第17話 追撃
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「……いた!」
俺は密林のなかを走り抜けながら、声を上げた。
セドと呼ばれていた同期の姿は見えないが、
樹々の隙間から、エーテル燃焼体の姿が見えた。
黒と黄色のエネルギーを纏っていた。
やはり黒硫黄Ⅱ程度のレベルだ。
どうする……
この力を使って倒すか?
一瞬戸惑ったが、俺は襲われている隊員隊を助けることに決めた。
だが、白金レベルのエネルギーが二つ来ているのも感じている。
これは……
『ハッ、白金のお出ましだ』
一つはこの前怒らせたやばい女、エリカの気配だろう。
もう一つは知らない気配だ。
直後に、エーテル燃焼体の気配が二つ消滅した。
……どうやら大丈夫そうだな。
俺は、こっそりと彼らの背後へ回り込む形で森林地帯を抜ける。
「あいつ、無事みたいだな」
隣の区画へ向かった同期、セドが立ち上がるのが見えた。
『運がよかったな』
アルが答える。
エリカともう一人の白金は……フエゴか。
同期の一位と二位がそろって駆けつけたのか。
それは確かに運がいい。
……思わず道に出てしまったが、そのまま帰ればよかった。
どうしようか。
見つかってないなら、今からでも帰ろうか。
それにあと一体、逃げていったエーテル燃焼体の気配をまだ感じる。
そんなことを考えていると、フエゴとセドの会話が聞こえた。
セドが俯くのが見える。
よくわからないが、何かを失ったのか?
『おい、今のうちにさっさと追いかけろ。
どうせ、あのザコを追う気だろ?』
「わかってるよ。倒しておいたほうが良いと思う」
そう答えて、森林地帯の方向へ足を向ける。
だが……
……げ、セドと目が合った。
フエゴも直後に俺に気が付いたようだ。
「……お前、何してるんだ?
手負のエーテル燃焼体なら、倒せるとでも思ったのか?」
冷めた目で、フエゴが俺に話しかける。
「いや、血がたくさん出ているようだし、ちょっと見てみようかと……」
焦って変な答えをしてしまった。
もう少しいい言い訳あっただろう……
自分の頭の悪さに失望する。
「……俺は助けない」
フエゴは一言残し、興味なさげに去っていく。
ムカつくほどにクールなやつだな。
俺は静かに道を外れ、森林地帯へと入った。
……みんな、そんな目で見るなよ。
何やってるんだコイツ?
という目で見られていたが、そのまま進んだ。
森林地帯に入り、皆の姿が見えなくなった。
白金の燃焼エネルギーを纏い、加速をする。
『思ったよりも、逃げ足が速いヤツだな』
アルの言う通り、かなり遠くまで逃げられている。
だけど、今の俺なら数分もかからずに追いつける。
良くも悪くも、未踏領域で走り続けた日々のおかげだ。
あのエーテル燃焼体、これだけの速さで動けるなら致命傷ではないだろうな。
「……いた」
黄色いエネルギー光が、かすかに見えた。
俺は白金のエネルギーを右手に集める。
そして、背後から一瞬で距離を詰めた。
走っているエーテル燃焼体が、驚いたように振り返る。
俺は追いつくと同時に、右手を側面に突き刺し、エネルギーを打ち込んだ。
色々試した中で、俺が一番得意な攻撃方法だ。
俺はアルほど強力な放出はできないけど、この攻撃方法なら、身体の内部へダメージを与えることができる。
エネルギーを高めれば、敵が破裂するほどの威力も出せるが、汚れるのでうまく調節することを覚えた。
隣を走るエーテル燃焼体は一瞬で絶命し、倒れ込んだ。
当たり前だけど、未踏領域のエーテル燃焼体と比べてかなり弱い。
「この程度なら、問題ないんだけど……」
『さっきの奴らは歯が立たなかったみたいだな』
「そりゃあ、黒硫黄じゃあ勝てないだろ。
戦闘経験がある人は限られてるし……」
『ハッ、探索も進まねえわけだ』
アルと話をしながら、エーテル燃焼体の死体を見つめた。
きらきらと白金色の粒子が身体の内部から漏れている。
よく見ると、肩のあたりに深く短剣が突き刺さっていた。
アイツが気にしていたのはこの短剣か?
俺は死体から短剣を引き抜いた。
素朴な見た目だが、よく手入れがされているように見える。
『どうする気だ?』
どうするっていっても……
回収したら面倒なことになるかもしれないが……
あいつがさっき落ち込んでいた姿が気になった。
「……一応渡そうと思って。言い訳は必要だけど」
『親切なやつだ』
そう言って、アルは軽く笑った。
「うるさいな。アルもそうするだろ?」
『ガキが。さっさと戻れ』
予想通りの反応が返ってきた。
さて、急いで戻るかとするか。
勝手にどっか行ったと報告されていたら面倒だけと、とりあえず道に迷っていたことにしよう。
俺は担当区域の隊長に怒られることを覚悟しながら、走り出した。




