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第39話 特化燃焼

 チラッとアルの方を見るが、何も言わない。

 ということは、大丈夫ってことか?


 いや、でも白金パールⅢレベルの気がするから、ちょっとやばいかもしれない……

 上空だから、気にせず通過する可能性もあるけど……


「上……なんかキラキラした光見えませんでした?」


 とりあえず、それとなく声を上げてみた。


「あ? なんだと? クソッ、マジかよ……」


 後ろにいたメス先輩が、悪態をついた。


「うえ? 何も見えないけど……」


 ネストはまだ気がついていなようだ。

 他の白金パールの同期三人も上を見て視線を惑わせている。


「……このまま通り過ぎてくれればいいんだけどなぁ」


 エアハルトさんは、うんざりした様子だ。

 何だか余裕だな……白金パールレベルのエーテル燃焼体のはずだが。


「……そんなうまくは行かないかっ!

 皆、中央に固まれ!! ボル!!」


 エアハルトさんが声を上げると、周囲が一気に暗くなる。

 そして次の瞬間、視界の全てがキラキラと光る白金色の粒子と、茶色い壁に覆いつくされた。

 何かが叩きつけられるような衝撃波が周囲に広がる。


「ウッ……グオオオオォォッ!!」


 ボルボ先輩が歯を食いしばるような呻き声を上げながら、巨大な刀剣で上から覆い被さる何かを防いでいた。


「クッ……」


 フエゴとメイソンが、我に帰って覆い被さる何かを斬り付けた。

 だが、少し切り傷がついただけで全く影響を与えることができていない。


「グ……オラァァッッ!!」


 ボルボ先輩が声を出して、その壁を上空に押し返した。

 ふっ……と、周囲を覆っていた影が消える。

 そのキラキラとした粒子を纏った茶色い壁、白金パールレベルのエーテル燃焼体は、上空を優雅に滑空する。


 あっぶねぇぇぇ!!


 何とかボルボ先輩が防いだ……


 俺が何とかすべきか迷って、エアハルトさんの様子を見ていたが、ギリギリまで判断ができなかった。


 ボルボ先輩だけで対処できたが、俺が力を使えば右胸の燃焼器官の存在がバレることになる。

 その判断がつかなかった。


 上空には俺たち全員を覆うことができるほどの翼を持った、巨大なエーテル燃焼体が円を描くように滑空していた。

 毛のない二つの翼と、ギョロギョロとした目が目立つ、キメラ型のエーテル燃焼体が全部で……五体!

 そのうち、さっき奇襲をかけてきた一体は白金パールレベルだ。


「っおそらく白金パールⅢ以上です!

 全滅のリスクを考えると、分散しての撤退を進言します!!」


 メイソンが慌てた様子でエアハルトさんに向けて告げる。

 剣を構え上に意識を向けたまま、指示を待っている。


「ぶ、分散……!?」


 慌てた様子でコルドラが反応した。

 ここで分散して退却すれば、おそらく犠牲になるのは斥候役の灰塵ダスト達だ。


 どうする!?

 周囲を見渡すと、エリカやフエゴ、新人達が浮き足立つ中で先輩達は冷静だった。


「落ち着け。……ボル、バレッタ、周辺の警戒を頼む」


 エアハルトさんが声をかけると、二人は静かに頷く。

 

 先輩達は、この状況でも冷静だった。

 バレッタさんにいたっては、腕を組んだままだ。


「ふう……」


 エアハルトさんが目を閉じる。

 同時に、エーテル燃焼の気配が跳ね上がった。


 これは……


『特化燃焼か』


 アルが口角を上げて呟いた。


 と、同時にエアハルトさんが目を開け、腰に構えていた刀剣を目にも止まらぬ速さで振り抜いた。


 振り抜いた剣先が白金色の粒子を伴い、一瞬遥か先まで届いたかのような錯覚を受ける。


「ウォッ……!」


 周囲に放たれたエーテル燃焼エネルギーの余波を受け、コルドラ達が必死に踏みとどまる。


 次の瞬間、剣先の軌道上にあった遥か上空の樹の幹、大量の枝、滑空していたエーテル燃焼体の順で、白金色の粒子を吹き出していた。


 上空のエーテル燃焼体が、全て体を半分に切断され、大量の血飛沫を上げながら周囲に落ちていく。


 ……切断された? この距離から!?

