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第20話 危険体との遭遇


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『もっと速く燃やせ!! 

 テメエ、俺の燃焼器官はこの程度じゃねえだろ!!』


 翌朝、俺はいつものようにアルと訓練を行っていた。


 危険体が出てから、皆一人では訓練はしなくなっているようだ。


 もっとも、アルがついている俺は逆に訓練しながら気配を探っているのだが。


 走りながら、白金パールのエネルギーを腕にピンポイントで集める。


 それを支持された樹々に打ち込んでいくのだが要求されるスピードが速すぎだ。

 エネルギーを打ち込んだ直後の、エーテル燃焼が間に合わない。


「ハァ……ハァ……これでも遅いのか?」


『ハッ、この程度できねえ奴は、未踏領域の奥地じゃ1秒でぶっ殺されるぞ』


 相変わらずアルの訓練は厳しい。


 エーテル燃焼は得たエネルギーを体内に留めることで身体能力を強化できるが、放出する時は体の一点に絞って放出するため、細かいコントロールが必要となるのだ。


 俺自身でも、ある程度は右胸の能力を使えるようにしなくては、未踏領域の奥地では生き残れない。


 白金パールまではたどり着いたが、アルの求める

レベルには達していないようだ。


 シニガミを倒すヒントである左胸の燃焼器官の訓練も、少しずつ始めている。


 だが、まずは俺自身が生き残るための訓練を重視していた。


 もしもアルのサポートができない場面であっても、死なないようにするためだ。


「…………!」


 白金パールの気配だ!


 この感じは……人ではない。

 まず間違いなく、件の危険体だろう。


『気がつきやがったか。

 あと30秒は早く気づけ、未踏領域なら致命的だ』


「それはさすがに厳しいのですが……」


『俺は助けねえぞ』


 アルが念の為確認してきた。


「わかってる!」


 アルが早く声を上げなかったのは、このままだと後数分で接触するからか。


 おそらくは白金Ⅰ(パール1)レベル。

 未踏領域で毎日戦ってきた白金パールよりかなり弱いだろう。


 俺は走りながら、姿を隠せる場所をさがす。


 正面からぶつかるよりも、不意をついたが安全で倒しやすい。


 未踏領域のエーテル燃焼体は、こちらの気配を読むことに優れていたが、このレベルなら見つからないはずだ。


 隠れられそうな大きさの木を見つけたので、迫って来るエーテル燃焼体を待ち構えた。


『……おい』


 アルは静かに俺に注意を促した。


「迷いなく向かってきているけど……気づかれたかな?」


 まあ、俺は嫌と言うほどエーテル燃焼体に襲われてきたので、油断などする気も起きない。


 気を抜けば一瞬で殺されてしまう。


 エーテル燃焼を出来るだけ抑えて、息を潜める。


 …………来た!

 このままだと、俺たちの少し横を通り過ぎるはずだ。

 背後から奇襲できそうだな。


 そのエーテル燃焼体は、やはりキメラ型だった。

 だが、何か違和感が……


『……来るぞ!』


 !? アルの声で身構えて、エーテル燃焼を開始する。


 その瞬間、四つ足だった獣は二足歩行になり、一瞬で目の前に移動していた。


「クッ……!」


 かろうじて一撃目の攻撃をしゃがんでかわすことができたが、スピードが速い!


 爪が空気を裂く音が、鋭く耳に届いた。

 とても白金Ⅰ(パール1)レベルではないぞ……


 背後に隠れていた大木が、キラキラとした切断面を残して倒れていく。


 ドッッ、と大きな音をたてて倒れる木を盾にしながら、距離をとった。


 改めてそのエーテル燃焼体を見ると、完全に立ち上がった姿で、キラキラとした白金色パールの粒子を纏っていた。


 獣のように毛深い下半身と、胸のあたりから毛が少ない筋肉質な上半身。


 顔は獣の風貌であるが、ヒトに近い風格を放っていた。


 思わず、俺は声を上げる。


「ヒト型系か!?」


『ハッ、ヒト型系はこんなもんじゃねえだろ』


 アルがつぶやいたように、一応は獣の風貌が強く、キメラ系に分類されるだろう。


 ヒトの形に分類されるエーテル燃焼体は、強敵が多い。


 俺も未踏領域で一度だけ遭遇したが、倒し切るにはアルの真紅ルビーの力が必須だった。



『コイツ、普段は力を隠してやがるな。

 白金Ⅲ(パール3)くらいか……』


 未踏領域では毎日のように遭遇していたが、外でははじめて出会う強敵だ。


 俺は意識を集中して、敵のエーテル燃焼の気配を読む。


 行動する前には、必ずきっかけがあることをアルから教わった。


 アルは大雑把に見えて、エーテル燃焼の気配に誰よりも気を配る。


 俺はエーテル燃焼の気配が強まった一瞬を見逃さず、回避行動を取りはじめる。


 目の前の獣は、瞬きの時間ほどの刹那に、俺の目の前に迫っていた。


 ドンピシャのタイミングだ。

 振り抜かれる爪をかわしながら、体をしずめて斜め前、死角に入るように動いた。


 右手に集めた白金パールのエネルギーを、毛がすくない脇腹付近に打ち込む。


 普通ならば、同じ白金パールのエーテル燃焼体にエネルギーを打ち込んだところで、致命傷を与えるのは難しい。


 だが俺は、アルの燃焼器官と未踏領域でボロボロになりながら鍛えた訓練のおかげで、高い出力でエネルギーを打ち込むことができる。


 よし、これで致命傷になるはずだ。

 伝わってくる手応えから、うまく倒すことができたと安堵した。


 だがその瞬間、最後の力を振り絞って振り上げられた脚が、俺の死角から顔面付近に迫っていた。


 しまった!


 そう思った瞬間、アルが真紅ルビーのエーテル燃焼を開始し、俺の体から真紅のエネルギーを放つ。


 俺に触れる直前で、振り上げられた脚と下半身が一瞬で消滅した。


『テメェッ……このクソ雑魚野郎が!!』


 アルの苛立った声を聞きながら、反省する。

 最近強敵と戦っていなかったので、出力の加減に意識が向きすぎた……


 服が汚れたら、後でごまかす必要があるという考えが頭のどこかにあって、俺の一瞬の判断を鈍らせた。


「……わるかったよ。

 未踏領域の外にも、こんな強い奴が出るとは……」


 白金Ⅲ(パール3)レベルがこの辺りに出るのはほとんどないので、即座に白金パールの討伐隊か組まれるはずだ。


「そういえば、グローリア鉱山が白金パールレベルを含んだ敵に襲撃されたって聞いたけど、その生き残りかな?」


『ハッ、まあ珍しいのは確かだな』


 襲撃したエーテル燃焼体のほとんどは未踏領域に戻ったと考えられていたみたいだが、外周の森林地帯も広いからな。


 どちらにせよ、これで犠牲は止まるだろう。

 ここで倒すことができて良かった。


 このレベルだと、奇襲されたら白金パールの遊撃隊ですら壊滅する可能性もあった。


『おい、悠長に考え込んでるが、タイミング逃したぞ』


 アルの声でハッと気がつく。


 いつの間にか、周囲に人の気配が散らばっていた。


 遊撃隊や、要請を受けた白金パールの人たちがこの危険体の捜索をしているのだろう。


 死体を処理したかったが、このままにするしかない。


 この位置で紅いエーテル燃焼の光を出したら、気づかれる可能性がある。


「急いで帰るしかないか」


 そろそろ業務が始まる。

 死体をそのままにして俺たちは、引き返すことにした。


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