ゲームが日常を侵食していく
「うわっ!! ……普通の部屋ですね。恐怖で錯乱して、荒らした形跡もないですし」
河相宗の部屋は1Kの古びた家みたいな感じで、普通だった。台所と冷蔵庫があるのは、家族と一緒に食事もしてないのだろう。それに三点式ユニットバスも備え付けられているのも、彼に豪邸の方へ足を踏み入れて欲しくなかったわけだ。
「PCは一台、漫画も置いてある。壁にはゲームキャラの限定ポスターか。冷蔵庫の中身も充実してるし、ベッドもある。一応、不自由ない生活はさせてもらってたみたいだが」
「けど、河相宗は学校を行くのを止めて、バイトをしてたらしいですから、お金を自由に使えるまではなかったと思いますよ」
隠見は河相宗の家族構成でなく、彼がどんな生活をしていたのかは前もって調べていたみたいだ。
「それでも最低限の生活費ぐらいは貰っていたんだろ。思ったんだが、河相宗は【ゲームが人を殺す】と言っておきながら、何故外に出たんだ? 危険だと分かっていたのなら、この倉庫みたいな部屋に引き込もっていたら安心だろ」
部屋に争った形跡もないし、この豪邸の敷地内に入るのも難しいんじゃないだろうか。冷蔵庫の中に備蓄も確認したし、ドアを開ける鍵も一つしかない。
「ゲームだから、PCの中から何かが這い出てくると思ったのかも。鏡もあるわけだし、何処から何が飛び出すのが分からないのが怪奇現象だから」
「それを言われるとな。一番調べないと駄目なのはPCか。パスワードは家族が知ってるとは思えないし、解析するところから……ん?」
PCが置かれている机はペットボトルやお菓子の袋で一杯なのだが、それ以外にノートが一冊。しかも、表紙に行動記録と書かれている。
「日記? いや、ゲーム好きなら攻略を書き込んでいるノートか?」
ノートを開いてみる。一冊全部が埋まっているわけではなく、ここ最近書き込んでいたようで、ページ数もそれ程だ。
「私も見せてください。家族に対しての呪いとかじゃないですよね。それだとノートが大量に残ってそうだけど」
「日記とゲーム情報の両方か? 【ゲームが人を殺す】と河相宗が言った理由はこれかもしれない」
バイトの帰り道、猫の死体を発見した。車で轢かれたわけじゃなく、首と胴体が分かれていた。そういえば、昨日、始めたばかりの・・・で猫の人形をこんな風にしたけど、罪悪感で同じように見えるだけか?
ゴミ捨て場はそこまで汚くないのに、ネズミが大量発生していた。群がった状態で、何かの肉を噛み千切っていて……ゲームでもその光景を見た。あの時は人間の死体を……
ゲーム仲間が怪我をした。それもゲームで受けた箇所と同じ。血は止まらず、痛みも消えない。病院に行く前に、ゲームにログインして、回復薬を使った。すると、現実の怪我も消えたらしい。そんな事は本当にあるのか?
お金が必要だ。人を上手く利用しないと駄目だ。言葉の真偽は重要だ。
仲間がミスを犯した。仕事でログインを忘れてしまった。その一回で、ゲーム内で死亡扱いに。連絡を取ってみるけど、音信不通。本当に殺されたわけ……ログインは必ずしないと……
河相宗の日記はまだ続いている。
「日常の事を書いてるけど、不気味ですね。ゲームが現実を侵食してるような感じがして」
隠見が呟く。この日記が本当に起きた事なのか、俺達は見ていないのだから判断出来ない。猫の死体やネズミの人喰いは目の錯覚、ゲーム仲間に関しても怪我の回復は『~らしい』と直接見てないんだろう。これも嘘の可能性はある。ログインしなくなり、音信不通になったのも河相宗が何かをして絶交された形なのもある。
だが、河相宗が死んだのは事実。これがゲームの出来事が影響したと否定する事は今の状態では不可能だ。