黒く塗り潰された絵
「それを説明するためには……メイデンを屋敷に入るのを許可出来るか?」
「それは……」
隠見はメイデンが屋敷に入る事を躊躇する。隠見の上司は俺の事を知ってるようだが、メイデンは別。事件とは無関係の状況だ。
「メイデンは河相久内が盗みを働いた可能性があると情報を提供した。それが本物なのかを確認するぐらいはいいんじゃないか?」
河相邸を封鎖していた警察の耳を気にしての建前。メイデンが屋敷に入るための理由を提示している。
「……こいつは霊感、もとい怪異の存在に敏感なんだ。あの屋敷に河相宗が本当にいたのか反応出来るかもしれない」
これは隠見に聞こえるぐらいの小さな声で話した。あの警察達が怪異を信じるとは思えず、こちらを怪しむだけで、逆に追い返されるだろう。
「うっ……少しでも情報を手に入れるためにも、仕方ありません。私達と一緒なら許可します。ただし、絵画を渡す事は今の状況では出来ませんから」
隠見は渋々といった顔で、メイデンの河相邸の出入りを条件付きで許した。
「流石に警察の前で奪い返す程、馬鹿じゃないから。中に入れて貰えるだけ御の字だから。本物かどうかも確かめられるし」
さっきまで、その警察に突っ掛かっていた奴の台詞ではないのだが。
「けど、視る事に関してはそこまで期待しないでよ。探屋もその体質だし、名前……」
「隠見、隠見真琴です」
「探屋と一緒の名前……隠見も怪奇の捜査をしてるぐらいなんだから、少しぐらいは感じるでしょ。あまり変わらないから」
メイデンは謙遜している……いや、普通の人とは全く違うと思われたくないんだろう。長い付き合いで分かった事だ。
「でも……期待はしてますよ」
隠見は圧ではなく、純粋にそう思っているんだろう。悪意はなく、メイデンのタメ口とかも気にしていない。
「では、行きましょう。私が先頭で行きますから、気になったところは教えてください」
俺達は隠見を先頭に河相邸の中へと入った。
「門を潜った後から……って事は全然なさそう」
メイデンはボソッと呟く。本当に屋敷から怪奇が広がっていくのでは? さっきまで軽口を叩いていたが、警戒はしてるようだ。
「入りますよ。真実さんも知ってると思いますが、最初に河相家族の自画像があります」
【ボーダーライン】で屋敷に入った時の構造と同様なら、そうなる。ただし、その家族写真は顔が黒に塗り潰されていた。
「何でそんな説明なわけ? 初めて入るのに、内部は知ってるみたいな。そこは動画にも取り上げられてなかったと思うけど」
メイデンの疑問に対して、【ボーダーライン】の説明が必要になる。俺は先に進みながら、メイデンに現在の状況を話す事にした。
河相邸の出入口。最初に目に入るのは大きな家族絵。それは河相夫婦と以蔵の三人……いや、ある場所だけ黒く塗り潰されている。そこに入るのは河相宗なのかもしれない。【ボーダーライン】では宗の場所は何もなかっただけに、逆になっている。
「ゲームで起きた事が現実にも反映される事があって、VIPという謎の集団もいる……記憶にある場所がSTAGEAにもなってる。どういうわけか、この屋敷の体験版だけど、舞台になってたと……」
メイデンは渋い顔をしている。内容が内容だけに、信じられない部分があるかもしれない。怪奇であるかと言えば難しいからだ。
「その痕跡をここに確認したわけなんだ。出入口は何も感じないし、見えないんだけど、二人はどう?」
彼女は怪奇現象が起きないか、周囲を警戒している。
「私は何も……私達警察が引き上げ、静かになったぐらいで……事件が起きたって事で不気味な雰囲気は残してますけど」
あの家族の肖像画が雰囲気の不気味さを増してる気がする。二階に上がるのにも前を通らないと駄目なのだ。
「俺も……」
言葉が止まった。肖像画の下、そこに死んだはずの河相久内が立っていた。




