送り犬
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「一体何が……あの犬に首を噛み千切られたのか?」
【ボーダーライン】の体験版で死亡した時、強制的にログアウトされるらしく、俺は目の前のPCを見つめる姿になっている。そして、思わず自分の首が繋がっているのかを確認するよう、手が首を触っていた。
「【麻酔薬】を使ってなかったら……」
あまりの痛みに発狂する……それを感じる前に死んでしまっているか? だが、理由が分からない。襲ってくる犬を倒しても無反応であり、こちらが寄っても距離を取る。出口付近で変化する可能性もあるが、全く前触れもないのはどうなんだろうか?
「あの時は転んだだけで……それが原因なのか?」
転んだだけで問題になるのか。犬に関して言えば、都市伝説、怪異は存在している。捜査零課、メイデンの依頼から暇な時には調べてみる事があった。
それは【送り犬】という妖怪、別の名で【送り狼】とも。各地で様々な説がある。山道の中、後をついてくる犬。自身が転んだ時、食い殺されてしまう。その犬が体当たりをして、転んでしまった時には無数の犬達が襲ってくる。
助かるためには転んだのではなく、休憩をしたと思わせる。座ったり、『しんどいな』や『どっこいしょ』と声をかけるのもいい。他には山道を抜けた際、感謝の言葉を投げる。一品を与える等、これもまた様々。
「山道ではないが、この話を利用しているのなら試してみる価値はあるか」
【送り犬】をモチーフにしているのなら、攻略法も同じではないだろうか。この話を知らなければ対処法は思い付かない。
「おっと……隠見から連絡が来てるな」
スマホを見ると隠見からメッセージが届いてた。内容は【ボーダーライン】参加が決まるのは明日、明後日になる事。他の事件と関連性があるため、他の部署と話し合いが必要らしい。
「取り敢えず、体験版で起きた事をメッセージでも報告しておくか。ある意味、捜査零課が合ってるという事もくわえて」
【ボーダーライン】が殺人鬼だけでなく、【送り犬】のような都市伝説、怪異を利用するなら、それ専門の部署、捜査零課でなら臨機応変で対応出来る可能性は高い。それが隠見なら更に動きやすくなるだろう。
それと一番重要な可能性があるVIP達の存在。俺達プレイヤーの行動を見て、Gを与えたり、コメントによっては場が乱れる。それはCPUではなく、現実の人間が行っているのではないか? Gが電子マネーに還元出来るのも理由の一つ。
それだけでなく、こんな残酷な出来事を楽しんで見れるのも人間だからではないだろうか。
「ふぅ……一度外の空気を吸いに行こう」
時計を見ると【ボーダーライン】の体験版をしたのは一時間程度。だが、本当に現実なのかどうかを確認したい気持ちになった。
「VRゲームは慣れてるはずなんだけどな」
時間は昼を過ぎたぐらい。あのゲームとは違って、青い空が広がっている。【ボーダーライン】でのスマホで赤い空を【カメラ】で撮り、現実で本当に見れるのかを試してみれば良かった。
「まだ体験版の期間はある。明日にでも試せば……うおっ!!」
強い風が吹いた。そして、コロコロと転がってきたのは人の顔……それが一瞬俺自身の顔に見えた。【ボーダーライン】で、首と胴体が切り離された事が頭の中に残っていたのか。
「に、人形か。このタイミングだと流石に驚くぞ」
この埠頭では不法投棄をする人間が多く、壊れた自転車やダイエット器具。何処かのマスコット人形でさえもある始末。転がってきたのもその一つだと考える事が出来る。
それは正解だったようで、転がってきた先の方へ目を向けると、裸の胴体部分があった。
それも犬が不法投棄のゴミの中に餌を漁ってる最中。首を飛ばしたのはあの犬なんだろうが……
「俺自身が何かをされたわけじゃない……偶然だ」
犬、首と胴体が離れた人形が、ゲームの中の自分と重なってしまう。思わず、埠頭内で現実と先程体験した【ボーダーライン】の共通部分を探して回る事にした。




