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 これを読んでるってことは、もう私はいないんだね。

 最初のページを空けておいてよかったよ、君に言葉を書き残すスペースができたもん。

 過去の私、ナイス!


……ちょっとだけ、不安だったんだよね。


 君がこの日記をちゃんと読んでくれるかどうか。


 だって、私が出会ったばっかりの頃の君は全部に無頓着で、私なんて道端の石ころ同然だったでしょ?


 だけど、今の君はもう違うって信じてたよ。



 この日記には、君と出会ってからのことが書いてある。


 私が君に隠していたことも、全部。



 ごめんね。だけど、言う勇気がなかったんだ。


 これは、「アンサーノート」。


 私の言えなかったことが、答えが書いてあるノートだよ。



〜〜〜〜〜


×月×日


 今日は君とお花見に行った。

……少し強引すぎたかな?

 だけど、君と見たら綺麗だと思ったんだよね。

 実際、今まで見た中で一番綺麗だった。

 それに君も楽しんでくれてたみたいでよかった。


 来年はまだ行けたらいいなぁ。



○月×日


 海に行ってきた!

 前から行きたいなって思ってたんだけど、最後に君と一緒に行けてよかった。

 それにしても、「夏といえば?」って聞かれて「蚊」って答えるとか……!

 ほんとうに面白い。


 君も一緒に海で遊んでくれるなんて思ってなかったから、嬉しい。


◇月○日


 検査で忙しくて日記を書くのが遅くなっちゃった。


 この前ハロウィンパーティーをしましたー!

 虫歯菌の格好をして甘いお菓子を食べる私を見て君はすごく微妙な顔をしてたよね。

 ふふ、君の反応のバリエーションが増えていくのが分かるのが楽しい。

 それに今日は君の食べ物の好みも分かった。

 甘いものが好きなんだって!それも、とびっきり甘いやつ。


 来年のバレンタインでチョコを渡せたらいいなぁ……


□月×日


 スキーにスケート、楽しかった!

 君はスキーが好きなんて、初めて知ったよ。

 けど、好きな人と手を繋いでスケートをするのも夢だったから少し無理を言ってスケートにも行っちゃった。

 でも君も楽しんでくれたみたいでよかった!


 だけど、もう体を動かすのが辛い。

 結構もう短いんだろうなって分かる。


……本当は、君に言わなきゃだよね。


 だけど、私のわがままで付き合ってもらったことを知られて嫌われるのが怖い。


 それに、君は優しいからきっと後悔しちゃうんだろうな。

 だから言った方がいいんだとは思うんだけど―――


 もう少しだけ、隠して平穏に過ごしていたい。


□月◇日


 あまりにも苦しくてつらくて病院に行ったら、入院することになっちゃった。


 どうしよう、君に言わなきゃ。


 学校に行かなくなったら異変に気づくし、もしかしたら教室で知るかもしれない。

 隠し事をしてた私が悪いけど、嫌われちゃうんじゃないかって怖いよ。


……今週会えないか、聞いてみようかな。



□月□日


 昨日の今日で君は来てくれた。


 君は怒ってたけど、私を嫌いにはならなかった。


 嬉しい。本当に嬉しい。


 だけど同時に、すごくつらい。


 君は怒って、悲しんで、泣いて。

 そんな君は初めて見た。

 そう変えたのは私だって言ってくれて、嬉しかったけど、そこまで追い詰めてしまったということでもあるんじゃないの?

 そう言ったら君は否定してくれたけど、多分そんな気がする。


 ありがとう。そして、ごめんね。



×月□日


 今日はお花見に行った。


 少し時期は終わっててかなり散ってたけど、最後に君と行けてよかった。


……そうそう、この日記を君に見せようと思います。


 少し君に語りかけるような文章だから恥ずかしいんだけど、今日ふと思ったんだよね。


 私がいなくなっても、君の中に私は残るのかな、って。



 せっかくだから、ここからは君への言葉を書こうかな。



 今日から大体2年前かな?


