スパチャ
「この中で一番厄介なのは【チャット】だ。今は体験版だから、俺達の声は聞こえてないが、アイツらには筒抜け。プレイヤー達の行動を見る視聴者だな」
【ヘルプ】から【チャット】へ機能を切り替える。
視聴中 150
500G入金
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V1 探偵?
V13 探偵だ
V46 推理に期待
V154 期待されての一番最初にやられるパターン
V666 【500G】 最初のGは必要資金
V80 探偵来たら犯罪者のプレイヤーも欲しい
V72 チュートリアルは死んで当たり前だからね
V235 前回もこんな場所あった
V378 戦闘早よ
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と、複数のコメントが流れていく。VはVIPで、数字は会員番号か? 視聴中は現在見ている人数の事だろう。
「Vに【スーパーチャット】で500Gを貰ったな。それがこのゲームに必要な資金だ。現実でも電子マネーに変換出来る。これを貰うためには俺の行動が決め手だ。注目されるような行動、Vが喜ぶ行動が必要になる」
これが河相宗が残した『アピール』という言葉の意味だ。
「だが、喜ぶ行動ばかりすると身を滅ぼす。Vのコメントはアドバイスの時もあれば、嘘を吐く奴もいる。プレイヤーが死ぬように誘導するとかな」
「他に資金を入手する方法はないのか?」
「そこはRPGの宝箱を調べるみたいに、色んな場所を探すしかないな。タンスやツボやら……基本は【スパチャ】だ。【スーパーチャット】を略して【スパチャ】だぞ」
これは難しい。下手すれば、VIPの手のひらで動かされてる状態になってしまう。そうなれば、クリアは不可能。今までがそれを物語っている。
「資金はなくても大丈夫だと思うなよ。現実で使うなんて馬鹿げた事もするな。それは前プレイヤーから学んでるだろ?」
プレイヤーの腕次第だけで何とかなるレベルではないらしい。河相宗もGがあれば死なずに済んだのか。それとも、クリアさせないため、VIP達がスパチャを止めたのかは分からない。
「例えばこれだ」
「今のところ、喉は渇いてないんだが」
埠頭の中を勝手に歩き始め、見つけたのは自動販売機。VRの世界でも飲食は可能。ゲーム世界でも腹は空き、それを満たす事が出来る。
「違う……とも言いきれないが、これがショップなんだよ。スマホと自販機を重ねると、そこからGが引き落とされる。勿論、その分のGがないと買えないわけだ」
自販機には【回復薬】→500G【麻酔薬】→200G【ボーガン】→2000G【矢】→300G【ナイフ】1000G【ドッグフード】500G【手榴弾】→10000Gのラインナップ。
「武器専用、道具専用、場所によって自販機の内容も変化する。自販機限定なんかもあるから場所を記録していいかもな。試しに買ってみるのは【麻酔薬】だ」
「【麻酔薬】……【回復薬】があるのに必要なのか?」
怪我をした場合、【回復薬】が必要なのは分かる。ログアウト時、それをしなければ現実に持ち越される……と河相宗の日記にも書かれていた。
「【回復薬】は万能じゃない。傷を一気に治療するわけではなく、時間の経過と共に回復していく。更に傷の酷さによっては全てを回復出来るとは限らない。【回復薬】より強力な道具が必要だ。そして、重要なのは傷を負えば、痛みがある事だな」
VRゲーム、主にRPGの場合は魔物との戦闘があり、攻撃を受ける事がある。その場合、HPという体力が減り、疲れは出る。だが、痛みは発生しない。あったとしても、ほんの僅かな痛み程度。【ボーダーライン】の場合、その処置がないと考えるべきなんだろう。
「だから、回復は【回復薬】と【麻酔薬】を両方使うのがベスト。【麻酔薬】は痛みを消してくれる。体験版はログアウト時、自動的に回復してくれるから安心しろ」
自販機にスマホと重ねる箇所があり、そこに合わせるとピピーと音が鳴り響く。スマホの画面には【麻酔薬】入手と所持金が-200G→300Gになったと知らせる音だった。




