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第30話 真紅に目をつけられるダスト

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「はぁ、疲れた」


 学長室から出た瞬間、どっと疲れが来た。

 大きく息を吐き出し、呟く。


『テメェが勝手に動揺するからだろボケ』


 ずっと見ていただけのアルが、呆れたように声を上げた。

 

「いや、明らかに探られてるじゃん! 伝統を生き残ったから、しょうがないけどさ」


『ハッ、その程度予想の範囲内だろうが。

 言い訳してんじゃねえ。クソガキが』


 アルは相変わらず厳しい。

 もうちょっと俺に優しくしてくれても、いいんじゃないか?


「それにしても、エアハルトさんは灰塵ダストの俺にも優しいし、いい人だな」


『お前、あの蒼トゲのことも最初はそう思ってただろうが』


「うっ……」


 その通り。エリカの裏の顔を知ってしまった今では、簡単に判断できない。


「まあ、エアハルトさんの性格はともかく、鉱脈探索でどうやって振る舞うかは考えないとな」


 そう言って、アルと共に教育棟の階段を降りる。

 今日は休日だから、人がほとんどいない。


 週に一度の休日は、宿舎で休むか、街に出かけている人が多いから当然だ。あとは、エーテル燃焼の訓練をしている人が少しいるくらい。


 とはいえ、そろそろ昼食の時間だから、食堂に向かうにつれて人は増えてくるだろう。


「おう、シュウヤ。朝から呼び出しだっけ?

 どうだった?」


 教育棟と宿舎棟を結ぶ1階の連絡通路で、セドに声をかけられた。


 セドには、学長に呼び出しを食らったと昨日話をした。様子を見る限り、気になって待っていてくれたようだ。


「まあ予想通りだったかな。次の鉱脈探索に参加してくれって内容だったけど、エアハルトさんもいた。次の鉱脈探索のリーダーらしい」


「マジかよ! あの真紅ルビーに最も近いと言われているエアハルトさん!?

 超大物じゃないか!

 エアハルトさんに直接誘われたのか?」


 セドが興奮した様子で声を上げた。


「まあ、そんな感じ。斥候扱いだけど」


「そりゃそうだよな……どんな人だった?」


 エアハルトさんレベルの人には滅多に会えないから、さすがに興味があるらしい。


「俺を露骨に差別してこないし、いい人っぽかったけど……少し話しただけだからわからないな。

 直接話してみたら?」


「バカッ、俺のレベルだと普通話しかけられねえよ……あっ……」


 そう言って、俺が灰塵ダストレベルであることを思い出したのか、口を閉じた。


 こいつ、こんな軽そうな見た目で意外と気を使うんだよな。


「別にいいよ。それに……」


 ただの事実じゃないか、と言おうとしたところで、前にエリカが見えた。


 なんだろう。エリカは通路の角に立ち止まっていて、何かに迷っているように見える。



「ん?……どうした?」


 セドが俺の様子に気がついて、同じくエリカの方向を見る。


 前から黒硫黄サルファレベルの女の同期が一人、歩いて来ている。

 確か、この前少し話をしたアザカって子だな。


 エリカは……隠れて待ち構えているのか?

 まるで最初に俺が待ち伏せされていた時と同じだ。


 アザカが目の前を通り過ぎようとしたタイミングで声をかけるつもりに見える。


「あっ、エリカさん! 今からお昼ですか?」


「……っ」


 だかその時、反対側から歩いて来た別の女子が、先にエリカに声をかけた。


「あっ……ええ、そうしようかと」


 エリカは一瞬焦ったように見えたが、すぐに感じがいい笑顔で話しかけて来た女子に対応を行う。


「残念……先に食べちゃいました。

 また今度一緒に食べましょう。遊撃隊での事、おしえてくださいね」


「また今度ね」


 残念そうにしている女子の対応をしながらも、

エリカは目の前を通り過ぎる、アザカを見ていた。


 なんか用があったのか?

 別の人に話しかけられてしまったから、タイミングを逃したように見える。


 エリカは少しの間俯いていたが、顔を上げた。


 あっやば……

 そう思った瞬間、完全に目が合った。


「だ、大丈夫ですか?」


 緊張して思わず敬語で声をかけてしまった。

 ああ、絶対キレられる……


 と思ったが、エリカは人が良さそうな笑顔を浮かべて、

「……なんでもないわ」と告げ、食堂の方へ歩いて行った。

 そうか、この場所は隣にセドがいるし、他にも人が通る可能性がある。


 いや、笑顔なのに逆に怖い。


「……あの子に用があったのかな?