 私がまだ高校に入りたての頃、君は誰もいない屋上で寝てたんだよね。

 私は色々悩んでて、屋上で泣いてた。


 それを見た君は「うるさい」って言って、ぽいっとハンカチを投げた後はもう一度寝始めた。

 多分君は、何も言わないで放置している方が面倒だから、っていう理由で行動をとっただけかもしれないけれど。


 だけど、君のそっけない優しさで何かがカチッとはまったんだよね。


 たぶん、君に恋をしたのはその時。


 それから私は時々屋上に行くようになって、とはいえ君と話すことはなくて。


 だけど、あの静かな空間に二人だけでいられる時間が、私にとって一番幸せな時間だった。



 きっと告白なんてしたら、もう君は屋上に来なくなると思ってたから、告白は絶対しないつもりだったんだけど―――



 だけど、事情が変わった。

 治療法の見つかっていない病気になったの。



 病名は、漢字がいっぱいで書くのが大変だから割愛するね。


 私は余命宣告をされた。余命は、一年から一年半。

 それを宣言されたのが、大体一年半前より短いくらいかな?

 だから、お医者さんの言うことは正しいんだなぁ、なんて呑気に思っちゃった。



 それで、えっと、なんだっけ。

 そうだ、君に告白をしようと思ったの。


 もし断られても、諦めないでトライし続けよう、って。



 なんでかって言うとね、私にはやりたいことがなかったから。


 ほら、よく小説であるでしょ?余命宣告されたから、死ぬまでにやりたいことをやってきます、ってやつ。


 あれがなかった。


 君も知っての通り、私は家族がいないから孝行したい相手もいない。

 友達だって、あの頃は取り繕った私との友達しかいなくて、本当の友達もいない。

 「設定」じゃない、ちゃんとした趣味もない。



……ひどい話だよね、やりたいことがないからなんて理由で君に迷惑かけて。



 希望なんてない人生だったから、最後くらい「やりたいこと」をやって終わりたかった。



……言い訳がましくなっちゃうかもしれないけど、私は君と付き合ってもすぐ別れちゃうんだと思ってたんだ。

 付き合うまで押すけど、別れようって言われたらすぐ引くつもりだったの。


 それに、あんまり君と一緒にいるようになって、君のことをもっと好きになって、死ぬのが怖くなるのが怖かった。


 ただひたすらに、自分勝手だったんだ。



 だけど、君に何度も告白して、それこそ世界の果てまで探す勢いで探して告白して、付き合って。


 君は深い闇をたたえた瞳を見せてくれるようになった。


 今までの鋭い視線は、その闇を隠すためのものだったんだ、って付き合って初めて知った。



 話をするごとに、君を知っていった。

 そんな中で、君と私はすごく似てるんだって気づいたんだ。


 私は取り繕って、君は孤立して。やり方は違っても自分を守るために必死に生きていた。

 希望のない世界で、それでも必死に、無意味に今日を生き延びようとしていた。


……なんていうんだろうね、こういうの。


 同族嫌悪、とはちょっと違うんだけど―――


 君を見ていると、私を見ているみたいだった。


 だから、君にたくさん話しかけて、一緒に遊んだ。

 私は私自身を救うかわりに、君を救おうとしたの。


 そしたら、いつのまにか私の方が救われてて。

 私が君から離れがたくなってて。


 どんどん笑顔を取り戻していく君が、どんどん大好きになって。



 そして、私は絶望した。


 私の寿命がもう少ないことに。



 ごめんなさい。



 私のワガママで君を振り回し続けて。

 私のせいで君につらい思いをさせて。


 君を、おいていくことになってしまって。



 私は最期、君の前で明るく振る舞えているかな?


 ホントは怖い。

 私は、君といられなくなることがすごく怖いんだ。



……話がまとまらなくなっちゃったね。



 もうそろそろしめようかな。



 今までごめんなさい、そしてありがとう。


 私はもういなくなるけど、君の人生は続いていく。

 もし私が君の立場だったら、きっとつらくてつらくて仕方がない。

 だけど、最後に私のわがままを聞いてくれるかな?


 どうか、生きて。


 「色のなかった僕の世界に、色を与えてくれたのは君だ」って、前に言ってたよね。

 もし私がいなくなって、世界から色が消えてしまっても、どうか生きて。


 ごめんね、本当に無責任でわがままなのは分かってる。


 だけど、私の世界に希望を与えてくれた君には、幸せでいてほしいから。


 世界は、こんなにもきれいだから。


 嫌なことも嬉しいことも、全部全部ひっくるめてきれいって思えるようになったのは、君のおかげだから。




 でも、もし君の世界から色が消えちゃった時のために、とっておきをのこしておきます。


 次のページに、最後まで振り回してごめんねっていう私からのプレゼントと、ちょっとだけの言葉が書いてあるよ。



 今まで、ありがとう。


 大好きだよ!

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