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ボーダーライン ~人為と怪異の狭間~  作者: 迷探偵
第一章 開始前
17/98

侵食

「アイツはこの埠頭を少し弄くったと言っていたな」


 アイツというのは【ボーダーライン】の世界で、俺と同じ声で語りかけてきた奴だ。まるで、もう一人の俺であるかのような振る舞いだったが……


 コンテナの位置はあの時とは違って、無造作に置かれている事はない。綺麗に並び、積み重ねられている。


 他には男達が平和そうに釣りを楽しんでいたりもするのだが、そこに違和感が一つ。ドラム缶が階段のように並び、そこに男達がもたれたり、腰をかけて座っている。


「どうです。釣れますか?」


「ん? 今のところ全然だね」


 俺は釣り人達に笑顔で声をかけた。探偵の仕事柄、人に話し掛けるのはお手の物だ。というのも、隠見と一緒に出た時は見てなかったが、昨日まではドラム缶の階段は無かった。


「ドラム缶が階段みたいになってますけど、座るのは熱くなったりするのではありません?」


「タオルを置けば大丈夫だよ。近くにあったドラム缶を、ここにいるメンバーで動かして椅子にしたんだ。山にすれば丸くても重みで動かないから」


 このドラム缶は自然に動いたのではなく、男達の椅子代わりとした移動された。置いてあった場所も違い、無理に関連付けようと疑心暗鬼な自分がいるのかもしれない。


「貴方は釣竿を持ってないようだが、何しにこんな埠頭に?」


 話を切り上げるつもりだったが、釣人は会話を続けてきた。釣れる気配がなく、暇を潰したいんだろう。こちらが質問した以上、少しは相手をするのが礼儀だろう。


「散歩といえばいいのか……仕事場が近くにあるので」


「倉庫仕事か、運送系かい? 仕事場が近いなら知ってると思うが、ここらは物騒だから。特に夜は迷惑な人間達が集まってくるらしいよ」


 釣り人は俺の事を心配してくれてるようだ。そういう奴等がいたのは勿論知ってる。


「それでも最近は現れ」


「誰がやったんだろうね。犬の死骸があったんだよ。何かで殴れた感じで泡を吹いてさ。今日は犬の姿をよく目にするけど……犬じゃなく、人を襲う奴かもしれない。十分気をつけないと」


「……そうなんですか。ご忠告感謝します。その死んだ犬は何処にいますかね?」


「あそこの倉庫の入口だよ。誰かが片付けているかもしれないけど」


「ありがとうございます」


 埠頭に多数の犬が存在するだけじゃなく、その死体もある。ここまで【ボーダーライン】と似た状態になっていると、全てが偶然だとしてもゾッとする。


 俺は釣り人達から離れ、犬の死体がある倉庫前に向かった。


「あった……まだ片付けてられてないか」


 倉庫前に犬の死体を置くのは、まるで誰かに見せつけるようだとも考えられるが……俺があのゲームで最初に殴った犬に似ていた。数多くの犬がいたが、やはり最初に襲ってきた犬は印象が残っている。


「VIPの誰かが俺を驚かすために? いや、それでも行動が早すぎる」


 この埠頭の場所を見つける事もそうだが、犬の死体を用意する事も一、二時間では無理だ。全てが気のせい……で済ませられなら、怪異に何かに関わっていない。


「今日は埠頭の全体を見て回ろう。体験版の中の攻略のヒントがあるかもしれない」


 スタートがどの場所か把握していれば、近道を使えるかもしれない。それに次が同じ場所から始まるとも限らないからだ。失敗したとはいえ、更に難度を上げてくる。もしくは、【送り犬】とは別の怪異、殺人鬼を出現させる可能性もある。


 ふと視線を感じた。後ろを振り返るが誰もいない。だが、犬の遠吠えが聞こえたようなした。

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