視線
「ちょっ!! ……どういう事。これは」
隠見は驚きの声を発したのは自身の願い【ココ】を押して、確認したんだろう。その願いは的を射ていたわけだ。
「内容は確認しないが、合っていたのか?」
念のため、隠見に確認する。ここで嘘を吐いても意味はない。内容を確認しない。どんな馬鹿げた事でも、本人にすれば真面目な話である事もある。本当か嘘か、どちらでも良い。
「……私が願うとすれば、これなんだと思います。今回の事件の全容とかじゃないですよ」
「そうか……彼がプレイしていたゲームは分かった。これ以上の情報は無いと思う。これからどうするんだ?」
河相宗がプレイしていたゲームが分かっただけでなく、隠見が【ボーダーライン】の参加資格を得たのは十分な収穫ではある。
「そうですよね。さっき連絡したんですけど、本部に戻りますね。真実さんに依頼しておきながら、簡単に終わるとは思いませんでした」
本来【ボーダーライン】の情報は手に入れただけで終わるほど、捜査零課の依頼は易しくはない。だが、今回に関しては参加資格、人数が決まっている。他の事件から、俺が関与するのは他の部署が許さないだろう。
「別にこんな時があっても良いだろ。隠見はこれを継続……このまま担当になると思うか?」
隠見は苦笑いを俺に向けてくる。彼女は捜査零課の刑事だが、一人だと不安な部分があるから俺を頼ってきた。上司もそれは分かっているのかもしれない。
だが、【ボーダーライン】に参加出来るのは一人だけ。しかも、事件解決に必要な情報がこの中にある。危険でも飛び込むしか方法はない。【譲渡】を使用すれば他の刑事、ベテランに任せる事も可能ではないだろうか?
「……私はやってみたいと言うつもりですよ。勿論、死ぬつもりはないですから。ゲームなんだから、攻略法とかアドバイスとか、真実さんに聞きに行きますからね」
「やってもいないゲームのアドバイスとか無理があると思うが、好きにすればいいさ」
隠見の不安や恐怖を軽減出来るなら安いものだ。彼女は危険を承知で挑もうとしてるのは刑事としてなのか、クリア報酬である『願いを叶える』ためなのかは置いておこう。
「はい。それでは河相宗の母親に連絡を入れて、外に出ましょう」
内線で母親に連絡し、河相宗の部屋を出る。母親が門まで送り届ける事はしない。庭をよく見ると監視カメラが存在し、俺達がいる向きに方向転換している。
「念のため、この家の監視カメラの映像も提供してもらったらどうだ? 出るまでの行動を確認出来るだろ」
豪邸の方へ目を向けると、視線を感じた。監視カメラの無機物的ではない。探偵の仕事柄か、人の目には敏感になっている。
母親ではない。豪邸の二階、カーテンで隠れる事もせず、眼鏡を掛けた若い男がこちらを見ていた。男は俺が気付いても視線を外さない。殺意ではなく、値踏みするような……いや、本当に彼の視線で合っているのか?
「あの母親の態度だと拒否すると思いますけど……どうしました? 彼は河相以蔵……一度も話す事は出来てないんですけど、弟の事故の事をどう思ってるんでしょうか」
隠見も河相以蔵の視線に気付くと、カーテンを閉めた。彼がどちらを見ていたのかは分からない。
★
「あそこまで調べると気になるが、踏み込み過ぎるのも危険だよな」
俺は隠見の車で、埠頭にある事務所まで送って貰った。流石に本部までついて行くわけにもいかない。【ボーダーライン】については興味はあるが、命の危険がある。そんな危険は何度か経験してる分、何時失敗してもおかしくない事は俺自身が一番良く分かっている。
「依頼でも来て、気を紛らわせる事が出来たら……って、新しいメッセージ? しかも、メイデンからかよ」
事務所HPの掲示板に依頼は無かったが、メイデンから新しいメッセージが届いていた。