 さっきのは錯覚ではないのか!?


 周囲にエーテル燃焼体が落ちる轟音と、切断された樹の幹が上空から滑り落ちた音が響き渡る。


「こ、この距離から切断……?

 あの燃焼強度で?」


 エリカが信じられないといった表情で呟く。


 白金パールの先輩達以外は、呆然とエアハルトさんを見ていた。


 白金パール三人に匹敵すると思われるエーテル燃焼体を含めて、五体を瞬殺……


 しかも、フエゴやメイソンが傷を負わせることができなかった白金パールレベルを真っ二つにできるとは……


これが、真紅ルビーに最も近いと言われる男か


「特化燃焼……初めて見た……」


 ネストが呆然と呟く。


 エーテル燃焼レベルに関係なく、飛び抜けた能力を持った燃焼を特化燃焼と呼ぶ。

 確かに、これは白金パールでも真似できなそうだ。

 アルの"零秒点火"は知っていたが、それ以外で見るのは初めてだな。


「これが、俺たちの隊長の特化燃焼だ。

 最大圧力フルペネトレーションを使った切断力と遠距離への攻撃を兼ね備えた力、恐れ入ったか!グハハ!!」


 なぜかボルボ先輩が自慢げにフエゴ達三人に告げた。


「ッ……クソが」


 フエゴが今日だけで何度聞いたかわからない苦しそうな声を出す。


 俺はアルの圧倒的な力を知っているから、まだ驚くだけで済むけど、他の白金パールのメンバーはあまりの差にショックを受けたかもしれない。

 フエゴとか、プライドが高そうだけど大丈夫だろうか?


『ハッ、あれを見てまだ悔しがれるのは期待できるな』


「そうなのか?」


 アルがニヤついて告げたが、そういうものなのか?

 俺には全然判断がつかないけど。


「分かっただろう? これが未踏領域だ。

 今回は倒せたが、このレベルの襲撃が頻繁に起こる。気を抜かずに警戒しろ」


 エアハルトさんの言葉に皆頷くしかない。


 だけど、斥候役のネストやコルドラが達もあまり悲観した表情じゃなさそうだ。

 さっきのエアハルトさんの力を見て、安心したのかもしれない。


「あと、ヒツギ君よく気がついてくれた。

 助かったよ」


 エアハルトさんの言葉に、白金パールの新人、三人が悔しそうな顔をする。


 なんか恨まれても困るけど、成果は示しておかないと、帰ってから石が確保できないからな。


 俺たちは再び隊列を組んで歩き出した。


 それから、何度か襲撃を受けるが、ボルボ先輩やメス先輩が対応して進むことができた。


「……左側! 黒硫黄サルファ三体、同時に来ます!」


 俺は、時々光が見えたと言って、正面以外から襲ってくるエーテル燃焼体の位置を伝えている。


 俺の言葉にエアハルトさんとフエゴが反応して構える。

 そして突っ込んできた獣型のエーテル燃焼体をあっさりと駆除した。


 フエゴもついに一体、黒硫黄サルファレベルのエーテル燃焼体の襲撃を防いだ。


 同期で一位なだけはある。


 まさか最下位の俺と行動することになるとは思わなかっただろうけど……


「さすが!逃げ足だけは速いじゃねえか!!」


 先頭のボルボ先輩が上機嫌で笑っている。


 これは馬鹿にされているのか、褒められているのかどっちだろう?

 

 逆にフエゴやエリカには、時々挑むような視線を向けられるようになった。


 自分より先にエーテル燃焼体を察知している俺の存在が悔しいらしい。


 なんかいい気分だ。

 癖になりそうな快感だぞ。


『テメェ、調子に乗ってんじゃねえぞ』

 

……何で一瞬でわかるんだよ。コイツは。


 でも、調子に乗ってアルの力がバレないように気をつけないとな。


 そんなことを考えながら進んでいると、次第に日が沈み始めた。


 --今回の未踏領域で、初めての夜が来る



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