 話しかけようとしていたみたいだけど」


 沈黙を破るように、セドに聞いてみた。


「ああ、確かアザカって名前だったな。この前も少し気になった」


「セドは少ししか一緒にいなかったのに、よく覚えてるな」


「うん? 可愛い子の名前は把握しているに決まってるだろ?」


 マジかこいつ……

 なんでそれが常識みたいな言い方をするんだ。


 俺は愕然とした表情でセドを見る。


 ……まあ、今考えてもしょうがないか。

 エリカのことは気になったが、俺たちは再び歩き出した。


 食堂に着くと、休日の早い時間にも関わらず意外と混んでいた。


 一人で食事をしているフエゴの姿や、取り巻き達と過ごしているトールの姿も見える。


 先に向かったエリカは、ちょうど席に着くところだった。


 何人か同期の女が声をかけ、近くの席に座ろうとしている。


 相変わらず、人当たりの良さそうな笑顔で接していて、俺に対して見せた態度は微塵も感じさせない。

 

「フエゴもエリカ様も、もうすぐラウンジ行きだもんな。関わりがあるのはもう最後か」


「ああ、そう言えばそうだっけ?」


 セドの言葉で、ラウンジの存在を思い出した。


 白金パールレベルになり、鉱脈探索に一度でも参加すると、様々な特別扱いを受けられるようになる。


 その中の一つとして、ラウンジと呼ばれている専用の食堂を使うこともできるのだ。


 豪華な食事と、休憩できる環境が整えられており、黒硫黄サルファとは完全に別のレベルの扱いを受けることができるらしい。


 徴用校に入った時に全員見学で見せてもらったが、豪華な食事と煌びやかな机や椅子、広い休憩スペースが提供されている。

 皆、ここを使うことを夢見て、必死に白金パールを目指すのだ。


 ……と言うことは、もうエリカに遭遇することは無くなるのか?

 それは俺にとってはありがたい。


「お前はまだ白金パールにたどり着く可能性ゼロじゃないだろ?」


 食事を受け取り、席に着きながらセドに話しかけた。

 セドは黒硫黄サルファでも成績が良かったはずだ。

 エーテル燃焼レベルが上がる可能性があるのは、後数年程度だが、確率はゼロじゃない。


「まあ、俺はそこそこでいいからな。そこそこ美人の彼女は欲しいけど」


「余計なこと喋らなければ、すぐにできる気がするけどな……」


 そこそこの基準がわからないが、モテたいならあまり口を開かない方がいい気がする。


「おい。どう言う意味……なんか外が騒がしくないか?」


 外から聞こえて来たざわめきに、セドが反応する。

 その時、外から興奮した様子で同期が入って来た。


「おい! クリスフォードさんがいるぞ!! あの真紅ルビーの!」


 騒然となる食堂。すぐに何人かが入り口に向かい、外を見る。


 だが、すぐに顔を引っ込めて後退り、壁に張り付いた。


 ここからでもわかる。

 尋常じゃない存在感を持った人が入ってこようとしている。


 ざわめく食堂の外側とは逆に、周囲は静まり返り、全員の視線が入り口に集まる。


 次の瞬間現れたのは、紅く光るチャージリングと装飾を身に纏った長髪の人物だった。


 紅いチャージリングを身につけることができるのは、今世界で3人だけ……


「……クリスフォード……サンストーン」


 近くの誰かが、ぼそりと呟いた。


 この国で唯一の真紅ルビーレベルである、その人物を知らない人はいないだろう。


 だが直接見たことがある人は、ほとんどいないはずだ。

 普通の人が出会うことなどないほど、雲の上の人物だからだ。


 こんな食堂にいるのが明らかに場違いであるように感じるその人物は、オレンジ色の髪を靡かせて周囲を見渡した。


 食堂全体に緊張が走る。

 なんだ……?誰かを探している?


 誰も動けない中、フエゴが立ち上がった。

 

 そうか、フエゴは同じサンストーン家だ。

 身内に会いに来るのはまだ理解できる。


「おい。なんでこんなところに……っ」


 言葉を発したフエゴを無視して、クリスフォードさんはこちらに真っ直ぐ歩いて来た。


 ただ歩くだけで、見えない力に押されるように周囲の人たちは後ずさる。


 そして、俺の目の前で立ち止まった。


 全員の視線が俺に集まるのを感じる。

 まるであの時……伝統の発表で名前を呼ばれた時のようだ。


 あの時と違うのは、誰もが息を止めて驚愕の表情でこちらを見ていることだが。


 そして、目の前の人物は俺に鋭い視線を向けながら口を開く。



「--君がヒツギ・シュウヤか?」


 初めて合うはずの目の前の人物は、まるで確信しているかのように口を開いた。


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