初手から転生不可?
「すまない・・・」
弱々しい声を出したのは、今目の前にいる神々しい輝きを身にまとった〝神〟だ。
俺は、社会人として十数年馬車馬の如く働いてきた。残業、休日出勤は当たり前。上司のパワハラ・モラハラ・若い女子社員へのセクハラが横行する超絶ブラックな会社だった。
なんで転職しなかったか?そんな判断力さえ奪うのがブラックたる所以なんだよ・・・
話ずれたな・・・つまりそんなブラックな会社で働いてた俺はとうとう身も心も限界に達して倒れてしまい、死んでしまったらしい・・・
らしいというのは、今俺が意識があるからだ。でも死んだことは事実なんだろうな
だって俺空に浮いてるんだもの・・・
何ここ天国?と思っていると目の前に現れたのは、美しい白髪にダンディな顔立ちの老人だった。
「私の名はデウニス、お前たちの言うところの神である」
威厳ある声が聞こえたかと思うと次の瞬間、神は大きなため息をついた。
「もしかしてお前もイセカイテンセイというものをしたいのか?」
神・・・デウニスは俺を見ながらうんざりした顔をしていた。
俺は神様から異世界転生って言葉が出てきたことに驚いていたが、とりあえず話をしなければ前に進みそうにもない。状況の整理をしなければ。
「あの、デウニス・・・様・・・?なんで異世界転生って言葉を知ってるんですか?あとここはどこですか?俺やっぱ死んじゃってます?今何の時間?」
思ったことをとりあえず聞いてみたんだけど・・・デウニスはまた大きなため息をついて答えてくれた。
「お前死ぬ間際にイセカイテンセイしたいと願ったじゃろ?それでここに来たんじゃよ」
デウニスが言うには、死ぬ間際に異世界転生を強く望んだ俺みたいなヤツ、憧れを持っていたヤツ、今と違う世界を夢見るヤツなど異世界に興味あるものは死後ココに来るらしい。
が、最近は小説や漫画で異世界ファンタジーが流行っているせいでこういう願いが増えてきてデウニスが働きづめで困っていると・・・
「私はそういった者たちの話を聞き望むようにイセカイテンセイを執行してきたんだがな・・・」
そういうとデウニスは一層暗い顔をした。
「先日とうとう女神ヘレーナに怒られてしまってな・・・」
「は?」
女神ヘレーナはデウニスの意中の相手らしい。ヘレーナが自分の世界は人口が少なく発展も遅いとデウニスに相談し、それを受けたデウニスはヘレーナの世界に自分の世界から異世界転生を望む者を送り込んだそうだ。
異世界転生を望むものは意欲が高く、ヘレーナの世界でとてもいい影響を与えた。
それによりヘレーナも喜びデウニスも鼻高々。ここまでの話だとwin-winなのだが・・・デウニスはここから調子に乗ってしまったらしい。ヘレーナの喜ぶ顔が嬉しくて、その後もどんどん異世界転生を行ったのだそうだ。しかも異世界ファンタジーの流行で転生希望者も後を絶たなかったのが災いした。
転生者の数がどんどん増えていきヘレーナの世界は、空前のベビーブーム。そして人口の爆発的増加。衣食住などが追い付かず経済の崩壊など大変なことになっていると・・・
そして先日とうとうヘレーナからオシカリを受けてデウニスは反省をしていたところに俺がやってきたとのことだった。
「すまない・・・だからお前を転生させることはできんのじゃよ・・・」
読んで頂きありがとうございます。