第34話 2度目の鉱脈探索へ
俺は目を閉じ、左胸の燃焼器官でエーテル燃焼を開始する。
右胸でやる時とは違い、出力が上がらず次第に力が落ちてきた。
そのタイミングで、小刻みに出力を上げてみる。
だが、一瞬弱々しい灰色の光が出ただけで、すぐに燃焼が止まってしまった。
「……ふう。このパターンもダメか」
毎朝のアルとの訓練、数日前から左胸での燃焼も試すようになった。
アルが見たと言う、黒いエネルギーの出し方を探るためだ。
普通はやらない色々なパターンでエーテル燃焼を試しているが、今のところ進捗がない。
「やっぱり、そんなすぐには上手くいかないか……」
『当たり前だ。そんな簡単ならシニガミなんてとっくに倒されてる』
「だよな……」
この数日間、かなりのパターンで試してみたが、上手くはいかなかった。
本当にアルが見た黒いエネルギーなんて出せるんだろうか……?
「そろそろ時間だな。戻ろうか」
俺はアルに声をかけて、徴用校に向けて歩き出す。
今日は未踏領域での鉱脈探索の出発日だ。
少し早めに戻る必要がある。
まさかこんな日にも普通に訓練しているとは思わなかったけど、もう習慣になっているからそんなに苦しくはないな。
「ずっと皆と行動しながら、力を隠し続けるのは難しいよな。
どこかで離脱して、アルが見たというエネルギーを使うエーテル燃焼体を探せたらいいんだけど……」
未踏領域での立ち回り方について、アルに相談をする。
正直、かなり不安だ。
セドのような仲間もいない。
『テメェはまだ真紅の力が使いこなせねえだろ。奥地に行っても死ぬだけだ。
今の主力がどんな奴らか分かればいい』
アルが期待していないという態度で淡々と告げた。
「それは分かってるけど、適当なところではぐれて帰るだけじゃな……」
『テメェがさっさと真紅を使えるようになんねーからだろ! なんとかしろこの雑魚が!』
「無茶言うなよ……」
アルは相変わらず厳しいが、正論だった。
俺はアルの力を使えるとはいえ、自力では白金レベルまで。
真紅の力を使うにはアルの協力が必要になる。
アルが力を使いすぎると、その後寝てしまう時間が発生するため、未踏領域の奥地では致命的だ。
自力で生き残れるのは浅いエリアが限界に感じる。
早く自力で真紅の力を使えるようになる必要があるけど、まだ時間がかかりそうだ。
上手く立ち回れればいいけど、もうやれる事をやるしかないな。
そんな事を考えながら、俺は毎朝の慣れた帰り道を通って、徴用校まで戻った。
----
「お前ら!!荷物をもう一度確認しろ!
積み忘れがないようにしろよ!」
教育棟の目の前に止まる軍用車両の近くで、最後の積荷の確認を行う。
俺は今まで会ったことがなかった灰塵と、黒硫黄のメンバーと共に、慌ただしく走り回っていた。
今回斥候役で志願したエーテル燃焼レベルが低い人たちだ。
所謂、生贄役だが、もし生き残れば多くの見返りが期待できる。
「リストの上から全員でチェックしろ!!
お前ら、死にたくなかったら黙って俺の指示に従え。何人かは生き残れるかもな!!」
円卓の部屋で会った、ガタイがいい白金レベルの先輩が声を張り上げている。
確か名前はボルボ先輩だったはずだ。
適当な性格かと思っていたが、意外としっかり指示をしている。
「あれが今回の生贄達か。なんかもう必死だよな」
「人生を賭けてるんだから、そりゃそうだろ。
努力してこなかった奴らは大変だな」
トールとその仲間達、他に何人もの徴用生が、俺たちを遠巻きに眺めていた。
業務に行く前に、冷やかしに来たみたいだ。
性格が悪い奴らだな。
「あいつ、シニガミを倒すとか言いやがった例の灰塵だな。運良く伝統を生き残って勘違いしちゃった可哀想な奴だろ?」
俺のことを指差して話をしている奴もいる。
せめて聞こえないように言えよ。
と思うが、わざと聞こえるように言ってるんだろうな。
俺は黙々と車両の荷台に荷物を詰め込む。
途中までは、軍用の車両を利用して進む予定と聞いていたからだ。
「おう、シュウヤ! いよいよだな!」
セドが手を上げ、俺に近づいて来た。
周りの視線を集めるが、相変わらず気にせずに向かってくる。
「見送り? 別にいいのに」
周りの灰塵達からチラチラと視線を感じる。
セドが近寄ってきたことに戸惑っているようだ。
「まあ俺もいつもの警備業務に行くところだしな。
それより分かってるか?」
「何を……ああ、ちゃんと生きて帰ってこいってこと? 分かってるよ」
「まあそれもあるが、周りのこの反応だよ」
「反応? 灰塵がバカにされるのはいつものことだろ?」
なんだ?
確かに今は目立ってるけど、周りからバカにされるのはいつものことのはずだ。
「まあそうだけどさ、これはチャンスな訳だ。
つまり……」
「つまり?」
「これで功績を上げて帰って来たら、最高にカッコいい!!」
セドが拳を握り、一人で熱く声を上げる。
……思わず無言になってしまった。
この状況でカッコいいとか気にするか?
「まあ、だがら……生きて帰ってこいよ」
セドは真面目な表情になり俺の肩に手を置いた。
「ああ、分かってるよ」
セドが真面目に言ってるのに、俺は少し笑ってしまった。
なんだかんだ、気にしてくれる人がいるのはありがたいな。
「また少し、カッコよさに差をつけてやるかな」
「おい! まあ今回は許してやるよ」
俺とセドがふざけて話をしていると、
ボルボ先輩の大きな声があたりに響いた。
「オラッ!!お前!!
サボってんじゃねえ。出発するぞ!!」
後ろを振り返ると、皆軍用車両の荷台に登り始めている。もう出発しそうだ。
「……じゃあ、また20日後に」
俺も真面目な表情でそう告げて、車両に向けて走り出す。
前回伝統で放り込まれたエリアより浅い場所ではあるが、未踏領域であることに変わりはない。
決して気を抜くことはできない。
俺が荷台に飛び乗ると同時に、車両が走り出した。
「お前ら普段役に立たないんだから、少しは役に立ってこいよ!!」
笑いながらやじる声が聞こえる。
セドの姿が一瞬だけ見えたが、すぐに車両が速度を上げ、徴用校は見えなくなった。




