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「ほら、世界はこんなにもきれいなんだよ」
そう言って微笑んだ君が、世界で一番きれいだった。
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「お花見行こうよ、お花見!」
「えぇ、場所取り大変……」
「場所なんてとらなくても、一緒に歩くだけでもいいから!ね?」
君と歩いた桜並木は地面までも桜色に染めていて、そこをくるくると歩く君はまるで桜のようだった。
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「夏といえば?」
「……蚊?」
「海だよ、海!ということで、泳ぎに行こーう!」
君とかけあった水はキラキラと太陽の光を浴びて輝いていて、それを浴びてはかけ返してくる君の笑顔もキラキラと輝いていた。
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「トリックオアトリート!お菓子くれなきゃいたずらするぞ!」
「……それ、なんの仮装?」
「え?虫歯菌」
君と一緒に食べたお菓子は君の好きな甘いものが多くて、それを食べる君との時間も甘かった。
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「ねねね、スキーとスケートどっち派?あ、スノーボードでもいいよ」
「スキー」
「わ、即答だ、珍しい。じゃあ一緒に行こうね!」
でも結局スケートも行きたかったらしく、スキーもスケートも寒かったけれど、君と繋いだ手は暖かかった。
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「ねぇ、最期に、もう一回桜並木見に行こう?」
「……最期だなんて言わないで」
「ははは、ごめんね」
病院から許可がおりた頃にはもう桜はかなり散っていて、それを静かに見つめる君はまるで散る直前の桜の花びらのようだった。
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君と付き合ってから、一年と半分も経たない頃。
君は、静かに息を引き取った。
君と出会うまでの僕は、空虚で、何もなかった。
こんな僕と一緒にいてくれた君が、夢だったんじゃないかと思いそうになる。
君がいなくなった後の世界は、まるで君と出会う前の世界のように色がなくなった。
だけど、君が夢じゃない証拠。
それがこの日記。
僕は君がいなくなってから渡されたこの日記を、一年以上経っても一度も読んだことがなかった。
なぜか、怖かった。
だけど、なぜか急に読もうと思ったんだ。
僕は、ピンク色の日記を手に取った。