譲渡
メイデンは神出鬼没な金髪の少女……の姿をしてはいるが、年齢不詳。本名なのかも分からない。メイデン本人が怪異を呼び込む体質なのか【人面犬】や【口裂け女】という依頼を受けて以来、怪奇依頼を持ち込む常連客となってしまった。といっても、どういう理由なのか捜査零課とメイデンは関わりが無い。
「このタイミングで別の怪奇依頼を受けるのは……ある意味、こっちも強制的ではあるんだよな」
新しい怪奇依頼を受けると、隠見が【ボーダーライン】に参加した場合のフォローをする余裕が無くなってしまう。けど、メイデンの場合は捜査零課には無かった、依頼の前金を振り込んでおく事で、やらないと駄目という気持ちにさせる。
「こっちが毎度金欠だとでも思ってるんだろうが、何処からあんな金が生まれてくるんだか。今回もろくでもない内容だろう……はっ?」
メイデンからのメッセージを確認してみると、本当に迷惑な依頼だった。
【メイデン】
最近知り合いが亡くなったんだけど、それから謎のメッセージが届いて、怖いから探屋が何とか解決してよ。他の人に送るのは無しだからね。
前金は十万。調査費用は後払いでよろしくね。解決したらメッセージで連絡。それ以外は受け付けないから。
このメッセージはまだ良い。直接会いに来る以外の依頼は大概こんな内容で書かれている。問題なのは次のメッセージだ。
【ボーダーライン】からメッセージが届いていた。メイデンは【ボーダーライン】の参加資格を俺に【譲渡】したわけだ。
「メイデンも選ばれてたのはどんな偶然だ? きっかけはアイツの知り合いが死んだ事か? あのゲームに関する事を目にしたとも考えられる」
それを知ろうにも、解決しなければメイデンから返事は来ない。そこは彼女も徹底している。
【ボーダーライン】からのメッセージも模倣された物ではなく、本物。隠見のスマホで見た文章と同じ。違いがあるとすれば、追伸部分がない。それと参加人数が8/10 返答待ちが2人になっているのは、誰かが参加を決めたんだろう。
「隠見と分かれて、そんな時間は経っていない。参加したのは別の誰か。残るのは俺と隠見だけか」
猶予は一週間。二人が【参加】を押せば、すぐさま始まるのか、それとも期限の一週間まで待つのか。参加する事で新たな情報が増えるのなら、片方が押し、何かしらの対策を考える時間を持てるかもしれない。
「こうなった以上、他の奴に【譲渡】はなしだな。メイデンからも言われてるし、他の奴等が誰も参加しないとも限らない。それよりも」
クリア報酬の『望む願いを叶える』事だ。隠見はSAWから参加資格を得たわけだが、それは【ボーダーライン】が直接送ったわけで、彼女を事前に調べた可能性はある。
だが、【譲渡】の場合はそう簡単な物ではない。メイデンの願いを引き継ぐのもおかしく、送られた人物の願いを当てなければならない。それは極めて難しい、不可能に近いと思う……人為的なものであれば。
気のせいかもしれないが、隠見のスマホで【ボーダーライン】を見た時には感じなかった、誰かに覗かれている感覚があり、背中に寒気を感じている。
俺はその寒気を振り払い、【参加】を押す前に俺自身が望む願いが当てはまるのか【ココ】をクリックした。
探屋真実が望むのは……
【大事な者の行方】【とある事件の真相】【・・の殺害】
この三つ。この全てが叶うわけではなく、どれかの内の一つだろう。
「濁してる部分はあるが……」
【大事な者の行方】と【とある事件の真相】を知る事は願っている部分があるのは確かだ。探偵になった、続ける理由でもある。その二つは共通している。だが、大事な者の名前ととある事件と伏せているのが気になる。
【・・の殺害】も同じだ。名前は記させておらず、誰しも一度は殺したいと思う相手はいただろう。だが、実際はそんな事はせず、その気持ちは消えていく。この願いは見当外れだ。
とはいえ、【過去に遡る】や【・・の復活】と不可能な願いは記されていない。叶える事が可能であるものが書かれている。これも怪奇的ではない部分かもしれない。




