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第12話 ダストの帰還2

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 未踏領域から帰還した翌日の夜、シュウヤはオーウェン学長の前に立っていた。


 前線基地で怪我の手当てを施されてすぐ、街へ輸送されたからだ。


 そのため、シュウヤは30日ぶりのシャワーに感動しつつも、慌ただしく街へ戻る準備を進めることになった。


 少しはゆっくりさせてくれよと感じたシュウヤだったが、噂が広まるより早く街に戻りたかったので、なんとか自分を納得させる。


 そして、街に戻るとすぐに、学長であるオーウェンの部屋で、鉱脈探索の報告を求められることとなったのだ。


「信じられん……」


 自身の執務室で、シュウヤの報告を聞いたオーウェンは、思わずつぶやく。


 報告の内容は、たまたま狭い洞窟を見つけ、ひたすら隠れていたこと。


 そこに溜まる雨水と、近くにあった植物、エーテル燃焼体の死骸を食べて生き残ったこと。


 ずっと隠れていたため、鉱脈の手がかりはほぼないということだった。


 オーウェンには、とても本当の話とは思えなかった。


「そう言われても、事実を報告することしかできないですし……」


 シュウヤは、困ったな……といった様子で、あくまでそれが真実であることを強調した。


 二人の間に沈黙が降りる。


 オーウェンにとって、シュウヤの報告は確かに衝撃的ではあった。

 だが、それよりも目の前の少年が、最下位の教育生であることが信じられなかった。


 オーウェンはシュウヤをじっと見つめる。


 しかし、その視線は余裕をもって受け流された。


 オーウェンは、白金パールレベルに慢心して高待遇を受けてきただけの人間ではない。


 未踏領域の探索や、危険な討伐任務など、常に第一線で活躍してきた。


 その経験が、目の前の少年には「何か」があると訴えていた。


 それが何であるのかはわからないが、目の前の人物は、ただ隠れて未踏領域を生き残った人間とは思えない。


 少しの間逡巡し、オーウェンは再び口を開く。


「今回鉱脈が発見できなかった以上、成果としては認められない可能性がある。

 次回以降の鉱脈探索に同行を求められる可能性もあるが……」


 成績最下位の教育生が、未踏領域でイドラ鉱石の鉱脈を探索するという伝統。


 今回探索したエリアに、イドラ鉱石が見つからなかったことは一つの成果ではあるだろう。


 だが、ずっと隠れていたからわからない、と本人に言われれば、世間はそれを認めない可能性もあった。


 そもそも伝統から生きて帰ってきた人は、記録にある限りいない。


 今後どのように扱われるかは、責任者であるオーウェンですら未知数であった。


 結果に対して責任を取るという大原則。


 オーウェンとしては、今回シュウヤが責任を果たしたということにして、通常の業務に復帰させたい気持ちではあった。


 確認をしたのは、念のためシュウヤの反応を見たかったからである。

 だが……


「それは仕方がないですね。

 承知しました。準備します」


 シュウヤは怯えずに、オーウェンの目を見たまま承諾した。


「っ! なぜ…………いや、今日はもう宿舎で休め。

 今後のことはまた連絡する。」


 オーウェンは、あっさりと承諾されたことに驚きながらも、シュウヤを宿舎に返すことにした。


 シュウヤにとっては、また未踏領域に入るのは想定内。


 シニガミを倒す手がかりを探すためにも必須である。


 そのため、むしろありがたかったのだが、当然オーウェンには理解ができなかった。


 シュウヤは一礼してオーウェンの執務室を後にした。


 残されたのはオーウェンと、ここまで彼を連れてきたマルコだけになった。



「……怯えていなかったな」


 しばらくの沈黙の後に、オーウェンがマルコに話しかけた。


「……あそこに足を踏み入れた者なら、二度と入りたくないと思うはずですが」


 何度か未踏領域に入ったことがある二人は、あの領域がどれほど危険であるかを知っている。


 白金パールレベルであっても、死者が出るのは当たり前。

 トラウマになり、その後の生活に支障をきたす者もいるのだ。


 しかも、シュウヤが入ったエリアは、未踏領域でも最前線の場所であり、いわゆる完全未踏領域にも近い。

 危険なエーテル燃焼体に遭遇しなかったわけがない。


 あっさりと次の探索の可能性を承諾するシュウヤの反応は、二人には理解できなかった。


「あの報告、あれで生き延びられると思うか?」


 オーウェンは、一応マルコに尋ねた、


「まず不可能ですね。隠れて生き延びられるほど、あの場所は甘くない。あなたもわかっているでしょう」


 そもそもシュウヤの報告に、二人は全く納得をしていなかった。


 未踏領域に入っていったのは間違いない。それはマルコたちが確認している。


 協力者がいたとしても、他の監視に気付かれないで非武装領域を超えて戻ってくることはできないだろう。


 しかも、次回以降も鉱脈探索に行くことをあっさりと承諾した。

 不正を行った人間の反応とは思えない。


 だか、ダストがあの領域に入って生き延びられるとは考えられなかった。

 あの報告通り、隠れ続けて生き残ることができるような場所ではないのだ。


 彼はどうやって生き延びたのか……


「……まずは彼が行った鉱脈探索の結果を公表しなくては。

 すでにここは彼の話題で溢れているようです。

 大騒ぎになるのは時間の問題でしょう」


 マルコの言葉に、オーウェンはハッとして、今後のことを考え出す。


「そうだな……すまない。まずは外部からの取材対応を頼む。

 それに、もうすぐ精鋭部隊による鉱脈探索が行われる時期だ。

 彼が同行することになれば、情報が入るだろう」


 そう、すぐにわかる時が来る。


 オーウェンは、先程業務の予定を話した白金パール三人の名簿に目を落とし、今後のことを考え始めた。

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