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子供の頃「戦争」があった母が子供に語った「戦争」の話

作者: 明けの明星

昭和10年生まれだった母、道子。

10歳の時に終戦を迎えた。


母は、自分が子供の頃、「戦争」があったことを

自分の子供たちによく話して聞かせていた。


道子たち一家は、戦況が厳しくなってくるころ、

長崎県の離島に疎開をしていた。


戦争中とはいえ、食べ物も豊富で特に不自由はない生活だった。

それでも、時折、アメリカ軍の戦闘機が島の上空を通り、

本土で使いきれなかった爆弾を「捨てて」行ったり、


夜は明かりが漏れないよう、電灯を黒い布で覆い、

窓に面していない部屋に集まって過ごしたりしていた。


ある日の昼下がり、島の警報が鳴った。

アメリカ軍の爆撃機が近づいているのだ。


その島は大きくはないが、集落があり人々が暮らしている。

村のまんなかには緩やかな坂があり、その坂を上りきると

村の神社があった。


警報とともに、村人たちは防空壕や物陰に避難していたが、

逃げ遅れた者がいたようだ。


神社に続く坂道を懸命に走る少女。

坂道の脇の物陰に隠れていた住人が

少女に気づき、

「ここに入れ」

と声をかけるが、少女には聞こえない。


走る少女の数メートル後を、爆撃機が1発ずつ銃を撃つ。

まるでからかうように。


何メートルにもわたって、一発づず、少女の後ろを撃っていく。


その時だった。

道の脇で隠れていた住人の男が、坂道に飛び出し、

少女を抱えて、反対側に逃げ込んだ。


その瞬間、爆撃機から銃が連射され、少女が今までいた場所に命中した。

ほんの一瞬の差で、少女は命を長らえた。


爆撃機は低空飛行しており、

走って逃げているのが、民間人であることも、まだ幼い少女であることも

見えていたはずだ。


物陰に潜んで、この様子をみていた道子は震えながらそう思った。


ある時、また、警報がなった。

もう近くまで飛行機が飛んできている。

大きな爆音が響いていた。


道子と兄弟5人は、物陰もない丸見えの場所にいた。

もう隠れることもできない。

飛行機からは丸見えだ。


慌てて子供たちに駆け寄る道子の母。

どうすればいい。


母は咄嗟に近くにあった大きなござを手に取ると

ござを広げ、子供たちの上にひろげた。


そして、土手に立てかけてあった、大きな大きな洗い物用の

木製のたらいを自分と子供たちの上に覆いかぶせた。


母は、子供たちを両手でぐっと抱きしめ、たらいの下で身動きもしない。

爆撃機が真上を通っていき、爆音がだんだんと遠ざかった。

道子はずっと

「気付かれませんように、気付かれませんように」

と祈っていた。


「こんなことがあったのよ」

道子が母になり、子供たちに体験談を聞かせていた。


戦争体験者も皆高齢化しており、いずれは誰もいなくなるのだろう。

体験談を直接聞いた子供たちもしかりだ。


親から戦争の話を聞いた子供たち、

それは、戦争の話を直接聞いた最後の世代、なのかもしれない。





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― 新着の感想 ―
[一言] 今この時も、複数箇所で紛争が起きていて連日民間人の犠牲が出ていると思うと切なくなりますね。
2024/08/04 22:40 退会済み
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