捜査零課
「お前が持ってくるのは依頼というより、協力要請だろ。しかも、まともな事件だった事がないぞ」
隠見が所属するのは捜査零課。霊や怪奇現象、噂により発展された事件を追う部署だ。彼女と出会ったのも【埠頭の悪魔】という噂を聞きつけ、隠見が捜査してるところを協力するはめになった。
というのも、最初、隠見は俺を【埠頭の幽霊】の犯人だと決めつけて行動していたからだ。実際、そこに住んでいたのは俺なんだけど、別の倉庫で密売を働く奴等がいたわけだ。
まぁ……未だに倉庫近くでイタズラや肝試しをする馬鹿達はいるんだけど……
【埠頭の悪魔】は怪奇現象ではなく、名前負けした事件だったわけだが、それ以外にも隠見は何度も事件解決の協力を頼むようになってきた。
零課は向き不向きがあり、人手不足らしい。その中で、俺は適応しているらしい。隠見の上司にも言われた事だ。協力する代わりに、ある程度の違法捜査、色々な事は目を瞑る事になっており、拒否する事が出来ない。
「今回は大丈夫ですよ」
「『ニュースになってる事件の一つですから』とか、言うつもりはないだろうな。名前からして明らかに零課が受け持つ事件だろ」
【首狩り族】の内容ならまだしも、他の【透明人間】や【家中神隠し】、【悪魔の人形】は都市伝説、怪奇案件だろう。
「そうなんですけど、ニュースで報道された以上、捜査一課が受け持つ事になって……全部がH県で起きてるわけでもないし」
どうやら、零課は捜査権はそこまでないみたいだ。俺達が住んでるH県で発見されているのは【首狩り族】事件だけという事もあるかもしれない。
「それとは別で【ゲームが人を殺す】という怪奇現象が今回の依頼なんですよ」
「ゲームが人を殺す? 意味が分からないぞ。ゲームで起きた事が現実に起きたって事か?」
「そこまで詳しくは分からないんですよ。被害者は最初、別の部署に相談したみたいで、彼が亡くなってから、私達の方へ回されてきたから。ゲームが得意な探屋さんにはもってこいじゃないですか」
被害者が死んでから零課に回ってきたという事は、被害者が相談してきた時、荒唐無稽な話で、別の部署はまともな対応をしなかったんだろう。情報が曖昧なのはそういう事だ。
「別にゲームが好きなわけじゃなくてだな……そういう意味で大丈夫だと言ったのかよ。はぁ……その【ゲームが人を殺す】が何のゲームなのかは確認出来てるのか?」
「それが何のゲームなのか……これから被害者の家に行くので、一緒に来てくださいね。勿論、了承を得ているから安心してください」
「了承を得ている? 警察は子供の相談を無視した時点で信用を無くしてるだろ」
荒唐無稽な話でも警察は何もせず、子供を死に追いやったとなれば犯人だけでなく、警察を許さないと思う。
「そこは問題ないというか……車の中で続きを色々と説明しますね」
やはり、俺には拒否権はないらしい。車を所持してないので、隠見の車に乗車する。
「被害者の名前は河相宗、十六歳。死因は圧死。深夜に建設中の建物に忍び込み、外れた鉄骨に潰されたそうです。彼はイタズラをするためなのか、無断で侵入したという事になってます。そして、今は事故死と判断されてる状況ですね」
話を聞く限りでは怪奇現象とは無関係の単なる事故死だと判断されるだろう。不法侵入をしているなら原因は河相宗自身にもある。
「深夜ともあって目撃情報は無かったみたいですけど、建設現場には監視カメラが設置されてまして、そこには挙動不審の彼が映し出されてたんですよ。それもキョロキョロと周囲を見回して」
「イタズラをするつもりだったなら、警戒するのは当然なんだろうが、隠見達は違う可能性もあると踏んだわけだ」
「はい。イタズラのためかもしれないけど、誰かに追われていた……という可能性もあるわけで。監視カメラには河相宗以外は誰もいない……けど、似たような事が起きてるのは知ってますか?」
「監視カメラには河相宗以外、誰も映ってない。追われている……となると【透明人間】の事を言ってるんだよな」




