


「それは……」


 もっと問い詰められるかと思ったが、あっさりしてるな……

 意外な提案に、思わず言葉に詰まってしまった。


「他の皆には、斥候役としてバレッタの身代わりにするとでも言っておこう」


「……はい、それでお願いします」


 特に断る理由もなかったので、エアハルトさんの提案に頷く。


 後ろの方が自由に動けるし、いざとなったら逸れて離脱することもできそうだ。


 これでいいよな?


 さっきは図られたことに気が付かなかったけど、別に悪い方向ではない気がする。


 何も言ってこないアルの方を見るが、呆れた様子で視線を向けられた。


『普通、気がつくがな』


 ……そうなのか?


 確かに今思うと、見通しの悪い場所で休んだり、誰も警戒せずに話していたりするのはおかしい。


 でも、俺の察知能力を探っていたなんて考えてなかった。


「というか、気がついてたなら教えてくれよ!」


『……クソガキが。テメェのアホさ加減を俺のせいにすんじゃねえ。

 自己責任上等なんだろうが』


「いや、それは流石に関係ないだろ……」


 コイツ、俺が聞かないと言わない気か?


 いや……今まで本当に危ない時は、アルの注意があった。

 今回は別に問題ないと判断したのか?


『それよりテメェ、あのスナイパー姉ちゃんと組むなら、話を聞いておけ』


 アルの言葉でバレッタさんを見る。

 腕を組んで、静かに立っている。


 休憩中だけど、相変わらず風格があるな。

 かっこいいけど冷たくて、話しかけづらい。


「そろそろ出発する。皆準備しろ!」


 エアハルトさんが声を出して、休憩の終わりを告げる。


「配置の変更をする。ヒツギ君は、最後尾でバレッタと組んでくれ。

 今後は背後から襲撃されることも増える。

 斥候役として、バレッタの近くにいてくれ」


 予定通り、エアハルトさんが配置の変更を皆に告げる。


「テメェにはお似合いだ。一瞬だけでも、肉の盾になれよ」


 メスが俺を嘲り笑って横を通り過ぎる。

 ……この人、ほんと性格悪いな。


 いや、エアハルトさんが灰塵ダストの俺を差別しないから感覚がズレたけど、これが普通か。


 俺や他の斥候役が怪我しても、まともに手当してくれないだろうな。


 俺は最後尾のバレッタさんの隣で、皆が歩き出すのを待つ。


「じゃあ、頼むぞ」


 エアハルトさんが、真面目な表情でこちらを見て、一言告げてから前方に向かった。


 バレッタさんが頷く。


 まあ、バレッタさんがいれば、問題ないと思うけど、気配察知だけは期待されてるかもしれないから一応頑張るか。


『ハッ、気づかねえか……』


 ん? アルがぼそっと呟いたが、意味がわからない。


 聞き返そうとしたが、バレッタさんもすでに進み始めていることに気がつき、慌てて追いかけた。



----


 バレッタさんと最後尾についてかなり時間が経つが、まだ会話がひと言もない。


 なぜかヒリヒリとした空気が漂う。


 別にエリカみたいに怒っているわけではないだろうけど、この人の周りは空気が緊張するんだよな……


 俺はチラッとバレッタさんの方を見たが、視線も合わせてくれない。


 ……これ、気まずすぎないか?


 なんて話しかければいいんだろう?


 どうせ何も言ってくれないと思いつつも、アルに助けを求める視線を向けた。


『あ? テメェが聞きたいことを聞けばいいだろうが』


 アルにしては珍しく助言をくれた。


 俺が聞きたいこと?

 そうだな……


「……何のようだ。気が散る」


 バレッタさんを見ながら聞きたいことを考えていると、めんどくさそうに舌打ちをされた。


「あっ、え、えーと……」


 しまった、ジロジロ見すぎた。


「な、なんで冷たいんですか?」


『ぶっ!!』


 アルが吹き出す音が聞こえるが、空気が凍ったことを肌で感じた。


 あー……クソッ何で焦ると俺は変なこと言っちゃうんだ!?


 やばい。怖くてバレッタさんの目が見れない……


 恐る恐る視線を上げると、バレッタさんは何も言わずに先に進んで行っていた。


 完全無視か……

 最初から気まずくしてしまった。


「ネストへの対応でも思ったけど、この人冷たいよな……」


『テメェがアホなこと聞くからだろ』


「いや、そうだけどさ!」


 確かに、焦ってめちゃくちゃ失礼な質問をしてしまったからな。

 どこかで謝りたいけど、無理かもしれない……


 

 そんなことを考えながら進んでいるうちに、エーテル燃焼の気配を感じた。


 急激に距離を詰めて来ている黒硫黄サルファレベルのエーテル燃焼体がいる。


 このままだと、左側面から襲撃されるが……


 俺はバレッタさんの方に顔を向ける。

 バレッタさんは察知しているのか?


「……何だ」


「いや、えーと左側から……」


 俺が告げると、バレッタさんは怪訝な顔をしたが、少ししてハッとしたように銃を構えた。


 今気がついた?

 やっぱり、察知能力は俺の方がかなり上だ。


 とはいえ、この距離で察知できる人は貴重だと思う。


 バレッタさんは、真面目な表情で照準器に視線を固定している。


 長い髪とクールな横顔が似合う。

 ほんとかっこいいなこの人。



「エア! 左は私がやる」


 バレッタさんが声を上げ、前方のエアハルトさんに告げた。


 黄色い光が左側から突っ込んでくるのが見える。

 樹々の隙間を縫うように走るその姿はまるで光の筋のようだ。

 次の瞬間、その光を断ち切るように、白金色の弾丸が数発走った。


 グギャ……と、うめくような断末魔を上げ、四つ脚で駆けてきたエーテル燃焼体の体が傾く。


 頭に数発の弾丸が直撃し、そのまま血飛沫を上げて樹々の間に倒れ込んだ。


「おお……」


 襲撃に気がついたコルドラ達が、驚いた声を上げる。

 今回は襲撃のかなり手前で倒すことができた。


「お前……」


 銃を下ろしたバレッタさんが、顔をこちらに向け呟いた。


 明らかに俺の方が早く察知したからな。

 多分、それが気になるのだろう。


 ……なんか言われるかな?

 警戒したが、結局それ以上バレッタさんは何も言わず、俺も日が暮れるまで黙々と歩き続けた。


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