第35話 生贄のダスト達
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エーテル結晶のエネルギーを利用して走る車両の音が、変わらずに聞こえ続けている。
徴用校を出発してからしばらく経つが、荷台の上のメンバーは皆無言だった。
ここにいるのは所謂生贄役の斥候組だ。
俺を合わせて四人が今回参加する。
一人だけ、黒硫黄のチャージリングを首につけているが、俺を含めた三人は灰燼だった。
円卓で顔を合わせた白金レベルの人達は、皆別の車両で出発したようだ。
さっきまで声を張り上げていたボルボ先輩は、当然荷台ではなく、中の座席に座っているので、ここから姿は見えない。
「…………なあ、お前は伝統で未踏領域に入ったんだよな?」
俺の向かい側に座っている男が、不意に声をかけて来た。
俺よりは歳が上に見える。
多分、徴用期間の五年目か六年目の先輩だろう。
少し心配になるくらい痩せているが、大丈夫だろうか?
「どうって言われても……」
「俺は普段は鉱山で働いてる。
毎日、この少ない量の石を得るために、もう二年以上スコップを動かしているな」
目の前に出された両手はボロボロで、豆や傷がたくさん見える。
二年でこんなに手が傷つくのか……
「お前はまだ実感が湧かないかもしれないが、毎日年下の黒硫黄や、白金の命令に従いながら働いていると、何のために生きているのか分からなくなってくるんだ。
毎日これが続くのか? いつまでだ? ああ、死ぬまで続くのか……ってな」
俺は何も言えなかった。
同じ灰塵として、その光景が鮮明にイメージできてしまったからだ。
「この生活が死ぬまで続くなら、一発逆転の可能性に賭けたい。
囮としてでも役に立って生き残れれば、しばらく困らないだけの石が支給されると聞いた。
それで生き残ったら、自分で商売でもしてみようかと思う」
ささやかな願いだ。
灰塵は商売も差別されるから難しいと思うけど、石が確保できるなら安心感が違うだろう。
「俺はコルドラって名前だ。
なあ……あんたは噂のヒツギ・シュウヤなんだろ?
どうすれば未踏領域で生き残れるのか、教えてくれ」
皆の視線が俺に向く。
思わず唾を飲み込んだ。
今の生活から抜け出したいと言う思いが痛いほど伝わって来た。
その生き残りたいという強い思いに気押される。
「それは……」
アルの力で生き残ったとは言えない。
だけど、いい加減な答えもできない。
俺が悩んでいると、コルドラという男は続けた。
「隣にいるソルトも同じだ。
さっき話を聞いたが、ここにいるのは似たような境遇の奴ばかりだ」
コルドラと同じで、痩せて青い顔をしていた男が頷いた。
手を見ると、コルドラと同じでぼろぼろの手をしていた。
小刻みに手が震えているのは、緊張のせいだろう。
「あんたは、灰塵ではないみたいだな」
コルドラは、俺の隣に座っている黄色いチャージリングをつけた男に声をかけた。
俺も少し気になっていた。
荷台に乗っている四人のなかで唯一、黒硫黄レベルなのがその男だ。
俺と同じくらいの年齢に見える。
覚えていないけど、同期かもしれない。
小柄で黒い髪の、大人しそうな雰囲気の男だった。
「……僕は隣国のレシムから派遣されているから、みんなより配給が少ないんだ」
その男は、視線を上げて話し出した。
「レシム共和国か……最近多いよな。
ほとんどの人は貿易関係の仕事をしているって聞いたけど」
コルドラが言う通り、確かに最近よくレシムから来ている人の姿を目にする。
鉄道警備の業務でも何人か目にした。
「そうなんだけど、イドラ鉱石のレートが上がってるからね。
協力という名目で、大国に滞在させてもらう人の割合も増えてるんだ」
「でも、何でこんな危険な任務に参加したんだ?」
「僕は黒硫黄の最下位付近だから、もっと協力姿勢を示すように指示が来てしまって……
鉱山で働いたとしても、国の両親に仕送りなんてほとんどできない。
だから……少しでも可能性があるこの任務に賭けたんだ」
「あんた、名前は?」
「ネストだ。好きに呼んでくれ」
「そうか……黒硫黄になっても、苦労してるんだな。
その状況でも家族のことを考えるなんてすごいな、あんた」
俺が感じたことを、コルドラがそのまま言ってくれた。
俺は大国のアリナゼルに生まれたから、まだ恵まれていたのかもしれないな……
コルドラは真面目な表情で俺に向き直った。
「俺たちは、皆この任務に人生を賭けているんだ。
だから……虫のいい話かもしれないが、どうすれば未踏領域で生き残れるのか教えてくれ。
俺たちも可能な限り協力する」
皆の視線が再び俺に集中する。
決意を聞いてしまったから、余計にいい加減なことが言えなくなってしまった。
とはいえ、アルに助けてもらったと答えることはできない。それが少しだけ心苦しい……
「ずっと隠れてたから、参考になるかはわからないけど……」
俺は言葉を選んで、ゆっくりと話し出す。
皆が真剣な眼差しで俺の言葉に耳を傾けているのを感じた。
「エーテル燃焼の気配を察知する能力は、役に立つと思う」
「……気配? どうすれば分かるようになるんだ?」
「毎日、ほぼ全ての時間、ひたすら気配を探るしかない。
エーテル燃焼を行うと、微妙に大気中のエーテルの流れが変わるから」
「……分かった。他には?」
「……悪いけど、運が全てだ」
俺も、アルに出会わなけば確実に死んでいるから
これが言えることの全てだった。
「運……か。
斥候役の死亡率は7割を超えるって聞いてる。
俺たちのうち、生き残るのはせいぜい一人くらいかもな」
コルドラの言葉で、皆再び無言になった。




