もう一人の自分
「……探偵でいい」
隠見が刑事だとバレたように職業までも把握されているようだ。いや……そうとも限らない。VRコードと体を繋げる事で情報を引き抜く事が出来る可能性。それは自身が鏡に映っていた事からも考えられる。
「探偵か? 良いじゃないか。興味を引かれるポイントにもなる」
鏡の後ろに何かを置いた台が出現した。そこには幾つもの顔が並んでいた。
「服装はその日に着ている物が反映されるが、固定したい時は言ってくれ。後は……顔だ。勿論、顔を替えるのは無理だが、他のプレイヤーに見られたくない。自分の顔に自信がない奴もいる。そんな奴等のために様々な仮面を用意されてるんだ」
顔といっても様々な動物の着ぐるみの頭、ヒーローの仮面、ただのヘルメット等が種類豊富に置かれていた。
「いつでも取り外しは出来る。付けなくても問題はない。素顔を晒したくないのなら……どちらが好まれるかだ」
『どちらが好まれる』というのはVIPの趣味嗜好か? 河相宗に送られたメッセージの中、VIP達とも書かれている事から複数いるのだろう。
それと被り物で腑に落ちた事がある。河相宗がカエデ=岩波楓だと完璧に判断出来なかった事。被り物をした状態で互いに行動していたのなら、見分けるのは声と名前でしか無理なのだ。
「なら、この黒のフルフェイスヘルメットを付ける」
選んだのはバイクで乗る時に装着するヘルメット。素顔が全て隠れるわけじゃない。隠すためではなく、武器として使用出来ないかと考えたからだ。
【ボーダーライン】にはシザーマン等の殺人鬼が存在している。それに対する武器があるのか、どうやって手に入れるかは不明。頭を守るだけでなく、最初から少しでも威力のある武器として使用出来る物を所持するためだ。
「流石は俺だ。今までの連中とは違って冷静に考えてるな。では、舞台の中に入ろうじゃないか」
俺の意思とは関係なく、体が前に進んでいく。目を無意識に閉じている間にゲームの世界……なのか?
俺がいるのは事務所がある埠頭に似ている。だが、現実と違うと教えてくれたのは空の色。夕暮れのオレンジ色ではなく、赤色に染まっている。
「俺が住んでいる場所を模倣したんだが、勿論 弄っている部分もある」
【ボーダーライン】の世界に入ってなお、俺と同じ声の何かが語りかけてくる。倉庫にある窓にはヘルメットを外したら俺の顔が映り、口を動かしている。
「何故消えない。体を動かしているのもお前だろ?」
「チュートリアルぐらいは許してくれよ。後はお前……俺次第なんだし」
チュートリアル。基本の動き方だとしたら、尚更俺自身で動かないと駄目なのではないか? 話し掛けてくるのが俺自身であるみたいだが……
「すぐにバトンタッチはしてやるさ。まずはスマホを確認するぞ。このゲームで一番重要なのはスマホだからな」
俺の体はスマホを見るように体が勝手に動く。機能として、【通話】【チャット】【カメラ】【ボイスレコーダー】【MAP】【アイテム】【通販】【MISSION】【ログアウト】【ヘルプ】の十個。それと上下の端に【現在の時間】と【所持金】が表示されている。
「この十個の機能について説明するぞ。まぁ……ある程度は予測出来るものばかりだがな。【ヘルプ】を押せば、他の機能の説明がスマホに映し出されるぞ」
俺の指は勝手に【ヘルプ】の機能を押す。
【通話】 離れた場所にいる他プレイヤーとの連絡手段。そのためには互いのスマホを一度重なり合わせる事が必要。
【チャット】 VIP達の流れるコメントを確認出来る。所持金を増やすために重要。
【カメラ】 ゲーム内の景色等を写真に残す。現実に持ち込めるが、閲覧可能なのは参加者のみ。
【ボイスレコーダー】 自身や他者の声を録音する。参加者は現実でも聞く事が出来る。まめに自分の行動を言葉に遺すのもいい。
【MAP】 自身が現在いる場所の地図。移動しただけ広がっていく。他プレイヤーと協力する事でも拡大する事は可能。一度訪れた場所であれば、再度確認出来る。
【アイテム】 買い物や落とし物で手に入れた武器、道具が収納されており、それを使用するために選択しなければならない。他プレイヤーと交換も可能である。
【通販】 急遽、武器や道具が必要になった時に買い物が出来る(場所によって無理な場合)もある。ただし、通常の買い物より倍以上のお金を要求される。
【MISSION】 現在引き受けている依頼を確認出来る。VIPからの依頼もあるかもしれない。
【ログアウト】 ゲーム終了時に使用。最低三時間プレイしなければ使用不可。更にセーフティゾーンでなければならない。道具によって条件は変化する事もある。




