おおきなブカブカ
カブは日本古来より食べられています。
春の七草の一つでもあり、健康的な食べ物で知られています。
この物語は、柴野いずみ様主催の『スパイス祭り』参加作品です。
スパイスをふんだんに使ったカブ料理のお話……ではありません。
既出の小説の人物が登場しますが、独立したお話です。
むかしむかし あるところで
おじいさんが カブを うえました。
そのカブは おおきく おおきく
とっても おおきく なりました。
おじいさんは おおきなカブを ぬこうとしました。
うんとこ どっこい どっこいしょ。
でも おじいさんが ひっぱっても ぬけません。
まごの むすめさんが てつだってくれました。
うんとこ どっこい どっこいしょ。
いくら ひっぱっても ぬけません
いぬと ねこと ねずみが てつだって くれました。
うんとこ どっこい どっこいしょ。
みんなで ひっぱっても ぬけません
おじいさんが ふんと ちからをいれました。
すると おじいさんの うでや あしが もりあがりました。
とっても ふとく なりました。
びりびりと おとがしました。
ブカブカだったはずの おじいさんのズボンが
はちきれるように やぶれました。
おんなのこと いぬと ねこと ねずみは
ひっくりかえりました。
おじいさんは ひとりで カブを ぬきました。
パンツをはいた おじいさんが カブを ひっぱっていきました。
* * *
「偉文くん。お話がみじかいんだよ。それに寒い国のお話だから、女の子が半袖だとヘンなんだよ」
暦ちゃんが僕に言った。
安アパートで独り暮らしをしている僕の部屋に、小学生の従妹二人が遊びに来ている。
姉妹で僕が書いた絵本の案を見ているところだ。
妹の方の暦ちゃんは物知りな女の子だ。
「今回も絵がなんかイマイチなんだよ」
「ねえ。それ、あたしも描いてみる。色鉛筆借りるよー」
姉の胡桃ちゃんは絵が得意なんだ。
別の紙に絵を描き始めた。
その間に、僕はキッチンに移動した。
今日は僕が二人におやつを作ってあげることになっている。
パンの耳だけがたくさん入った袋を取り出した。
今朝、パン屋さんで安く買ってきたものだ。
まな板の上で、これを包丁でサイの目に切る。
ボウルに生タマゴを割り、少し牛乳を入れた。
菜箸でタマゴを崩してよく混ぜる。
そこにパンの耳を入れて混ぜた。
フライパンにバターを落とし火にかける。
バターが溶けたところで、タマゴをからめたパンの耳を入れた。
フライパンの中でパンの耳が重ならないようにして、まんなかで集める。
しばらくおくと、全体が固まってくる。
フライ返しを使ってひっくり返した。
火が通ったところで、砂糖を全体にパラパラとかける。
しあげに、シナモンパウダーを振った。
全体がかたまりになっているので、菜箸でいくつかに分けた。
小皿に移して、フォークも皿に置く。
「おまたせー。フレンチトーストのできあがり~」
僕がお皿を持って戻ると、従妹たちが「わ~い」とか言っている。
「いただきまーす」と言ってすぐに食べ始めた。
冷たいジュースの入ったコップを2つ、卓袱台に置いた。
僕の分の飲み物は、濃く淹れた紅茶にショウガの絞り汁とミルク、砂糖とシナモンを入れた『なんちゃってチャイ』だ。
「偉文くん。紅茶にシナモンを入れてもおいしくないと思うんだよ。ふつうのミルクティーの方がいいんだよ」
「そんなことないよ。暦ちゃん。これが意外とおいしいんだ」
子供にはまだ早いかな。
暦ちゃんは、コップのジュースを少し飲んだ後、こっちを向いてニコッと笑う。
また何か変なことを思いついたかな。
「シナモンとかけまして、毎日の出来事と解きます」
いきなり、なぞかけ?
「その心は?」
「どちらもニッキなんだよ」
香辛料のニッキと日記をかけたんだね。
どうしてこの子は、こういうくだらないことをすぐに思いつくんだろうね。
絵本のネタに使えるかな?
僕はその時、机の上に載っている絵に気がついた。
胡桃ちゃんがさっき描いてたものだろうけど、なんだこりゃ?
「胡桃ちゃん。これって絵本の挿絵を描いてたんじゃないの?」
「へへへ……。人形劇で使えそうだから、人形の案を描いてたの」
胡桃ちゃんは笑って答えた。
紙人形の設計図というか、仕様書のようなもの?
彼女たちは放課後クラブで人形劇を開催している。
手作りの紙人形で、子供たちを相手に劇をやっているんだ。
暦ちゃんも図を見ながら言った。
「おじいさんの手足がふくらむのと、ズボンがやぶれる人形なんだよ。工作が得意な子に作らせるんだよ」
「ねえねえ、偉文くん。人形劇で子供たちに感想をもらえれば、絵本にもいかせるんじゃない」
言われてみれば、そうかもしれないな。
元々ロシアの民話『おおきなかぶ』のパロディだしね。
「お話が短すぎるんだよ。カブが出てくる昔話ってない?」
暦ちゃんが聞いてきた。
「カブは思いつかないなぁ。ダイコンならいくつか知っているけどね」
擬人化したダイコンとニンジンとゴボウがお風呂に入るのがあったな。
吉四六の話でダイコンで船を作るのがあった。
海に浮かべていると沢庵の船になっていたな。
『11ぴきのねこ』の作者が書いた『きつね森の山男』ではふろふき大根がでていた。
僕が知っているダイコンの話をふたりに紹介してみた。
が、大きなカブと組み合わせるのは難しそうだった。
「じゃあ、カブを育てるシーンを長くすればどうかな。タネまきとか水やりとかやって、娘さんも畑仕事を手伝う場面もいれればいいよ」
「あ、いいかもね。カブを少しずつ大きくすればいいんだ」
胡桃ちゃんが答えた。
さてと、僕もフレンチトーストを食べようかな。
まだフライパンに残っている。
「「おかわりー」」
仲良し姉妹が、からっぽになったお皿を差し出していた。