第32話 鉱脈探索メンバーの顔合わせ
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この世界で、エーテル燃焼レベルは絶対だ。
シニガミから身を守るために必須なイドラ鉱石は、人類にとって最重要資源。
だが、多くの鉱山は外周と呼ばれる未踏領域付近に位置している。
そのため、安定的な供給には戦闘能力を持った人材は欠かせない。
俺のような灰塵は、イドラ鉱石の確保に貢献できていない存在として、周囲から蔑まれてしまうわけだ。
逆に白金までたどり着いた人は多大な恩恵を受けることができる。
配給されるイドラ鉱石の量は当然として、その他数えられないほどのありとあらゆることが優遇される。
それは徴用校の中でも同様であり、ラウンジのような明確に示されたものもあれば、暗黙の了解もあった。
俺が今向かっている部屋、通称「円卓」もその一つだ。
通常は白金レベルに到達した者だけで利用することが暗黙の了解となっている。
「エアハルトさんが詳細を話すって言ってたけど、まさか円卓とは……
俺この部屋入ってもいいんだよな?
入った瞬間殺されるとかないよな?」
『まだ円卓とか言ってんのか。ただの部屋に大層な名前をつけやがる』
「アルの頃からあったのか?」
『ハッ、気にしてたのは、下を作って優越感を感じたい奴だけだがな』
アルは気にしていないように言うが、毎日必死で努力し白金にたどり着いた自負がある人は、怒る気がする。
目の前の扉は、学長室と同じくらいの立派な扉だ。
というか、灰塵でここを開けた奴はいないんじゃないか?
「はー……まあ、しょうがないから開けるけどさ」
俺は覚悟を決めて、装飾が施された推し扉に手をかける。
すっと開いた扉から少し中を見ると、中は予想よりも広かった。
円状の机を囲む形で椅子が配置されている。まさに円卓だ。
エリカが周囲の先輩達に笑顔で対応している姿が見えた。
「……失礼します」
俺はそっと声を出して部屋に入ると、正面にいた人が俺のチャージリングの色を見て、驚いたように口を開けた。
「なんだお前は?ここが何処だか分かっているのか?」
気がついた周囲の人も、皆キツイ視線を俺に向けた。
ついでにエリカも、隙を見て俺にいつも通り(?)のキツイ視線を向ける。
だかそれは一瞬だけだった。器用な奴め……
ああ……やっぱりこうなるか。
皆の反応も無理はない。
通常は俺のような斥候役の灰塵や黒硫黄の下位はこの打ち合わせに参加しないはずだ。
当たり前だが、目の前にいる全員が白金レベル。
エリカの他、肘をついて一人離れたところに座っているフエゴと、立って他のメンバーと話をしていたメイソンもいるため、同期の白金はすでに全員部屋にいた。
というか、エアハルトさんいないじゃん……
なんて言えばいいんだよ。
「なんで灰塵がここにいるんだよ」
「えーと、俺もここに来るようにって……」
再度キツイ声をかけられ、何とか答えようとしてるところで、遮るように背後から声がした。
「僕が呼んだんだ! すまない、遅れてしまった」
「エアハルトさん……」
エアハルトさんが、少し焦った様子で入ってきた。
「おい、お前は優しすぎるぞ」
他のメンバーが、呆れた様子で声をかけた。
確かに、普通は灰塵に謝罪などしない。
「そう言うな。未踏領域を一人で生き残ったんだ。彼の経験は役に立つかもしれない」
「逃げてただけの奴がね……」
エアハルトさんがフォローしてくれたが、周囲は不審な顔を隠そうとはしなかった。
エアハルトさんが入ってきたので、皆席に着き始める。
俺は指示された扉に近い椅子に座る。
最後に開けられていた、最奥中央の窓に近い席にエアハルトさんが座った。
「さて、今年も鉱脈探索の任務が始まる」
円卓に座る皆を見渡して、エアハルトさんが話し出した。
「昨年白金にたどり着いた三人もいるから、まずは自己紹介をしようか。
僕はエアハルト・ディクロアイト。今回の探索チームの隊長を務める」
新人の三人は、座ったまま背筋を伸ばし、真剣な表情でエアハルトさんの言葉に集中している。
世界で最も真紅に近い人物と言われている人に、認められたいと言う気持ちがあるのだろう。
「新人の三人は順番に一言づつ、名前と得意なことを教えてくれるかな?」
エアハルトさんの言葉に頷いて、昨年の成績第三位のメイソンが立ち上がった。
「初めまして。メイソン・スピネルと申します。得意なことは、エーテル付与を利用した防御です。
初めての鉱脈探索、皆様のお役に立てるよう精一杯努力いたします」
簡潔に話をして一礼し、再び席に着く。
動作がきっちりしているな。
同期だが、今まで俺はほとんど関わったことがない。
でも白金で防御が得意と答えるのは珍しいんじゃないか?
普通は白金の燃焼レベルを利用した攻撃や、体に纏って能力を上げることに自信を持つイメージだ。
雰囲気を見る限り、真面目な性格に見えるな。
次に、エリカが立ち上がった。
「エリカ・セレスタイトです。エーテル燃焼の効率には自信があるので、偵察や長時間のエーテル燃焼でお役に立てると思います。
皆様の足を引っ張らないよう、頑張ります」
笑顔で頭を下げるエリカに、周囲も好意的に頷く。
……相変わらず外面はいい。
危険度が高い偵察は俺や黒硫黄下位の斥候の役割だ。
エリカが危険な目に遭うことはないはずだが、それを口にするのは勇気がいると、皆認識するはずだ。
最後に、めんどくさそうにフエゴが立ち上がる。
「フエゴ・サンストーン。得意なこと……強いて言うならほぼ全てだ」
新人としては失礼な言葉遣いだが、誰も注意しなかった。
皆探るようにフエゴのことを見ている。
あのクリスフォードさんと同じサンストーン家だから、皆の反応も理解できる。
それにしてもこいつ、同期でエーテルスコア一位だから自信があるのはわかるが、先輩たちにもこの態度を貫くとは……ある意味アルに似ているか?
『あ? テメェ何考えてやがる。消し飛ばすぞ』
チラッとアルの方を見ると、暴言が飛んできた。
……勘が良すぎる。
「ありがとう。
じゃあ、最後にヒツギ君も一言」
エアハルトさんが、俺を手で示しながら話し出した。
なぜか不意に、フエゴに睨みつけられる。
ああ、なるほど。なんか俺がトリみたいな雰囲気になったじゃないか……せめて最初にサラッと紹介して欲しかった。
皆の好意的ではない視線を浴びながら、俺は立ち上がった。




