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華麗なる復活劇、バンザーイ!



結論を申し上げよう。


神田川先輩が、満を持して臨んだ水泳の地区予選大会。


奇しくも失格。そして、なんの成果も戦歴もなく、ここに閉幕。


神田川氏は、『失格』の洗礼を受けたのち、前回同様、ビオレゆーでシックスパックのアミダくじを洗い流すも、今回は二度目ということで、出場は許されなかった。




(ちなみに以下、一年前の地区予選の結果 参照)



『T大学生新聞 記事一部抜粋』


『某日、○○市民体育館の競技用プールで行われた「全国大学選抜水泳競技大会県予選」に、当大学理学部3年の「神田川素意成さん」が、代表選手として出場した』



『競技直前、神田川さんは腹筋シックスパックに「模様のようななにか」が描かれていることを指摘され、これがタトゥーを禁止している大会規約に抵触するのではないかと一部の選手が騒ぎ出し騒動となった。これに対して水泳連盟は、この模様を「タトゥーのようななにか」と認め、出場を認めない意向を表明。しかし神田川さんは「これはタトゥーではない、読サーほにゃらりの部員による汗と涙の結晶、応援激励メッセージなのだ(←実際は長谷部のイタズラ)」と主張し、え? キミ水泳部じゃないの? と大会側を一層、混乱させた』



『水泳連盟会長、斉藤氏の「タトゥーならまだしも、アミダだと? けしからん⁉︎ (謎の逆上)」の一言はあったものの、大会側はシャワー室でビオレゆーを使用すれば出場を許可するのはやぶさかではないとの見解を固め、神田川さんはその指示に従うことで、出場権を得た』





以上のように、1度目は許され、結果を残して全国大会へと進んだ。


けれど、残念ながら、今回は認められなかった。


このことで、神田川先輩は真っ白な灰と化し、そして弓月さんは新聞紙を貸したことで、「十分の一程度は、私にも責任がある」と言って、痛々しいほどに、涙していた。


もちろん、弓月さんはなんもなーんも1ミリもこれっぽっちも悪くない。下痢になった神田川が悪い、そもそもいつもビキニの海パンいっちょうで、常々腹を出しているのが悪い、と、地球上の生きとし生けるもののすべてから叩かれた。


灰になってしまった神田川先輩は、読書サークル研究会ほにゃらりの長を降り、そして僕、長谷部が後を継いだというわけ。


今回の僕の昇進には、そんな事の顛末があったのだった。






だがしかし。ここで奇跡が起きる。


灰になって抜け殻のようになり、ヒラ社員となった神田川先輩が、読サーのサークル室で茫然自失なまま、大の字になっていると、『ピリピリピリ』とスマホが鳴った。


神田川先輩は、どうせ炎上電話だクレームだ、などと弱々しい声で呟きながら、スマホを取り出し耳に当てる。


「はい、アミダの貴公子(自称)神田川です」


こいつ、ぜんっっっぜん反省してねえ。


「え? はい、はい。まあ、実際? アミダ王子(自称)とか、アミダの悲劇とか、呼ばれていますけど……ほ、本当に僕で良いんですか?」


先輩は神妙な面持ちで、ハイハイウンウンと頷いている。


「そんな、ポッと出の、僕なんかが……いや、ありがたいお話ではあるのですが……」


なにか良いことがあったらしいと窺える。


それにしても、いったい?


「……はい。……はい……いやいやいやいや、やりますやりますやります」


なんかよくわかんないけど、必死だな。


「はいぃー、はいぃー、こちらこそよろしくお願いいたしますぅ」


営業か。


先輩が電話を切り、スマホをジャージのポケットへと滑り込ませるのを見届け、そして僕は訊いた。


「先輩、今の電話、なんだったんですか?」


すると、さっきまで死んだ魚の目だった神田川先輩の瞳に、メラメラと火が灯っていくのを見た。


「長谷部。俺は本日、正式にこの読サーほにゃらりのサークル長を降りようと思う」


あ、僕、今まで『仮』だったんですね。


「わ、わ、わわ、わかりました。そういうことなら、僕が正式に先輩の後、サークル長の職務を受け継ぎます」


「うむ。長谷部、おまえならやれる! そしておまえならできる! 神の与えし……(中略)……というわけで、俺はこの愛すべき読サーを卒業することにした。読サーのことは、おまえに頼んだぞっ!」


「イェッサー! 承知しました! ……で、電話はなんだったんですか?」


「おう。あれはな、聞いて驚け。俺に、〇〇県の観光大使のオファーが来た」


「へっっ⁉︎」

「フェっ⁉︎」


あれ、すみっこパイセン、そこにいたんですね。出番少なっ。ま、いっか。華麗にスルー。


「それは、どういうことですかっっ」


「うむ。きっかけは、あの例の件だ」


「えっ! あの水泳大会での、黒歴史の?」


「うむ。俺はあの日、確かに下痢の腹に新聞紙を巻いたことが仇となり、失格となった。だがな、どうやらそれが功を奏したらしい。〇〇県の観光協会の関係者の面々が、俺の不甲斐ない勇姿(←我が人生に一片の矛盾なし)をテレビで見ていたそうだ」


「どどどどどういうこと?」


まだ事態が飲み込めていない。神田川先輩は続けて言った。


「〇〇県にな。阿弥陀如来をまつっている、無名の寺があるらしいんだが、そこを観光名所というか、今流行りの有名なパワースポットにすべく宣伝していきたいと。そうして、アミダくじをシックスパックに持つ男、この神田川に白羽の矢が立ったらしい」


「……ふ、ふーーーん」


なんだそれ。そんな理由?


観光大使って、そんな基準で選んでいいの?

先輩はまだ学生だからギャラは安いだろうし、ちょいアフォだから扱いやすいだろうけど。


軽ぅぅぅ。軽いし、意味不明ぇぇ。


でもまあ、生きとし生けるものすべてから非難轟々だった先輩の顔に、生気が戻った!

ありがとう、どこぞの観光協会の御方よ! 屍だった神田川先輩に、みごと復活の息を吹き込んでくれて!


「そんなわけで長谷部。あとで俺のサインをやるから、俺のシックスパックにアミダくじを描いてくれ」


「…………」


あそうか。自分では描けないやつやん。そして自信満々で、先輩はこうのたまった。


「なんなら、サークル長は弓月に譲って、俺の運転手兼マネージャーやるんでもいいぞ?」


あーうぜーし、虚しーー。  




終わり



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