第28話 バンク強盗の結末
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怪我人の病院への搬送と、軍の部隊への報告が落ち着いた俺たちは、皆キステリの駅に集まっていた。
列車もそろそろ復旧するとのことだったので、徴用校に戻るためだ。
「ふうっ、やっと終わったな……
まさかこんな一日になるとは」
さっきまで怪我人を優先して話ができていなかったが、やっと落ち着いたのかセドが俺の隣に腰を下ろす。
「今回はシュウヤも功績を認められるんじゃないか!? エリカさん報告するって言ってたし」
セドが俺の肩を叩き、興奮したように話す。
功績は……どうかな?
エリカはあんな性格だけど、一応報告はすると思う。
だけど、灰塵に高い評価が与えられることは滅多にないから、揉み消されるかもしれない。
「えっ、あなた、何か活躍したの?」
ここを出発するときに一緒にいた同期、アザカが声をかけてきた。
多分、今日はここで伝令や手伝いをしていたのだろう。
「ああ、こいつが追いついてこなかったら、マジでやばかった。俺もエリカさんも死んでたかもしれない」
セドが真顔で告げる
「うそ…………はは、わたしほんとダサいな……」
アザカは頭をおさえて、呟く。
自分が活躍できない中、灰塵の俺が成果を出したことにショックを受けているのかもしれないな。
声をかけられずにいると、止まっていた列車のドアが開いた。
やっと徴用校の宿舎に帰れそうだ。
アザカは俺たちとは離れて、一人で席に座った。
俺も疲れた。とりあえず今は帰って休もう。
倒れ込むように座席に座り込んだ。
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日が沈みかけ、オレンジ色の光が列車の中に差し込んでいる。
セドは隣で爆睡していた。
周りも寝ている人が多く、列車の走る音しか聞こえない。とても静かだ。
『テメェは何であいつらの誘いを断ったんだ?』
俺も寝そうになっていたが、アルに話しかけられて目が覚める。
「アル、起きたのか」
あいつら?……俺を仲間に勧誘した犯人達のことか。
「何でって言われても……セドが危険な目に会うのを避けたい気持ちもあったけど、直感というか、なんか引っかかることがあったというか……」
あの限られた時間ではいまいち考えがまとまらなかった。
もちろん、セドが追跡部隊に入っていたので危険な目に合わせるのを躊躇したのは確かだ。
だけど、理由を明確に問われるとわからない。
「でも、俺が仲間になったらアルは怒ったんじゃないか?」
『あ? テメェは嫌がらせをするために、戻ってきたわけじゃねえだろ』
めんどくさそうにアルが答える。
ごもっとも……その通りだ。
「……わかってるよ。シニガミを倒すためだろ?」
俺たちはシニガミを倒すことを目標としているから、そんな小さなことに構ってる場合じゃない。
「シニガミが倒されれば、灰塵の待遇も改善されるのかな?」
『知るか。……まあ、あいつらのやり方でも、少しは改善される可能性はあるかもな』
「……え?」
アルが意外なことを言うから、驚いた。
『世間が灰塵の報復を恐れて、嫌がらせが減る可能性はゼロじゃねえ。大抵は悪化すると思うが』
確かにあいつらのやり方で被害が出ていれば、可能性はあるが……
「だけど……なんか嫌だったんだよ。それが」
--まもなく終点です--
もうすぐ徴用校への到着を告げるアナウンスが、端的に響いた。
「……ん? ついたか?」
隣で寝ていたセドが起きる。
まだとても眠そうだ。
「なあ、セド……」
「ん?」
「もし、俺が今日の犯人たちみたいな行動を取ったらどうする?」
やばい。俺も眠くて頭回ってないかもしれない。余計なこと聞いた。
軽蔑されるかもしれない。
思わず自分の手を固く握りしめる。
「んー……まあ、とりあえずぶん殴って止めるかな」
セドは欠伸をしながら答えた。
止めてくれるのか……
「……なあ、なんでお前は灰塵の俺に良くしてくれるんだ?」
俺は前から疑問だった事を尋ねた。
まだセドのことはよく知らないからな。
「別に灰塵によくしてるわけじゃねえよ」
目を擦り、気だるそうな表情でセドは続ける。
「お前にこの短剣を取り戻してもらった後、考えてた。
なんで、みんな当たり前に灰塵を差別しているんだろうって」
あの日か。
そんな事を考えていたなんて、思ってもいなかった。
「貢献してない奴だから、とかよく言われるけど……なんか、そういう正しいと思える理由を作ってに逃げてただけに思えたんだよな。
そもそも石の配給量には差があるし、業務で足を引っ張られるのが嫌なら、それを直接伝えて別の任務への参加をうながすとか……黒硫黄以上しか参加できない任務を選ぶとかすれば解決するだろ?」
そう言って、セドは俺に視線を向けた。
俺は無言で頷いて続きを促す。
「でも、みんなわざわざ灰塵に嫌がらせをして、辛い思いさせることで、居場所がないことを伝えようとしてる。
俺はそれがカッコ悪い気がしたから、やめただけだ」
そう言って、セドは先に列車を降りた。
……あいつ、ただのバカじゃなくて、ほんとにかっこいいところもあるじゃないか。
まさかセドに、俺が上手く言えなかった核心を突かれるとは思わなかった。
「なあ、アル。
今日の犯人達も、自分たちは差別を受けているから関係ない白金の奴らを殺してもいいって考えていたな。
俺は同じやり方はしなくなかったのかもしれない」
『ハッ、意外と優しいじゃねえか』
「だけどあの人が言った通り、普通の灰塵にできることは限られる」
確かに、あの人が言うこともわかる。
現実は甘くないということを、俺も嫌というほど知っていから。
『テメェは責任重大だ。言い訳して途中で諦めたら灰にするぞ』
「わかってるよ……」
ムカつくが、アルの力を貸してもらえる時点で、俺は普通の灰塵とは違う。
他の灰塵達のためにも、シニガミを倒す方法を見つけなくてはいけない。
「おーい、はやく飯食って寝ようぜー」
セドが列車を降りずに立ち止まっていた俺を気怠そうに呼んでいる。
「ああ……!」
長い一日が終わり、俺はセドと共に徴用校に戻った。
これで石も補給できた。
--もうすぐ、俺にとっては二度目の未踏領域の探索が始まる。
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